ボッチの俺がいつのまにか最強認定されていた。……え、なんで?
赤月ヤモリ
第一章 我ら思う、故に彼有り。
第一話 夢の高校生活一日目(平穏)
夢の高校生活というものが本日より始まる。
俺の気分は最高潮。
真新しい制服に袖を通し、鏡の前で確認する。
うん、今日も下の上だ!
見慣れたブサメンが鏡の中で制服に着られている。
中学時代は学ランであったため、ブレザーというものに違和感を覚えるが、最初はこんなものだろう。
「それじゃあ、行ってきます」
誰も居ない家に向かってそういうと、俺は玄関を飛び出した。
†
桜舞い散る季節である現在。
私立
とても奇麗だ。これからの高校生活に対する期待はうなぎ登りのこいのぼり。
こいのぼりは五月か。
毒にも薬にもならぬことを考えながら校門をくぐる。
周りは同じ新入生と思しき生徒で溢れ返っていた。
自然と胸が高鳴るのを感じる。
でも話しかけることは出来ないチキンハート。仕方ないね、ボッチだからね。
中学時代の知り合いも居ない俺は、誰とも歩くことなく一人でクラスが発表されている掲示板に赴く。
途中で部活動勧誘と思しき集団が居たが、そこは天下のブサメンだ。
文化部の——それもオタクチックな部活の紙だけ渡された。
サッカー部とかバスケ部とかも渡していいのよ? と一瞬思ったけれど、ボールに弄ばれる未来しか見えないので絶望。
受け取った数枚の紙を鞄に入れて、発表されていたクラス——一年五組の教室へ向かった。
教室のドアを開けると、すでにいくつかのグループが出来ていたが、先に席だ。
自分の名前を探すと、窓際の最後尾――所謂主人公の席に『
マジかよ、やったぜ。
向かう際に、教壇に立って先生の視点を確認するのも忘れない。——うん、いい感じに見えにくそうだ。
着席して一息つくと、さっそく友達を作ろうとして。
――どうしよう、友達いたことないから作り方がわかんないや。
頭が真っ白になるとはこのことだろう。
兎にも角にも周りに自己紹介でもしておけばいいか。よし。
いざ周りを伺ってみる。
すると台風の目とでも言わんばかりに俺の周りには誰も居なかった。
いや、机に鞄が置いてある当たりきっともう登校してはいる。
おそらく教室内で友達作りに励んでいる彼ら彼女らの誰かだろう。
席が近い人は後でも話せるから、それは正しい判断。
ただ、俺がちょっと困るだけである。
結局、HRが始まるまで俺は誰とも話すことは無かった。南無三。
担任が入ってきたことで、周囲の席の人たちが座り始める。
前方はツーブロックの少年。
見るからにサッカー部。
そしてイケメン。
クラスのモテ男ランキングとかで上位に食い込むこと間違いないだろう。
俺? 俺が入るとかどんなブサメンランキングだよ。
まぁ、男はどうでもいいんだよ男は。
俺は隣の席をちらりと見やる。
黒髪ボブのとんでも美少女が居た。
え、凄い可愛い。
というか、彼女以外もこのクラスの女子のレベルが総じて高い。
嘘、俺のクラス(顔面)偏差値高すぎ!?
因みにお隣さんは
曽根川
ま、記憶したからと言って話しかけられるかは別問題なわけで……。
「これから入学式の行われる体育館に向かう。出席番号順で並べ」
担任の言葉に従い入学式に向かった。
現在の発声回数――零。
本日は晴天なり。
†
気が付くと、家に居た。嘘だけど。
家にいたというのは本当で、気が付くと、が嘘。
普通に覚えている。
入学式は、校長先生の有難いお言葉を夢の中で拝聴していたら終わっていた。
そのまま教室に戻ると、自己紹介でもしていこうか、という流れになり、出席番号順に自己紹介をしていくことになった。
出席番号一番の剽軽者から自己紹介が始まる。
俺は考えた。
ここでおちゃらけてみれば、少なくともボッチは脱却できるのでは? と。
「出席番号一番!
考え事をしていると、麻生くんがおちゃらけた。
結果、彼と仲が良いと思しき男子生徒がギャハギャハウケていた。
なるほど、これが身内ネタという奴か。
彼ら以外はしらーっと、どこか冷たい様子。
それでも拍手が起こったのは、身内が居たからか。
危ない危ない、ボッチの俺には無理な話だったか。
だったらここは最近の流行の曲なんかが好きなんで、趣味の合う人は話しかけてくださーい、とでもいうか。
最近の流行って誰だっけか? そんなことを考えていると、前のサッカー部と思しき男子生徒まで順番が回っていた。
彼は立ち上がると、抑揚なく、淡々と語る。
「
クールだ。
こんな彼の後に、同じような内容を被せることは果たしてできるだろうか。
いや、出来ない。
何故って? 俺、ボッチだから。
拍手が鳴りやむのを待って、立ち上がる。
みんなの視線が集まるのを感じつつ、俺は口を開いた。
「あ、えっとっ! そ、その、映画鑑賞とかが趣味でぇす! あっ、な、名、前は、さ、佐藤景麻です! よろしく、お願いします」
……やっちまったぜ。
裏声×ドモリ×噛み×名前を最後に言う=青春の終了。
きっと俺の顔は今リンゴの如く真っ赤だろう。
だ、誰か! 誰か俺を殺してくれ!
メーデーメーデー! 処刑人はまだか!
その後の自己紹介は覚えていない。
むしろ、自己紹介自体思い出したくない。
こうして俺の高校生活初日は、青春の一ページに新たな黒歴史をこれでもかと刻み込み、終了した。
因みにお隣の曽根川さんの自己紹介だけはめっちゃ聞いた。超聞いた。
可愛いかったです、まる。
先ほどの出来事を思い出しつつ、俺はソファーに顔を埋める。
恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしい! もう、馬鹿! 俺の馬鹿!
しばらくじたばたと藻掻き苦しんでいると、落ち着いてきた。
なのでお昼ご飯を作る。
本日は入学式とガイダンスだけだったので午前中までだったのだ。
キッチンで何を作ろうかと考えつつ、冷蔵庫を覗く。
碌なものが入っていない。
買いに行くしかないか。
面倒くさいなぁ。
こういう時、一人暮らしが面倒くさくなる。
俺は一カ月ほど前から一人暮らしをしている。
高校から二駅離れた場所に部屋を借りているのだ。
三階建ての集合住宅で、内装はそれなりに綺麗。
築五年は伊達じゃない。
当然先日まで中学生だったので、バイトなどできるわけもなく、家賃を払っているのは両親。
まぁ、それとは別にバイトをしようかな、とは考えているが。
だってお金とか欲しいじゃんね。
ゲーム機——じゃなくて、『友達』と遊びに行くのに使ったりするからね!
そうだよ、インドアな買い物なんてしない! 漫画もラノベも買わないって決めたんだ! 脱オタ! 脱ボッチ!
俺の青春は輝いてるぜ!
ま、今日は誰とも連絡先交換できなかったけどな。
スマホをいじりながらそんなことを思っていると、ツイッターで好きな作家さんが呟いているのが通知で流れてきた。
『《押しかけ妹とラブコメるのはいけないんですか? 3》が明日発売! 妹ととのいちゃらぶにニヤニヤしてくれたらオジサン嬉しいなぁ』
…………
……
…
「買わなきゃ」
脱オタはしばらく無理そうですね。
俺はため息を吐くと、スマホと財布を持って部屋を後にする。
家で料理するにしろ外で食べるにしろ、今ここで棒立ちしていても何も始まらない。
靴を履くと、玄関を開けた。
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