先輩と僕
ひとひら
第1話 靄
「ふう……」
「で、先輩。この状況は何なんでしょうか?」
「見て分からないの? 部活の真っ最中よ」
「部活の真っ最中で、なぜ先輩の生足が僕の脚の上に乗っかっているのでしょうか?」
夕暮れ時 先輩の横顔は赤い
上履きと中に押し込まれた靴下は 傷んだ床の上で大人しく役割を待っている
汗臭さは微塵も感じられない
当然だと思う 使用者が香しいのだから
僕は 日差しを背に浴びながら平静を装っていた
「それは、君が君だからよ」
スカートの裾がきめ細かな肌と調和する
意識の持って行き処に混乱を覚えながらも腰だけを更に引いた
「理由になっていない気がするのですが……」
入学して三日目に拉致どうぜんで入部させられた清廉部
部員は先輩と僕だけ
どうやったら部になるというんだ
麗しい先輩は 何故僕を選んだ
「理由は、君が君だからよ」
「意味不明です」
先輩が 脚を交差させる
思わず生唾を飲み込んだ
「分からないの? じゃあ考えなさい。死ぬまで待っていてあげるわ」
「微妙な言い回しですね」
「そう? 慈悲に満ち溢れていると言って欲しいのだけれど」
太ももを脹脛で撫でてくる
骨のない突起物が悲鳴を上げる
仰角はいらん 堪えろ
この人は 小悪魔ではなく悪魔だ
視線を合わせた殆どのオスを魅了する美
そんな先輩が 僕を見初めるように拉致した清廉部
「あの、この部は何をする部なんでしょうか?」
「読んで字の如く清廉を極める為の部よ」
「この状況。これは清廉なのでしょうか?」
「一つ一つは違ったとしても、大局的に見てそうなら違いないわ」
「その言い方からすると、今のこの状況は違うということですね?」
「解釈は貴方に任せるわ。何事も判断は個人のものですもの」
甘い吐息を咆哮
僕は 踵を高く持ち上げた
「まだ、寒いわね」
「春といっても雪は残っていますからね」
体を捻り 腕を伸ばして窓を閉めた
「その調子で弄ってもいいのよ」
「清廉部……なのにですか?」
「清廉に弄ってね」
返す言葉が見つからない
今日は 何時まで部活なのだろうか
「帰りたくなったら教えて。そうしたら、それから考えるわ」
「僕の要望は通りそうにありませんね」
「あら、では今すぐ立ち上がって帰れるのかしら?」
先輩がクスリと笑う
「……」
まだまだ部活は続きそうだ――
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