第6話 王道ラブコメ展開


朝は余裕を持って行動するように心がけている。目覚めはいいほうで、目覚ましを掛けなくても自然に5:30には目が覚める。親は現在、海外で仕事をしており日本にはいない、そして今年から大学生の姉も忙しくなかなか帰ってこないため、実質僕は一人暮らしである。今日も今日とてSHRの始まる1時間前には家をでた。しかし、僕はいま遅刻しかけているというか、たった今チャイムがなってこのままでは遅刻だ。いつも校門に立っている生徒指導の片岡に見つかったらめんどくさい。僕は裏道から学校の柵を越えて、なんとか見つからずに校内に入れた。


「コラ!何時だと思っている!」


片岡の怒鳴り声を聞き、振り返るが、怒られているのは僕ではないらしい。そっと様子をみると、小柄な女子生徒が片岡の前で戸惑っていた。


「あーあ、やっぱり間に合わなかったか」



時は1時間前に遡る。

昨日の雨が嘘のような清々しい天気だった。そして、僕は超王道ラブコメ展開に巻き込まれようとしていた。朝、急いでいて角でぶつかる例のあれだ。僕が道を歩いていると同じ高校の制服の女子が急に角からでてきた。僕はギリギリのところで踏みとどまり、ぶつかりはしなかったものの、相手の方が驚き、尻もちをついてしまった。全く悪意はなく、ほんとに偶然に見えてしまったというか、視界に入ってしまったパンツは恐ろしいほどの純白だった。


そんなことはさておき、僕はすぐに転んだその子に手を差し伸べた。


「いててて」


「だ、だ、大丈夫?」


声を掛けられたこと気づいて僕を見上げたその子と初めて目が合った。不思議に人の心を見透かすような澄んだ目に僕は心を奪われた。彼女は僕の手を見るとぎゅと掴み立ち上がった。


「ありがとうございます。ぶつかりそうになってしまってすいません。」


「こちらこそすいません。」


すっと彼女見つめる。身長は150前半しかなく小柄で華奢だか、か弱い印象は受けない。大きな瞳と目の下のホクロ、そして赤紫ぽいのインナーカラーを入れた黒髪に耳にはピアスがいっぱい。そしてかわいい。


「いったっ」


彼女は自分の左手を抑えた。どうやらコケて手をついた時に道路に落ちていたガラスか何かで切ったのか流血している。


「あ、あの、下手に菌が入ると、い、いけないから、す、少しそこに座ってもらいますか?」


僕は持っていたポーチの中から消毒と絆創膏を取り出した。こうゆう時のために必要そうなものは持ち歩いている。伊達にハイスペックを目指している訳では無い。


「いえいえ、そんなに大きな傷でもないですし大丈夫ですよ?」


「ダメですよ、怪我は早めに手当しないと、片手じゃ自分でできないでしょ?」


「…ありがとうございます。お願いします。」


彼女は少し迷ったようだったが、僕に片手を差し出した。あれ?僕、普通に初対面の人と喋ってる。桐崎さんのおかげでちょっとはまともに喋れるようになったのかもしれない。


「ちょっとしみるかも知れません。」


「っつ」


「すいません、大丈夫ですか?」


「全然!大丈夫です!」


彼女の小さな手に消毒をし絆創膏を貼る。彼女も言っていたが、見たところそんなに大きな傷では無さそうだ。


「ありがとうございます。」


「僕が原因で怪我したようなものですもん。」


そこに1台の車が登場。スピードを緩める気配はない。そして、昨日の雨のせいでできた水溜まりを踏み、浮き上がった水達は彼女の制服へダイブ。不幸の連続だ。


「ありゃ」


そこからは大慌て、家が遠く帰ったら登校時間に間に合わないという彼女に僕の家の洗濯機を貸してあげ、乾燥機で全力で乾かす。洗濯をしてる間は姉の服を勝手に持ち出し貸してあげるが、ここにきて僕のコミュ障が発動する。自分の家に人を上げたことがないし、女の子と2人きりという状況に耐えきれず出来たのは名前と学年とその他諸々の確認のみ。ほとんど会話せずに時間を待った。僕と同じ1年生らしい。


2人で家を出て、学校までダッシュで向かうが、途中で彼女は呑気にお昼ご飯を買いだした。なんでもあそこのコンビニのメロンパンが絶品らしい。2人で遅刻したら噂になるということで、僕が先に行くことになった。そして今に至る。



「せんせー、登校中に怪我しました〜。んでその手当してました〜」


と彼女は片岡に手を見せる。思わぬアクシデントとなれば片岡も叱るに叱れない。片岡は不満そうな顔で次からは気をつけろと校門を通す。


「ふぅー危なかった。君のおかげでなんとかなったよ」


と僕に追いついた彼女は手を見せながら言ってきた。


「よかったね、どやされなくて」


「うん!やばい、SHRに遅れる!またね!」


「あ、うん」


彼女は2組らしく僕の教室のある階のひとつ上の階がホームルームだ。僕もチャイムと同時にギリギリで教室に入る。


朝から大忙しだ。下手に家に連れ込まれたなんて彼女は言わないと思うが、初対面の女の子を家にあげたことに若干の背徳感を感じながら僕はその日を過ごすのであった。

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