2020/06/24

2020/06/24


 「『機を逸している』って言ったけどさ」

 何事も無かったかのように今宵もちゃっかりと背後に現れる彼に最早文句の付け様もない。


 「………晩飯の用意したいんで後で良いっスか」

 帰宅早々に寝不足の解消を図り仮眠を摂った私は寝起きには少々重たい残り物のカレーに火を入れたばかりであった。第一声からして何を言わんとする所なのかが容易に想像できてしまった為露骨な時間稼ぎで話題の転換を狙ってはみる。どうせお構いなしに二の句を告げるのだらうが。寝て起きれば大概の不機嫌を解消する私と打って変わって彼は些細な不興を長引かせる質であるからその時には愈々と観念しよう。


 「言う程に好機が巡るほど星の廻りが良いとも思えないんだけど」

 「やっぱりそうきやがったか」

 生まれ持った命運を呪うよりかは幾許か健全と思い立って使った言葉を容易く裏返されては立場が無いではないか。


 「とは言ってもな、顧みるにそう悲観するほど不運に塗れた道程でもなかったんだぜ」

 これに虚勢は無いと断言してもいい。

 「渇望すれば大概の物事は上手く行ったよ、色事なんか分かり易い程だ」

 自慢するのも烏滸がましいが戦う前から敗れた経験は少ないと、いや本当にこれ自分で言ったらすげぇキモいな。


 「だからな、上手くいかねぇ事は大概にして機が悪かったのさ」

 触れるだけで終わったなら其れは其れで受け入れるのも余生を楽しむ秘訣だと結論したのは何が切欠だったのやら。

 「それで本当に納得してるなら良いけど」

 棘の在る語調、何処を引き合いに出して言っている心算なのだか。


 「何れだけ事々が巡り廻っても帰る所が決まってるのは気楽で良いやな」

 「死人を体良く使うのは怒られるんじゃないんですかー?」

 「先方も俺に構う暇だって今更無ぇんだろうから問題あるまいよ」

 「拗ねちゃってまあ」

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