【6-7】臭気

【第6章 登場人物】

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428954319651

【組織図】帝国東征軍(略図)

https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927862185728682

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 ――この男、序盤戦において、我が軍に次々と勝利をもたらしただけのことはある。


 セラ=レイスの流れるような解説は、心地よさを感じるほどであり、エリウ=アトロンは、もう少し聞いていたいとの思いすら抱いてしまうのだった。


 総司令部を追いだされた彼らを、どの部隊も引き受けようとしなかった。


 ところが、彼らの有能さと働きぶりは脱帽ものであり、東征軍随一と言っても間違いなかろう。


 右翼の外れに左遷された後も、戦場を俯瞰ふかんして偵察を重ねていた紅毛の若者の姿勢に、この女連隊長は舌を巻く思いであった。


 かような者たちを手放さなければならなかった父の想いが、いまさらながら伝わってくるようである。


 同時に、総司令部や東都ダンダアクに漂う人事の臭気が、彼女の鼻腔にまとわりつくのであった。



***



 事態を重く見たエリウは、「ポイントD」への即時攻撃をうながすべく、動き出した。


 彼女は、直属の上官である右翼第1師団長・ゲイル=ミレド少将を介し、右翼第1軍団司令部へ意見書を送りつけようとしたのである。


 意見書の提出は複数回に渡ったが、セラ=レイスによる戦況分析も添えることを忘れなかった。


 しかし、それらは、父であり、帝国東征軍総司令でもあるズフタフ=アトロンのもとには1通も届かなかった。


「最前線に飛ばされた『味方殺し』の元・先任参謀が、未練がましく何か言ってきておるわ」

 と、第1軍団長・エイグン=ビレー中将麾下、ミレド少将をはじめとする右翼各師団の将校たちは、鼻で笑うだけだった。


 分析書などろくに目を通さず、ゴミ箱へ放り込んでいたのである。


 彼らは、王都ノーアトゥーンへ乗り込んだ後の略奪の順番と、戦後の昇進、自領の加増のことしか頭になかった。


 何よりいまは、ビレー中将陣営の一員として、慎重を期さねばならない。


 なまじ作戦行動を展開し、失態など犯した場合、敵対するブレゴン中将陣営に対し、後れを取ることになるからである。


 さらに、ヴァナヘイム軍は、布陣替えにひと月も要しており、そのような緩やかかつ静かな動きも、帝国軍主脳部に危機感を想起させない要因となった。



 ヴァ軍は、この日ものんびりと布陣改めを進めている。


 敵の総司令官は、知っているのだ。


 内輪もめに忙しい帝国軍が、襲ってこないことを。


 自分たちには、時間がたっぷりあることを。


「……なかなかやるじゃねぇか」

 レイスは丘の上で一人舌打ちした。


 それは、自らの迂闊うかつさ――アルベルト=ミーミルが司令官就任した折、その人物・経歴を調べなかったこと――をののしるものだった。





【作者からのお願い】

この先も「航跡」は続いていきます。


意見書と分析書、ゴミ箱から拾ってアトロン総司令官に届けたいと思われた方、ぜひこちらからフォロー🔖や⭐️評価をお願いいたします

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レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢



【予 告】

次回、「慰安所 上」お楽しみに。


ゴウラは周囲を見回し、アレン=カムハル少尉や従卒に何やら確認してからひとつうなずいた。


そして、こちらに1歩近づくと、力強く耳打ちしてくる。

「ここから少し下ったところに、慰安所が設けられたようですよ」

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