第87話【話し合い】

「そういえば、涼介は寝ていたからね」


「すまんな」


自分のせいで話し合いが進まないとなるとさすがに申し訳なくなる。


「いいよ

田中も聞いてなかったみたいだし、もう1回説明するよ」


「よろしく頼む!」


田中は元気よくそう言った。


どうやら本当に聞いていなかったようだ。


「とりあえず、体育館での出し物はユリエットていう………百合バージョンのロミオとジュリエットに決まったよ」


被らないかつ斬新、ロミオとジュリエットなら誰でも知っているような物だから妥当なものだろう。


「それでキャストは女の子だけだから余った男子がメインで出店やることになったんだ」


なかなかに合理的だった。

あれやりたいこれやりたいの偏りがなくて済む。


「で、何やることになったんだ?」


「ひつじ喫茶だろ?」


田中が得意気にそう言って話を遮った。


ひつじ……羊………の喫茶店……ピントこない。

ていうか、男も女も関係ないだろう。

そう思ったがすぐにあることが頭を過り田中の聞き違いということがわかった。

田中らしい間違いで笑えてくる。


「ははは

涼介は気がついたと思うけど、ひつじ喫茶じゃなくて執事喫茶だよ」


やはりそうだった。


「じゃあ、俺たちは執事喫茶の方か?」


「そうだね

でも、女子だけじゃ人手が足りないと思うし、出店の収益をどうするかって話になったんだよ」


出店の収益は元手の費用を返したら余ったお金はクラスで自由にできる仕組みになっている。

去年はクラス費用の足しにして、学年の終わりに盛大に使った。


「それで、どうなったんだ?」


「収益はクラスごとじゃなくて班ごとの収益にすることにして、班で自由にしていいそうだよ

人手の方は班ごとに男女1人ずつがユリエットの物作りをして、残りの4人で出すメニューの創作と衣装作りをすることになってるよ」


そのための席替えということか。

分け方にも申し分ないだろう。


「私が皆さんの衣装を作ります……!!」


葵が少し得意そうな顔でそう言った。


恐らく衣装を作れる人は班に1人はいるのだろう。


「まぁ、分け方だけど田中はユリエットの物作りの方で大丈夫だよね」


「任せとけ!」


若干心配はあるが料理や裁縫の方が問題ありそうだ。


「私もユリエットの方に行くぞ

料理とかは得意じゃないから」


真央が申し出た。


結局真央か春夏のどっちかだったのでちょうどいいだろう。


「よろしくね

みんなもこのわけ方でいいよね」


「いいよぉー」


「大丈夫だ」


「はい」


司は春夏と涼介と葵の同意を確認した。


「なら、とりあえずこの班で頑張ろうね」


「あぁ」


◇◆◇◆◇◆


放課後になり早速涼介と司と春夏はレシピについての話し合いをしていた。

葵は他の班の衣装係とどんな衣装にするか話し合っているため不在だ。


「とりあえずどうするぅ?」


「そうだな……喫茶店なら甘い物だよな」


お菓子やデザートなど色々なのが考えつくが、できるだけ安く量産できるものを考えなければいけない。


「そうだねぇ

そういえば涼介くんはお菓子とか作るのぉ?」


春夏の口調は元々がゆっくりとしているが、最後の言葉を微妙に伸ばしているせいかさらにゆっくりに聞こえる。


「まぁ、少しくらいな」


「司くんはぁ?」


「全然、料理は専門外かな」


「じゃぁ、この中で料理出来るのうちと涼介くんの2人だけかぁ」


「ごめんね」


「全然いいよぉ

それにぃ、私は涼介くんが料理できる方が意外だからぁ」


よく言われるため慣れている事だ。


「まぁな」


言われすぎてうんざりしていることなので適当に返す。


「何か作ったものとか写真撮ってないのぉ?」


首を傾げ微笑みながらそう聞いてくる。


余程興味を持ったのだろうと思い涼介はスマホの写真フォルダから画像を探す。

よく撮れたクッキーの画像を春夏に見せた。


「おぉー凄い映えてるねぇ

撮り方も気にするなんて意外だなぁ」


並べる順番から角度や光の当たり具合なども気にして撮った写真だったので褒められるとやった甲斐が有る。


「涼介は意外とこう言うことするよね」


「なんとなくやりたい気分だったからな」


「へぇー」


春夏は涼介をじっくりと見ていた。


「んー」


春夏は両手の人差し指と親指だけを袖から出し、指で四角形を作るとその内側に涼介を収めた。


「いいねぇ」


春夏は楽しそうに納得したような顔をしていた。


「どうした?」


さすがにここまでされると気になる。


「いやぁ、涼介くんは顔はそこそこ良くて料理も出来るからうちの好みだなぁと思っただけだよぉ」


なんの悪気もなくそんなことを言う春夏はからかっているのか本当に言っているのか涼介には分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る