第107話【彼女の思い前編〜〜千葉春夏〜〜】
時は少し巻き戻る。
少女は流れに逆らう想い人の背中を一人しかいない教室で見ていた。
彼との最初の出会いは入試の日。
その日は大切な受験の日だと言うのに筆箱と教科書を何冊か忘れてしまった。
そんな時隣の席の男の子が話しかけてきた。
「なにか忘れ物したのかい?」
突然話しかけられたことによりびっくりする。
「は、はい……」
近著していたのか口調もいつも通りと言えるものでは無かった。
「何を忘れたんだい?」
「筆箱と教科書を何冊か………」
「ならこれを貸してあげるよ」
その男の子は私に教科書とシャーペンとその芯など、忘れてきたものを貸してくれた。
「本当にいいんですか?」
これを貸すということは彼は勉強できないということになる。
「大丈夫だよ
これは僕のじゃないしね」
「え?」
「君が困ってるのに気が付いたのは僕じゃなくて、僕の目の前にいる彼なんだよ」
確かに彼の目の前には自分の腕を枕にして下を下を向いている人がいた。
大切な受験の日に寝ようとするなんてありえない。
「本当なんですか?」
そんな人が気がつくはずがない。
そう思ってしまう。
「本当だよ
いつもあんな感じだけど、本当は優しい性格をしてるんだ」
「そうなんですか」
本当なのか気になった。
話しかけてみたくなった。
自分で言わず、隣の彼に頼むということは内気な性格をしてるんだろうか。
色んなことが気になった。
そんなことで受験の緊張なんてすっかり消えていた。
それに変わり、左斜め前の人が気になって仕方なかった。
◇◆◇◆◇◆
テストが終わり、借りたものを返す時に名前を聞いた。
「僕の名前は中村司だよ
目の前の彼の名前は橘涼介って言うんだ」
橘涼介……。
覚えた。
入学出来たら話しかけてみよう。
「うちの名前は千葉春夏って言います」
「千葉さんね、合格出来たらよろしくね」
「はい」
そして、3人とも合格出来た。
入学して一年目は彼とは違うクラスだった。
だから話すことが出来なかった。
入学して1ヶ月が経った頃には学校生活も慣れ、中学と同じいつもの口調で相手と話していた。
彼とはたまに見かけるという関係のままだった。
それに見かけても会釈もしない。
私だけが知っているかのようだった。
そのまま1年が過ぎる。
どう話しかければいいかわからず、未だに話せていない。
幸いクラスが同じになれたため、話す機会はあるだろう。
そう思ったまま、約半年が過ぎた10月。
彼は体育祭で1年の可愛い子の中でもとびきり可愛い美少女である中村凛華と仲良さそうに2人で借り物競争をゴールしていた。
2人は付き合っているのだろうか。
色々考えてしまう。
しかし、その全てが未だに涼介と話せていない春夏には分からなかった。
その時から春夏の胸にモヤモヤとした感覚が現れた。
彼と話してみたいが恥ずかしい。
彼のことが気になって気になって仕方なかった。
それは恋というものだった。
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