2020/08/22

2020/08/22


 『不幸を押し付ける』、と言う言い回しには長らく疑問符を浮かべていた。


 八つ当たって事態が好転した試しなど此処十余年に有ったろうか。精々にして巻き添えを喰らわして伏した連中を眇尻目に眺めてほくそ笑んだのが関の山であったのではないかと記憶している。


 端から害意を向ける意図が有った分については当時それで構いもせずに居た。今時分に至っても、相手の不用意さを嗤うか嘲るか憤るかする程度だ。要は其の辺りが似合いの手合いと一方的に位置付けて居るのだから開き直りの心情にブレようもない。


 無論例外は在る。近寄らせまいと振るった腕が思いも寄らぬ強度で相手の胸を突いたならば、此には深く深く自省を促さざるを得ない。何より厄介なのは、其の目に遭わせた手合いは首位に及ばずともそれなりと言う表現を過ぎる程度には好感好意を抱いて過ごした相手でもあると言う点である。


 「おぉ、浮気の自白だ」

 「失踪中の彼是の責任については大概御互い様って結論出てんだろうが」

 「未亡人になってからの彼是の処遇については折衝してないと思うけど?」

 「おーおー、絶妙に痛い腹を突きおる」

 折衝、笑わせて下さる表現と思った。弁明の余地無く極刑を言い渡すべきとする自己嫌悪は如何な叱責にも引けを取らないと言うのに。


 「幸せになれたかもしれないよ?」

 最上を知って妥協できよう筈も無し。

 「無難に生きる方が余程"らしい"スタイルなんじゃないの?」

 上部だけ見ている有象無象からすれば正しくその通りでしょうとも。


 「捕まえて離さない俺を怨めしく思ったのは相手方だけだったのかな?」

 「…其れについてだけははっきり申し述べておきたいが」

 「良いよ?聞いたげる」

 悪戯な視線だ、その顔好きなんだよなぁ。


 「お前を怨めしく思うとしたら、現状の不足についてだけはそうだと思い始めた、最近」

 だってそうだろう。周りが幸せになってく中で、俺とお前が一緒に居られてればその丈を何れだけ高められたか知れねぇよ。ただ一人、お前だけが生涯の幸福に欠けている現状を惜しいと思って悪いこと有るか?


 「…謝らないでな」

 「どうかな、置いていく時には、悲しかったし申し訳なかったと思うよ」




 あぁこんなにも都合の良い言葉だけ吐かせている自分が嫌で仕様がない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る