第32話【凛華の怖いもの】

お昼を食べ終えると2人はゲームをして過ごした。

それから凛華は漫画を読み、涼介はタブレット端末で作業ゲーをするというようなそれぞれやりたいことをした。


「なぁ」


凛華が新しい漫画に手をつけたところで涼介は凛華に話しかけた。


「なんですか?

続き気になるんですけど」


「お前いつまで居座る気でいるんだ?」


時刻は17時と帰るにはちょうどよい時間になっていた。


「そーですね……じゃあこの漫画を読み終えたら帰りますかね」


雨は更に強くなった状態で降り続けており、ゆっくりしてたら更に強くなるだろう。


「そーか、なら早く読めよ」


服の乾燥は終わっているため、いつでも帰れる状況だった。


◇◆◇◆◇◆


「読んだら帰る」と言ってから30分程が経ったが凛華は帰る気配がなかった。


「おい、いつ帰るんだ?」


「だから、このを読み終えたらですよ!

さっきからそー言ってるんじゃないですか」


「それ言ってからお前2冊目に入ったよな?」


「そーですよ、だってこのを読み終えたらですもん」


「………今すぐ帰れ」


「えぇ~さっきまで先輩も納得してたじゃないですかー!」


「さっきはさっきだ」


「んんんーん」


凛華は口を膨らませてムツけたような顔をして涼介を睨んだ。


「そんな顔してもダメだぞ」


「はぁ……分かりましたよ」


凛華は観念したのか漫画を閉じた。


「よし、服はもう乾いてるはずだから洗濯機から取って着替えてこい」


「了解です

あ、先輩覗かないでくださいね」


「覗かねぇよ」


◇◆◇◆◇◆


「さぁ、出発です」


ジャージ姿から元々着ていた服にシフトチェンジした凛華が勢いよく外に出た。


「いや、テンション高ぇな」


念の為にと凛華を家まで送り届けようと思い涼介も外に出た。


「もー、先輩は元々テンション低いんですから、もっとテンション上げてください

雨だと余計に低く感じちゃいます」


「はいはい」


涼介は適当に受け流し、傘を開いた。

今度は先程とは違い傘は一人一つだった。


「また相合い傘します?」


「お前なんかとするかよ、それより早く行くぞ」


「えぇ~ゆっくり行きましょ」


「早くしないと司が心配するぞ」


ノロノロと歩く凛華に対し、涼介は催促した。


「先輩が相合傘してくれなきゃ私歩きたくないですぅ~」


「なら置いてくぞ」


「令呪を持って命ずる我と同じ傘に入れ!」


凛華は先程読んでいた漫画を参考にしたのか涼介にそんなことを言った。


「俺はお前のサーバントじゃないぞ」


「奴隷もサーバントも変わらないですよー

ご主人様の願いを叶えるのが仕事なんですから」


「はぁ……」


今まではこんなことを直接命令してこなかったため、してこないものなのだと思っていた。

だから完全に油断していた。

しかし、命令は聞かなくてはならないという約束のため実行しなければいけなかった。


涼介は自分の傘を閉じると、凛華の傘に入った。

そして、傘を持つのを凛華から涼介に変えた。


「いやぁ~先輩とこうしてまた相合い傘できるとは思ってなかったですよ」


「これなら普通に歩けるんだよな?」


「んー、あっ、こうしたら歩けます」


凛華は傘を持っいる涼介の腕に抱きついた


「おい、俺が歩きにくい」


「なら、ゆっくり歩きましょ」


涼介は諦めて何も言わなかった。

諦めたことが凛華に伝わったのか凛華は鼻歌を歌いながら歩き始めた。

その時


ゴロゴロ


と雷が鳴った。


その瞬間凛華は肩をピクッと震わせ、涼介の腕をさらに強く抱きしめた。


「大丈夫か?」


「え、え?な、何がですか~?」


凛華はいつものようにおどけた態度を取ろうとしたのだろうが不自然な感じになった。

再びゴロゴロと雷が鳴った。

すると凛華はまた肩を震わせた。


「お前雷の音か苦手なのか?」


「そ、そんなことは、ないですよ

せ、先輩こそ苦手なんじゃないですかー?」


「はぁ……確か俺遊園地でやったゲームの命令権まだ使ってないよな?」


いつ使うか迷っているうちに1日が終わっていたため、まだ残っている。


「は、はい……そーですけど…」


「なら命令権を使う

雷が怖いか正直に話せ」


凛華は嫌そうな顔をしたが約束は守るためなのか正直に話し始めた。


「そーですよ…怖いですよ、怖くて1人でお留守番とかできないタイプの人間ですよー」


ぶっきらぼうに打ち明けた。


「なら、尚更外にいると余計に怖いだろうから早く歩くぞ」


と涼介は言ったがもう凛華の家が見える距離に着ていた。

しかし、凛華は足を止めた。


「おい、どうした?」


「……誰も……ですよ」


凛華は下を向いて顔を見えないようにしながら小さな声で呟いた。


「え?なんて言った?」


「家に……いない……よ」


「もう1回頼む」


「だ!か!ら!

家に誰もいないって言ってるんですよ!」


何度も聞いたため、怒ったのか凛華はさっきまでとは正反対と呼べるほど大きな声を出した。


「お、おう

そうなのか…」


高校生にもなって雷が怖くて、1人でお留守番できないというのはとても子供っぽいと思ったが、学校での凛華が頭脳明晰で運動もできると、文武両道で知られているためこのぐらい欠点があってもおかしくは無いと思えた。


「司が帰って来るのはいつなんだ?」


「……新幹線が動いているかいないか次第ですね。

たぶん今日は帰ってこないと思います

親は2人とも出張に行ってます」


つまり、明日までは誰も家に帰って来ず、家に一人で一晩を明かさなければいけないということだ。


そんな状況だということを理解した涼介はふとこんな事を言っていた。


「家に泊まるか?」


言ってから自分でも何を言っているんだろうと思った。

付き合ってもいない女子を家に呼ぶということだけでも、常識的では無いと思われるのに、泊まるなんて以ての外だろう。


「はい……」


涼介が今のは間違いだと言う前に凛華は返事をしてしまった。

そのため今更嘘だとは言えないし、言えたとしても今の凛華はあまりにも可哀想に見えるため、結局は言えないだろう。


「なら、準備してこい」


なんの準備かは分からないが涼介は凛華の頭を撫でながらそう言った。


それから2人は止まっていた足を再び動かした。

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