第94話【じっと見て】
「涼介くん行こうかぁ」
HRが終わると春夏がそう言った。
「あぁ、そうだな」
「じゃ、またあとでね!」
「うん」
真央と田中は部室に寄ってから行くということで春夏の家で集合することになっている。
涼介は1度家に帰って、家にある今回の数学の範囲をまとめたノートを取ってから行くと言ったところ春夏もついて行くと言ったので春夏と共に家に寄ってから春夏の家に行くということになった。
「こうして涼介くんと二人で歩いているとうちたちカップルみたいだねぇ」
校門を抜けるとそう言った。
「そうか?」
「うん
だって男と女が二人で歩いているんだよぉ
複数人だったらまだしも2人で歩くなんて特別なことがないとそんなことないからぁ」
特別なこと……。
涼介にはそう思えなかった。
普段から凛華と2人で学校に行き、モールや遊園地などに行ってたりしていたため、その辺の感覚がおかしくなっていたのだろう。
そんなことを考えていた。
「黙っちゃってどうしたのぉ?」
「いや、なんでもない」
「ふふ
女の子と2人でいる時に他の女の子のこと考えちゃダメだよぉ
ちゃーんと隣にいる
春夏はいつも醸し出しているゆったりとした雰囲気はなく、しっかりと涼介のことを見ていた。
「そ、そうなのか?」
初めて見る春夏のこの雰囲気に後ずさってしまう。
「うん
男の子だけじゃなくて女の子も二人でいる時はその男の子のことをよーく見て考えているんだよ
例えば、歩幅とか」
涼介と春夏の歩幅はほぼ同じくらいだ。
「涼介くんがうちに合わせてくれてるよね?」
「そんなことは無いが…」
「なら涼介くんは無意識にうちの歩幅に合わせてくれてるほど優しいんだ
それに2人きりで歩くことに慣れてるんだね」
普段から凛華と歩いていたため無意識に合わせるようになったのかもしれない。
それに最近はよく誰かと一緒に歩いていたのもあるかもしれない。
「ほらまた黙っちゃって、違う女の子のこと考えてたでしょ?」
「いや…別に」
誤魔化したが、春夏がじっと顔を見てきたためおそらく嘘だと気がついているだろう。
「目が泳いでるよ
ちゃんとうちのことを見て?」
春夏が足を止め涼介の方をむく。
「涼介くんから見たうちの背丈はどのくらい?
うちが今どう言う気持ちだと思う?
うちが涼介くんのことどう思ってるかとか
うちのことをよーく見て考えて?」
そう言われたので春夏のことを見るしかなかった。
長い髪の毛、所々が茶色になっている。
おそらく染めているのだろう。
胸はそこそこ大きく同世代でも目立つくらいだ。
顔は可愛く、普段はゆったりとした感じだが、今は真剣にこちらを見ている。
そこにいつもの雰囲気はなかった。
「もぉ、そんなにじっくりと見たら恥ずかしよぉ」
春夏は顔を手で隠した。
「お前がよく見ろって言ったんだろ…」
「もぉ、冗談だよぉ
ぜーんぶうちの演技だよぉ」
手を下げて隠してきた顔を見せるとそこにはいつものゆったりとした雰囲気があり、さっきまでの雰囲気はなかった。
「騙されるなんてそんなにうちの演技が上手だったのぉ?」
春夏は微笑みながら聞いてくる。
「あれが素だと思ったよ」
「ふふ、ありがとぉ
それで本当にじっくりとうちのこと見てくれる涼介くんは素直で優しいんだねぇ」
この後涼介の家に寄ってから春夏の家に向かい真央と田中を含めた4人で勉強したがあの時のような雰囲気の春夏は1度も見せなかった。
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