第110話 誕生日会5
「はい、どうぞ」
「ありがとう! 開けるぞ? よいな?」
「ええ、もちろん」
綺麗になったお皿を全て台車にうつして、飲みものとして水とお酒だけを机に乗せた状態でプレゼント交換を始めた。
まずはリナからだ。手のひらサイズの小さな箱はリボンで包装され、可愛らしい。
それを渡されたフェイはわくわくしながら、左手にのせた包みのリボンをそっと右手でつまんでひっぱる。するするとリボンは抜けていき、すぐに小箱の拘束はとかれた。
裸になった小箱を開けると中から小さな、短剣を模したブローチが二つ出てきた。銀細工でつくられたやや婉曲した短剣で十字部分に小さな青い宝石がはまっている。
「おおっ、格好いい飾りじゃのぅ。これはなんじゃ?」
「ブローチ兼髪止めよ。裏側を見てみて」
ひっくり返して見ると取手部分から剣の半ばまで留め具のためのピンが走っている。そしてその留め具部分は斜めに盛り上がっていて、はしっこを押さえると留め具が斜めに持ち上がり、手を離すとバネ仕掛けで閉まる。
空き箱は机に置いて、ぱちぱちと感触を確かめるようにハサミを動かすフェイに、リナは手を伸ばす。元々円いテーブルの少しだけ間を開けた隣に座っているので、すぐにフェイの手元に触れた。そのままフェイの手ごと持って、フェイの前髪をハサミ部分で挟んだ。
「こうして、髪の毛もとめられるの。それで」
そして手を離してもうひとつも箱から出して、フェイの服の胸元にさした。
「こうしてブローチにもなるの。フェイ、時々前髪うっとうしがってたし、ただのブローチよりいいかなって」
「ほおぉぉ、いいのぅ! かっこいいのぅ!」
髪の毛をとめているのは残念ながらフェイの視界には入ってこないが、胸元で光る様はよく見える。輝く短剣は実に冒険者らしくってフェイ好みだ。
テンションを最高潮にして顔をあげてにこっと笑顔を向けてくるフェイに、リナもほっとして微笑む。
最初の短剣は喜んで、今でも大事にし過ぎなくらいしてくれているので、こう言ったデザインなら間違いないだろうと思ったが、喜んでもらえて何よりだ。
デザインはもちろん、服や髪にぴったりそうので冒険時にも邪魔にはならないし、小さな宝石は成功を意味する石言葉がありフェイにぴったりだ。
もちろんリナには石言葉などひとつもわからないので、お店で店員にそのようにすすめられたのだが。
「ありがとう、リナ! 毎日大切に使うぞ!」
「ええ、そうしてちょうだい」
大切にしまうと言われるかとちらっと思ったが、さすがにそう言うことはないようだ。ナイフも一応使うつもりで持ち歩いているし、ましてつけているだけならそうそう汚れたり壊れたりもないのだから、身に付けもらわないと困る。
「じゃあフェイ、そろそろ」
「! そうじゃな。ささ、リナ! これじゃ!」
リナに促され、フェイははっと瞳をまるくしてから、慌てて机の上に置いておいた自分の小箱を持ち上げてリナに向けた。
「プレゼントじゃ。受け取ってくれ」
満面の笑顔で差し出されるプレゼントと言う、もうそのシチュエーションだけできゅんきゅんする。
「ありがとう」
同じく笑顔でリナは受けとる。妙に長いリボンは手のひらに小箱をのせていても床に届きそうなほどだ。フェイの想いの長さだと思ってスルーしよう。
リボンを手繰り寄せるようにして落とさないようにリボンをほどき、机の上にリボンを置く。そして小箱を開けると中からぱっと見何だかよくわからない綺麗な円いものがあった。
銀色で模様がかかれた指ぬきのようなものが重なってアルマジロのようになっている。
「これ、付け爪?」
取り出して重なっていた部分をのばすと、細長い四センチほどの爪で、指をさしこむと指先よりわずかに飛び出す程度だ。武器としての使用には向いておらず、装飾品だろう。
サイズを合わせるため、左手の指にはめていき、一番しっくりきた人差し指にはめることにした。指を曲げるとちゃんとあわせて動くので、動きに支障がでるるともないだろう。外側は金属面だが内側は関節に合わせて金属ベルト状になっていて、指を曲げれば自然と関節に挟まって抜け落ちないようになっている。
「うむ、魔法具でな、この爪の上の二重の部分あるじゃろ? ここを押すとここを中心に結界ができるようになってるんじゃ」
「え、えっ!? ま、魔法具なの?」
「うむ。アーロンにちと手伝ってもらったが、ほぼ私がつくったからの。ほぼ、ほぼの」
「えっ、つ、作ったの?」
「うむ!」
どや顔をするフェイは実に可愛らしいのでその頭を撫でつつも、リナは驚きにやや混乱していた。魔法具なんて、リナにとっては全く遠い存在だ。
そもそもあまり出回っていないし、まして冒険者が個人で身に付ける魔法具なんて、どれだけの値段になるのか想像ができない。しかもそれが手作りて。結界とか普段ぽんぽんフェイが展開しているが、普通に凄いだろう。
「えっと、えー」
「? だ、ダメじゃったか? やはりデザインか?」
「あっ、ううん! そうじゃないの! えっと、びっくりしちゃって。その、私は普通のアクセサリーだから、魔法具なんて、すごいなって」
「そうか。リナには怪我をしてほしくないからのぅ。これ、ここにの、私が魔力をためておくからの。上から押せば自動的に魔法が発動するようになっておるんじゃ」
リナの手をつかんで説明するフェイに、リナは驚くのをやめた。フェイがすごい魔法使いなんてのはとっくにわかってたことだ。なら魔法具だってつくれるだろう。よく知らんけど。
それよりも、フェイがリナのことを思って、自ら手作りで魔法具をつくってプレゼントしてくれた。その事が何より大事だ。それを思うとどきどきして胸があたたかくなる。
「ありがとう、フェイ。私のために。大事にするわね」
リナは心からの感謝と喜びを、笑顔で表現した。その笑顔に、フェイは可愛いなぁ、これが見れたならちょっとくらい頑張ったかいがあるものだと思った。できることなら、リナにはずっとこうして笑顔を向けてもらいたい。
そして少しだけフェイの心臓は早くなったけれど、お酒のせいだろうと解釈された。
○
プレゼント交換が無事に終わり、二人はそれからまたお酒を飲んで、いつの間にか二人とも眠ってしまった。
「っ、くしゅん!」
そして翌日、リナはくしゃみで目が覚めた。
「んわっ、とと」
目を擦りながら起き上がり、自分に寄りかかっていたフェイに気づいて支えてそっと寝かせた。
「んー」
フェイは口元をむにゃむにゃさせながらも、目を開けることなくリナの隣にころんと転がった。その様にリナは微笑む。
そして以前にも同じように、酔っぱらって同じ布団で目が覚めたなと思い出していた。
ドラゴンを退治して、浮かれて、どきどきしていた。そして、フェイが女の子だと知った。
あの時の気持ちはまだ覚えている。がっかりしたと言うべきか、何とも言えない状態だった。だけど今はそうではない。
今はむしろ、女の子でよかったとすら思える。可愛くて、特別なことではなくても、こんなに近くにいられる。少なくとも、異性だと思っていた時よりは距離は近づいた。
これでいいのかと思わなくもない。でももう、引き返せないくらい好きだ。少なくとも、こうしてフェイの寝顔を見ているだけで幸せな気分になるくらいには好きだ。
いつかもっともっと仲良くなって、フェイのただ一人になりたい。だから何も問題ない。このまま突き進むフェイと共にいよう。
一通りフェイの寝顔を堪能してから、お腹がすいてきたのでフェイを起こすことにした。
「フェイー、起きて。朝よ」
「んー、むー……んぅ、リナー?」
「そうでーす、リナですよー」
「んん。うむぅ」
目を覚ましたフェイは目をこすってやや前後に揺れながら起き上がった。ぐーにした手でぐりぐりしてるのが可愛い。
その様子を見ていると目やにがとれて満足したフェイはぐりぐりするのをやめて、ふにゃっと笑った。
「おはよう、リナ。今日からまた、頑張るとするか」
「ええ、おはよう」
自分が年をとること自体はそれほど意義を感じないけれど、フェイとのこれから一年は、十分意味がある。来年も再来年も一緒に誕生日を祝えるといいな、と思いながらリナはフェイに笑顔を返した。
○
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