【2-11】天翔ける汽車
【第2章 登場人物】
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758/episodes/16816700428630905536
【地図】ヴァナヘイム国
https://kakuyomu.jp/users/FuminoriAkiyama/news/16816927859849819644
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ヴァナヘイム軍は、名もなき村落において混乱の極みにあった。
雷が数本まとめて落ちたかのような轟音が鳴り響くと同時に、丘上という丘上から無数の砲弾が降り注いだのである。
地面をめくり上げる爆風が、人馬もろとも上空に舞いあがった。土砂とともに人間の腕や足が、吹き荒れる風に翻弄されながら落ちてくる。
砲弾をやり過ごそうにも、周辺には頼りない家屋や古びた納屋以外、身を隠せるような場所はない。砲弾が山上という山上、山腹という山腹から
「う、撃てッ撃ち返せ」
「どこに向かって撃てと!?」
ヴァナヘイム軍総司令官・ヤンネ=ドーマルが弱々しく命じるも、幕僚たちは上ずった声で、命令不承知とばかりに反論する。
ヴァ軍の砲兵たちも必死に反撃を試みたが、狙いを定めることもできないうちに、圧倒的な数の砲弾が降り注ぎ、砲架ごと四散した。
「俺たちがいるのに砲撃をはじめるとは」
帝国東征軍・イブラ=マグノマン准将とその幕僚たちは、降りそそぐ砲弾のなかを逃げ回っていた。
彼らはヴァ軍の銃撃に押され、村落の奥へ奥へと後退していた矢先に、周囲からの砲撃を浴びることになったのである。
ヴァ軍が砲撃を受けていることから、発砲主は帝国軍なのだろう。だが、そのなかに味方が紛れていることに
この村落の周辺に、帝国東征軍の火力がすべて集められていたことを、マグノマン一味は知らされていなかった。
馬は
村落は
その上空を切り裂くように、轟音を引っ提げて砲弾が飛来してくる。まるで汽車が上空を走っているようだと、マグノマンが思った時であった。
一弾が、目の前の帝国紋章入り木箱の山に落下したのである。
次の瞬間、閃光と熱風によって、マグノマンたちは馬ごとなぎ倒された。引きちぎられ四散した彼らの肢体は、数十メートル先の土壁に叩きつけられた。
***
食器の奏でるヒステリックな音が部屋中に響き、美女5人から成る音楽小隊は、思わず演奏の手を止めた。
対面に座るアルイル=オーラムは、怪訝そうな視線を上げる。
ターン=ブリクリウは、本人も気が付かぬうちに、ナイフを取りこぼしていた。枯れ木のような手を滑り落ちたカトラリーが、純白のテーブルクロスに、赤い染みをつくっている。
帝国東岸領の最大都市ダンダアク――。
統帥府付きの伝令官が、緊急事態を告げるべく貴賓室に飛び込んだ。そこでは、生演奏が響くなか、上級大将とその
「……まことか」
緊急事態を耳打ちした伝令官に、ブリクリウは狐のような目を大きく見張り、2度3度、事実の確認をする。
しかし、報告内容が覆らぬことを察すると、この初老の傅役が落ち着きを取り戻すまで、さして時間を要さなかった。口元をナプキンで拭き終えると、いつもの喜怒哀楽に乏しい表情に戻している。
「……お見苦しいところをお目にかけました」
「何があった」
アルイルは、食事のペースが異常に速い。
ろくに
ブリクリウは、伝令官からの報告を整理して主人に告げた。
昨日、東征軍は68門もの火砲を1点に集中するという、大掛かりな作戦を発動させたそうだ。
「ほう」
脂光りするアルイルの口からは、感嘆詞と
帝国軍による砲火の集中運用は成功した。
しかし、その作戦遂行上に
「それは、気の毒なことをしたな」
傍らの女給仕に葡萄酒を注がせながら、肥えた上級大将は、関心がなさそうにつぶやいた。アルイルの視線は、給仕の白い腕、その付け根、そして胸元と舐めるように移動している。
「閣下、私は前線へ調査団を派遣する必要があると考えます」
「戦場に事故はつきものだ。そこまでする必要はあるまい」
たかがいち中級貴族の死因がどうであろうと、アルイルはさしたる興味もわかないようだった。
ブリクリウは
彼は、情に訴える手を採用することにした。「面倒くさいから、お前にすべて任せる」流れに持ち込むのだ。永年、傅役を務めてきたからこそ分かる、定石であり最善手だ。
「……マグノマンは、私の大切な部下……いえ、家族でした」
音楽小隊の奏でる曲調は、切なげで物静かなものになっていた。事前に打ち合わせしたかのような演出に、ブリクリウは内心、失笑を禁じ得ない。
「私が調査団団長として、明日にでも前線へ立ちます」
運ばれてきたババロアに手を付けず、傅役は主人に告げた。
「……まぁ、良いだろう」
アルイルの前に置かれたデザートは、既に影も形もない。
食欲が満たされた帝国宰相嫡男は、音楽小隊の奏者へ好色な視線を向けることに夢中であった。彼にとっての関心事は、硝煙臭い遠くの戦場よりも、甘い今宵の寝所にあるのだろう。
【作者からのお願い】
「航跡」続編――ブレギア国編の執筆を始めました。
https://kakuyomu.jp/works/16817330657005975533
宜しくお願い致します。
次回、「機関砲」お楽しみに。
発射、排莢、給弾、装填、発射……ガトリング砲が火を噴きます。
この先も「航跡」は続いていきます。
物語を楽しんでいただけましたら、ぜひこちらから🔖や⭐️をお願いいたします
👉👉👉https://kakuyomu.jp/works/1177354054894256758
レイスたちの乗った船の推進力となりますので、何卒、よろしくお願い申し上げます🚢
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