第27話 sideイネディット03 大侵攻作戦
再び余は、国境の村へとやってきていた。
空から村を俯瞰する。
此度の目的は、またも黒髪黒瞳の娘の捜索である。
「……おらぬな」
いまの時間は昼過ぎ。
村人たちはみな、畑に出るなりしてあくせくと働いている。
「…………ふむ」
こうして見ると、やはりペルエール王国の土地は肥えている。
作物の実りもよい。
オイネの枯れた土地とは雲泥の差だ。
飢えに苦しむ余の民を思い、気持ちを暗くする。
それはそうと、迷い人と思わしき娘だ。
一考する。
恐らく目的の娘は、魔女扱いを受けているはずだ。
ならば建屋内に囚われているのやもしれぬ。
もしそうだとするなら、こうして空から眺めるだけでは見つけようがない。
「るんららら~。……よし、できたわー!」
声につられて視線を向けた。
(あの娘は……)
栗色の髪をした年若い女だ。
たしか前に来たとき、声を掛けた娘である。
彼女は家屋の前庭で、切り株に腰掛けている。
どうやら裁縫をしているらしい。
「あの子ったらもう、いったい何度破けば気が済むのかしらねぇ」
あれは……、服か?
どうやらあの娘は、破れた服を縫い繕っているようだ。
「ほんっと、あたしがいないと、てんでダメなんだから!」
村娘は上機嫌に微笑んでいる。
もう一度、あの娘に接触してみようか。
(……いや、やめておくか)
前の反応に鑑みれば、まともな応えが返ってくるとは思えない。
きっとまたぞろ、王国の騎士どもを呼ばれてしまうだけだろう。
ならば、
漆黒の魔力球に魔力を灯した余であれば、闇と同化することも可能である。
「……いずれにせよ、出直しだな」
この場での捜索は諦め、余は国へと戻った。
宮殿に帰り着いた。
余のもとに、爺がしずしずと寄ってくる。
「陛下。シャハリオン帝国からの使者が、参っております」
シャハリオン帝国。
それは王国に反乱を起こし、自らを皇帝などと僭称しだした、シャハリオン元辺境伯の領地のことである。
だが実のところ、この謀反には裏がある。
余の解放国家オイネが、その糸を引いているのだ。
我がオイネは王国北東方面にある。
そしてシャハリオン元辺境伯領は、王国南西側に位置していた。
協調すれば、両方面で王国を挟撃する形が出来上がる。
それゆえ余は、王国からの独立を目論むかの辺境伯に目をつけた。
余にとって実に都合が良く、与し易い相手だったのである。
今のところ
「お会いになられますか?」
「会わずともわかる。どうせ、追加の兵の無心であろう?」
「仰られます通りかと存じまする」
「……なら、応じてやれ」
これまでシャハリオンには、随分と力を貸してきた。
ひとえにこれから余が起こす、王国への大侵攻作戦のためだ。
かの辺境伯は愚物とは言え、手塩にかけて育てた反王国戦力。
ここで倒れられるわけにはいかぬ。
「しかし陛下。それでは我が方の兵が薄くなりますぞ?」
「……わかっている」
我らとて決して、潤沢に兵があるわけではない。
むしろ余裕などないと言えよう。
「何度も言っておろう。足りぬ分は、余が前線に出て補う」
「……やはり、爺は賛同しかねますじゃ」
「くどい。これは女王たる余の決定だ。口を挟むな」
「……陛下。……出過ぎた真似をお許しくだされ」
余は爺に、鷹揚に頷いてみせた。
もう間も無くだ……。
もう間も無く、憎きペルエール王国めに、正義の鉄槌を下すことができる。
「では陛下。もうひとつよろしいですかな?」
「まだあるのか? 申してみよ」
「……儀式の件に御座います。宮廷魔術師たちが御身にご足労願いたいと。なんでも陛下の魔力にあわせた調整が、いまだ難航しているそうです」
「またか……」
これで何度めだ。
やはり生半な儀式でないだけあって、魔術師どもも苦労しているのであろう。
「どうなさいますか?」
「一刻の後に向かう。伝えておけ」
この儀式は、侵攻作戦の要だ。
疎かにするわけにはいかない。
しかし、儀式がなった暁には……。
余は黒の瞳に、暗い炎を灯した。
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