赤い蝶は夜空を舞う
ペケックス
始まりの物語り
プロローグ
夜、暗闇が覆う時間。しかし上を見上げれば星と月の輝きが見える静かな時間でも
ある。
その夜空を一匹の蝶が飛んでいた。その蝶は全体的に赤く発光しながらヒラヒラと
夜空を舞っている。
そして蝶の下を一人の男が通り過ぎた。月明りに照らされながら男は走った。
身なりはかなり良く、誰が見ても貴族とすぐにわかるような格好だ。
だがその表情は恐怖で引きつっており、涙と鼻水を垂らしながら全力で走っていた。
(殺される!このままじゃ殺される!)
そう思いながら脇目も振らず力の限り走り続けた。
暫く走り続けると、川が見えた。男は立ち止まり後ろを振り返る。
後ろからは誰も来ていなかった。
(に、逃げ切ったか?)
そう思うと少し安心した。そして川べりに座り込み、川の水を手ですくって飲んだ。
(何故、何故貴族の私がこんな目に…)
そう思うと恐怖がよみがえってくる。それを洗い流すように顔も洗った。
(何故私がこんな目に!)
男は考える。確かに民衆から金を巻き上げた。見世物の為に貧困の村の女子供を金で買った。出来損ないの使用人を何人かぶり殺しにはした。だがそんなことは貴族であれば誰もが多少やっていることだ。恨まれる筋合いはない。
それよりも私は国に投資した。私の力で政治家になったものもいる。私のお陰で身の回りの人間の生活は自分の父の代より良くなっている。
(そうだ!私は偉大なる存在だ!金は腐るほどある!)
「み~つけた。」
ふと男の後ろから声がする。男は恐る恐る振り返る。
そこには白いフード付きのマントを被った人物が立っていた。声から察するに恐らく
女だ。
(追いつかれた!)
男は慌てて尻もちをついた。そうこの女が一瞬で護衛8人の首を撥ねたのだ。
「ま、待て!待ってくれ!誰にやとわれた!?いくらだ!?金なら山ほどある!本当だ!」
男は混乱しながらどうにか言いたいことを女に伝える。
「わかったわかった。じゃああたしはこっから動かないから。」
女はやれやれといった様子で答えた。男は少しホッとした顔をしたがすぐに怒りの顔をした。
「全く…金で雇われた傭兵風情が!で?いくらだね?」
「何か勘違いしてない?あたしは動かないだけだよ?」
すると、辺りからぞろぞろと人が出てくる。大体20人ほどだった。老若男女入り乱れているが、皆その顔は怒りに満ちている。あっという間に男は囲まれてしまった。
「なんだ貴様ら!?下民が!貴族であるこの私にたてつく気か!?」
そう言った瞬間、男は急にその場で動けなくなった。まるで足に根が生えたようにその場で動かなくなる。
「あ、足が動かん…!」
足だけではなく、手も動かなくなった。見ると何か白く光るものに掴まれているように見えた。そうしている間に男を取り囲んだ人々はじりじりと距離を詰めていく。
「お前…お前は!よくも…よくも妹を殺したな!!妹は生まれつき体が弱かったんだ…聞いたぞ!先週お前が妹を殺しったてな!!許さねぇ…許さねぇぞ!」
集団の中の一人の男が持っていた棒で貴族の男を殴りつける。男は体が動かないで
抵抗することも出来ずにその一撃を身体で受ける。
「ぎゃあああああああああああああ!!!!!」
叩かれた痛みに男は悲鳴を上げる。だが集団はそれを皮切りに貴族の男を棒で叩いたり、石を投げたりと動けない男を全員で痛めつける。しかし、足も手も動かないため、逃げることも、伏せるこも出来ない。
暫く、男が暴力の雨にさらされる。男は悲鳴を上げ続けていたいが、次第に声も出せなくなったようである。しばらくすると男は全身を傷だらけにされ、立ったまま気を失っていた。
集団のリーダー格の男が、その光景を後ろから見ていたフードの女の所へ行く。
「これからこの男を村に連れ帰って処分を決める。こいつに女子供を滅茶苦茶にされた仲間はたくさんいる。あんたが護衛を倒して追い込んでくれたお陰だ!これで少しは村の連中の気も晴れると良いが…っと報酬がまだだったな。本当にこれっぽっちで良いのか?」
リーダー格の男は赤い実の果物を一つ差し出した。
「ああ、匿ってくれた礼さ。実はあたし結構やばかったんだ。あれ?お姉さんどうしたの?こっちまで歩ける?」
そういうと集団の中で一人咳込んでいる女がヨロヨロと歩いてきた。女は見るからに顔色が悪く、痩せこけていた。
「こいつは…3ヵ月前このクソ野郎に妹を取られて…俺の妹と同じく見世物にされて殺されたんだ。それからあまり食べてないみたいで…流行り病にかかってごらんの有様だ。だが、妹を殺した奴に復讐できるならって無理やりついてきたんだ。」
男がそういうと、フードの女は先ほど報酬で貰った果実に何らかの呪文を掛けた。すると果実が少し光始めた。
「じゃあ、これも匿ってくれたお礼。食べて。」
そう言い、衰弱した女に差し出す。女は少し戸惑いながら弱々しい手で果実を受け取り、それを一口食べる。
刹那、女は見る見る血色がよくなる。先ほどまで衰弱していたのが嘘のようだった。
女は果実を口に運ぶたびに痩せこけた身体は膨らみを帯び、いつの間にか咳も出なくなっていた。
「…奇跡だ。」
集団の中の誰かがそういう。すると周りがわぁっと声を上げる。先ほどまで衰弱していた女も一気に回復した喜びで満ち溢れている。
「あの…ありがとうございます!妹は助からず、死ぬことも考えました…ですが、
あなた様に与えられた新しい命!どうかあなた様の為に使わせてください!」
女はそういうとその場で正座をし、頭を下げる。すると目の前で奇跡を見せられた全員が正座をし頭を下げた。それを見てフードの女は「そうだな…」と少し考える素振りをする。
「じゃあ、1つだけ…」
そういうとフードの女は何かの術を詠唱する。するとその場にいた全員がパタパタと倒れていった。
「信仰するものには慈悲を…殺したわけじゃないから、ごめんね!」
そういうとフードの女は闇に紛れ消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます