第10話【寝起きの先輩】

凜華のイタズラでコーラを吹き出すという事以外変わったことはなく、涼介以外は勉強をしていた。


「うがぁー司ここわかんないぃ」


皆集中し、部室内には涼介の食べるポテチの音くらいしかなかった空間を舞が破った。


「あー、そこはね一旦こうして次にこうすれば、ほら基本の公式で解けるでしょ」


どうやら舞がやっているのは数学のようだった。


「おぉー、出来た!さすが司ありがとー!」


舞は解けたのが嬉しいのかまたやり出した。


「ははは、できるようになったなら良かったよ」


司は舞の単純な思考回路に少し笑っていた。


でも、この素直さがきっと1番成長するタイプなんだろう。


「司先輩は勉強得意なんですか?」


今まで集中していた蛍が司に質問した。


「得意って訳じゃないけど、苦手ではないかな」


司は自己謙遜が過ぎると思った。

なぜなら、司は常にテストでは平均点90点以上をキープしており、学年順位も上位の成績を収めていた。


「兄さんは自分を低く評価しすぎですよ

兄さんのそれは謙遜ですよ」


確かに凜華の言うことは正しい。

9割で得意というわけじゃないなら、その下の点数はどうなるんだろうか。


「そうかもしれないけど、涼介が1番嫌なことしてると思うよ、ね?」


話を聞いていただけの涼介に司は突然話を振った。


「なんの事だ?俺は平均くらいの成績だぞ、」


涼介は少々めんどくさそうな顔をした。


「涼介の場合は点数じゃ表せないようなことをしてるじゃないか」


司の言葉に蛍と凜華は疑問を持った。


「兄さん、それってどういうことなんですか?」


凜華はたまらず司に質問をした。

司は一瞬俺の方を見て、言ってもいいのかと確認をとるような視線を送ってきた。


「別に聞いても面白みのある話でもないぞ」


涼介は別に隠していることでもなかった。


「本人はそう言うけど、結構すごいことだと僕は思ってるんだけど、涼介の今までのテストの平均点は77点なんだよ、しかも全部が77点」


司は笑いながら「凄いよね」と付け足した。


「それって……偶然ってわけじゃないですよね?」


蛍はそんなこと聞いたことないと言わんばかりの表情だった。


「本人はたまたまとか言ってあんな顔してるけど、多分出題される問題の点数を自分なりに予測して、調整してるんだと思うよ」


凜華と蛍はお互いの顔を見合い驚いていた。


「な、聞いてもつまんないだろ」


涼介はまたスマホをいじり出した。


「本人はあんな感じだから多分地頭がいいってやつだと思うよ」


それから少しして、司達は勉強を再開した。

涼介はそれを横目に捉えながら、スマホゲームをしていたが、食べていたポテチを食べ終えた頃に、スマホの電源が切れかかってきたのに気がつき、新しく買ったイヤホンを指し音楽を流してスマホは充電し始めた。

そして、涼介は眠りについた。




◇◆◇◆◇◆◇◆


「先輩……き……ください」


遠くから声が聞こえたような気がする。

どこかで聞いたことのあるような声だ。

涼介の意識はだんだんとはっきりし始めてきた。


「先輩、起きてくださいよ〜」


凜華は涼介の体を勢い良く揺さぶった。


「ん…んんー………なんだよ…」


意識がまだハッキリしないなか涼介は返事をした。


「もー、なんだじゃないですよ、もうすぐ下校時間ですよ」


凜華の言葉で涼介の意思が少しずつハッキリとしてきた。


「先輩はキスでもしないと起きてくれないんですかー?」


凜華は中々起きない涼介に対して童話の話をしてきた。


「起きてるから……」


そう言うと涼介は寝返りをうった。


「仕方ないですね……」


凜華の声が聞こえてきたかと思うと少しずつ顔の方に近ずいてくる気配があった。

やがて涼介の顔に触れる感触があり………涼介は目を開けた。


「お前、何やってんだ?」


涼介はやっと意識が覚醒したようだ。


「先輩がキスしてくれないと起きないと言ったんで私は仕方なくですがキスをしようと…」


凜華は少し恥じらいの表情を浮かべていた。


「いや、言ってねぇしその表情もわざとらしいんだよ」


涼介は起きて早々めんどくさいと思いそれを隠そうとも思わなかった。


「もー、酷いですよ!

わ、私だってき、キスは初めてなんですから…き、緊張しますよ…」


その言葉を言った彼女の唇はいい感じに潤っていた。

涼介はその唇をしばらく見ていた。


「なんですかぁ、先輩そんなに私のお口の味が気になりますか?」


凜華は上半身だけ起こした状態でいる涼介がいるソファーに乗ってきた。

涼介と凜華野良顔の距離は20cmも、ない距離まで接近した。

そのまま凜華は涼介の太とも辺りにのっかり顔を涼介の顔に接近した。


「先輩ならいいんですよ」


と凜華は涼介の耳元で囁いた。


「お、おい…」


涼介は耳まで真っ赤になった。


「さて、先輩の寝起きのいい顔も撮れたことですし、さっさと帰りましょ」


凜華は片手にスマホを握っていた。


「はぁ……膝痛てぇ」


涼介は少し安心しつつもそう呟いた。


「別に冗談でもないんですけどね…」


「えっ……」


涼介は思わず顔を上げ凜華を見た。


「だって、先輩の寝起きの顔ほんとに可愛いんですもん!」


凜華が見せるスマホの画面には涼介の寝顔が写っていた。


「そっちかよ……ていうかそれ消せよ!」


涼介の声は二人しかいない部室に響いた。

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