第37話 パーティー勧誘

 エメリナに固定パーティーをくむつもりがないことを話してから、一緒に依頼をこなすことが増えた。

 セドリック除けの意味もあるが、やはり1人より2人の方が何をするにも楽しい。失敗をしても2人なら笑い話にできる。


 キャストの魔法の様子を見るということで数度依頼を共にしたりしていると、何度か他の人間からも誘われるようになった。セドリックにも捕まって、すでにお金は返したから安心しろと言われて、嫌々共に依頼をこなしたら案外普通だったりした。

 そうこうしていると、フェイがこの街に来てから3ヶ月と少し、季節は春から夏へと移ろうとしていた。じっとしていれば気にならないが、体を動かすと少し汗をかく。

 フェイは薄着になっていた。具体的には半袖半ズボン。ただし高祖父から譲られたケープもどきは冒険の必需品なので身につけたままだ。


「うー、あっついのぅ」

「そんな格好しているのに?」

「首元が暑くてたまらん。室内なら空気を冷やすんじゃが、外だとすぐに空気が逃げるから一瞬しか意味ないしのぅ」

「脱げばいいじゃない」

「さすがにそうはいかんじゃろ。というか、さっきは依頼に半袖半ズボンなんてと批判したくせに」

「そりゃ、普通は草にかぶれたりしなようにもあるし、布一枚でも攻撃防げるように長ズボンが普通よ」

「そもそも、エメリナなんて、わしより短いズボンのくせに」

「私はちゃんとかぶれないよう薬ぬってるしサポーターもつけてるし、遠距離攻撃なんだから基本軽装でいいのよ」


 フェイが暑さに耐えかねて衣替えをする前から、エメリナはすでに丈が5センチほどしかない短いズボンで、代わりに長い靴下と膝当てをつけている。上半身は肘までの服で同じく肘当てをつけている。

 フェイは前からだが、遠距離だからとサポーターにあたる類を含めて防具を全く身につけていない。一応ケープもどきは魔法で強化されているので問題ないのだが、しかし露出された手足は完全に素肌をさらしていて無防備に感じるのも無理はない。

 しかしそれはエメリナ視点であって、フェイとしてはエメリナも負けないくらい丈が短いのに、冒険に向かない格好じゃないかとか注意されたのは納得いかない。


「わしだって遠距離じゃし、いいんじゃ」


 それなりに駆け足で依頼をこなし、現在フェイは17ランクになっていた。それはフェイの中では遅すぎるくらいだが、一般的には早すぎるくらいだ。


「まぁ、フェイがいいならいいけどね。というか、魔法で涼しくってできないの?」

「できるが、空気を冷やしても野外ではあまり効果がないからのぅ」

「風だけでもいいんじゃない?」

「それで我慢するしかないの」


 あまり強く風を起こしてしまうと、空気の動きや匂いによって魔物に気づかれてしまっては街を出てきている意味がない。

 ちょっとだけ、そよ風を自分の前からふかせる。少しは気持ちいいが、それほど効果はない。もう全裸になって水浴びしたい。最近は夜の水浴びを欠かしていないが、昼にも欲しくなる。


「ねー、ちょっと、自分だけずるくない?」

「そんなにきかんぞー。ほれ」

「ん。全然違うじゃない。ありがとー」


 エメリナにも風を送るとそれまで無風だったので、その対比にエメリナは声をあげた。しばらく前からフェイは自分には風を送っていたので、自分ではあまり感じなかったのだ。


「そうかのぅ」

「ま、とりあえずもう一狩したら帰りましょうか。日が高くなったけど、そろそろ良い時間でしょ」

「うむ。そうじゃな」


 今日の狩りではまだまだフェイのランクアップは遠い。気乗りしないが、じっと風を受けていると汗もひいてきた。さっさとやって、帰るとしよう。









「フェイー、ようよう、奇遇だな」

「よう、おはよう」

「あ、おはよう、フェイさん」


 朝、エメリナと共に教会に行くとセドリックとジュニアス、そして先週共に依頼をこなした線の細い男子、ザックがいた。彼らは先週から固定パーティーをくみだした。


「うむ、じゃ、そういうことなのでわしは帰る」

「こらこら。もー、フェイ。セドリック嫌いもいい加減にしてよ」

「うー、そういうわけではないのじゃが。条件反射で避けたくなるんじゃ」


 強引で人の話も聞かないが、悪人ではない。挨拶やお礼もきちんとするし、基本的に明るく人当たりも悪くない。今となっては大嫌いで顔も見たくないとは言わないが、それでも苦手意識はどうにもならない。


「相変わらず嫌われてんなー」

「え? ジュニアスが?」

「なんでだよ」

「あはは……えと、フェイさんとエメリナさん、良かったら今日くまない?」

「依頼内容は?」

「5人なら量のある物がいいよね。猛烈牛とか?」

「西側の草原に、そろそろ渡り鳥くる頃だしそれはどうだ? 一網打尽にしようぜ!」

「おいセドリック、渡り鳥ってあれだろ? 雪鳥だろ? どうやって一網打尽にするんだよ」


 三人もまだ依頼内容は決めていないらしい。

 エメリナは話し合いを始める三人に肩をすくめながらも、フェイに提案する。


「雪鳥なら、人数が必要だし、私は一緒でもいいと思うけど、どう?」

「うーむ。そうじゃのぅ」

「お、まじか。んじゃ」

「おい。おめぇがフェイか?」

「ん?」


 ドスの利いた声が後ろからかけられ、フェイは振り向いた。そこには大男がいた。身長の高さもだが、横にもまたデカい。分厚い金属鎧をつけていて、大きなビア樽のようなシルエットになっている。背中にはこれまた長く大きな剣を背負っている。

 そしてその大男の隣には薄着の女と、後ろには10人の男がいた。女以外は戦闘鎧をつけていて冒険者だろうが、女はドレスに似たスカート姿でとても外に出て行く格好には見えない。


「如何にもわしはフェイじゃが、なんじゃ?」

「おめぇ、最近話題になってる魔法師だろ。結構やるんだって? テストしてやるよ。腕が立つならうちにいれてやる」

「はあ? お主は何を言っておるんじゃ。というか誰じゃ? エメリナは知っておるか?」

「んーと、面識はないんだけど。多分、赤獅子団、よね?」

「おうよ。つーか、お前俺様のことを知らねーのか」

「すみません。この子、まだこの街に来てから浅いもので」

「しゃーねーな」


 全く訳がわからないフェイだが、エメリナの反応を見るに有名な人間らしい。しかしその有名らしい偉そうな大男より、フェイとしてはその隣の女に興味があった。


「? あら坊や、気になる?」


 フェイがじっと見るのに気づいた女が妖艶に微笑みながら、自分の左胸を軽く持ち上げる。その女はとても胸が大きかった。フェイの頭が中に収まるほど大きい。

 持ち上げたことで周りから見ていた者から歓声があがる。


「うむ。お主の胸は何故そんなに大きいのじゃ? 子供が何人いればそんなに大きくなるのじゃ? 重くはないのか?」

「………子供が、いるように、見える?」


 女はどこかひきつったような顔で問い返した。質問は無視されたが、そのように返事をするということは、子供がいないと受け取れる。

 フェイは首を傾げた。女性の胸と言うのは個人差はあれど子供がいるほど大きくなるものだと思っていたので、彼女ほど大きいのなら5人くらいいてもおかしくないと考えたのだ。


「子供がおらんのに胸がそんなに大きいのか? 何故じゃ? エメリナ、胸とは、なんの為にあるのじゃ?」

「え、いや………私には、聞かないでくれる?」

「ん?」


 エメリナは目をそらして低い声で応えた。その反応にさらにフェイの頭は傾く。エメリナの胸は小さいが、だから胸の使い方を知らないのだろうか。


「まぁ、よいか」


 不思議ではあるが、もしかしたら何か理由があって大きいのかも知れない。あんなに大きくては走るのも大変だろうし、可哀想だ。話題にしては失礼だったかも知れない。

 フェイは反省しながらも、女は胸が大きいのを気にしているようでもないので軽く流すことにした。


「それで、赤獅子団じゃったか。わしは団とやらに入るつもりはないし、お主にテストしてもらう必要もないぞ。他をあたってくれ」

「あん? ガキだからって舐めた口きいてんじゃねーぞ? 魔法師は珍しいから、使えるようなら使ってやるっつってんだろーが」


 その物言いにフェイはむっとして眉をよせる。確かにフェイは彼より幼いかも知れない。しかしフェイは間違いなく成人年齢を越えているし、実力だって十分のつもりだ。年だけで半人前として軽んじられるいわれはない。


 それに、フェイは魔法師ではない。今はそのように言うのが流行りなのか知らないが、フェイは魔法使いだ。それは譲れない。


「わしは魔法師ではない」

「あ? んだと?」

「わしは、魔法使いじゃ」


 自信満々に胸をはるフェイに、すごんでいた男は口を半開きにした変な顔をした。


「…魔法師でも、魔法使いでもどっちでもいい。魔法が使えるんだな?」

「うむ」


 少々毒気を抜かれた男はため息をついてから、仕方ないので説明をすることにした。さすがに来たばかりでよく知らないという子供に、一方的に怒るのは大人気ない。










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