新生活ー2




食事を終えた後、2人は村の外へと向かった。



(なるほど……そう言うことか)



エルミールは村の風景を見て、全てを即座に察する。

 草も殆ど無い様な荒れ果てた岩がゴツゴツと露見した無機質な大地に雑多なバラック小屋が三十軒程度不規則に並んでいた、そしてそこに住う住人達は獣人であった。

 教会は他の建物と比べればかなり造りはしっかりしていたが教会と考えるとかなりボロい。


「神聖帝国に占領される前まで彼らは北の森で暮らしていました……しかし強制的にこの地で暮らす様に命じられ追いやられてしまいました、しかもこの様な荒地で作物を作る様に命じられる始末、そんな村です……」

「神聖帝国らしいな、まったく……それで作物は一体何を作っておるのだ?」

「確か小麦です、それ以外は特には……」

「じゃが芋とかがあったら楽なんだがな」

「じゃが芋……? 聞いたことありませんね、なんなんですか?」

「いや、なんでも無いよ、忘れてくれ」




(そう言えばこの世界には無いんだっけ)



エルミールは心の中でそう思う。

 と言うのもエルミールは魔王位継承の儀式の際に前世の記憶が蘇ったのだ、一つ前の時は別世界の日本と言う国の上場企業とやらの長で新堂真しんどうまことと言う名の男だった、その更に一つ前はどこかの某国の先導者で、その更に前は何処かの知将であった気がする、それ以上前の事は思い出す事もできない。

 だが魔王位を剥奪された今、その記憶でさえ徐々に薄れてきている。



「おお、目を覚したのか、流石に川から流れてきた時はビビったぞ?」



その時、後ろから声が掛けられる。

 エルミールは後ろを振り向くと、そこには1人の獣人の少年がいた、年齢は15歳程度で栗色の髪に狸の様な耳を生やした端麗な顔立ちの持ち主だった。



「あの子が川から流れてきたヘルシアを助けて、拾ってきたのですよ」



ネイアはそうふっとに答える。



「俺は村長の息子のベンゼル・リコ、んで? そっちの名前は?」

「私はヘルシア・シャメイル、助けてくれた事は本当に感謝している、ありがとう」

「なんか変わった喋り方してるよな、なんか偉そうだし……」

「不快に思われたら悪い、しかしこれは私の性なんだ、こればかりはどうしようもない」

「まぁどうだっていいけどな、それと話は変わるが親父が呼んでたぞ? 何か話したい事があるんだとよ」

「わかった、話を聞こう」




エルミールはベンゼルに連れられ村長宅へと向かう。

 村長宅は他の家よりはしっかりとした造りでそれなりの大きさがあった。



村長宅に入ると、すぐそこは居間に1人の男の姿があった。

 年齢は三十代後半程度で白髪が目立つ男、ベンゼルと同じ類の動物の耳を生えており、おそらく彼がベンゼルの父親だろうと察する。



「親父、あの人が目を覚ましたみたいだから連れてきたぞ」



ベンゼルはその男にそう言い放つ。

 男はエルミールを一瞥すると、口を開いた。


「そうか……俺はこの村で村長をやってる、ドルク・リコだ、んでそっちは?」



男の態度は至って高圧的だったが、それに臆する程エルミールも矮小では無い、仮にでも元魔王なのだ。



「私はヘルシア・シャメイル、仮に旅人とでもしておこう」

「んで? いきなりで悪いんだが、お前はなんで川からなんて流れてきたんだ? それも傷塗れでな」

「それは大方は村長が考えてる様な事と同じだ、私は命を狙われている、それだけだ」



そのエルミールの話を聞いて村長は渋い顔をする、それもそうだ、村に厄介ごとは余り呼び込みたく無いのが村長であろう、寧ろそれが正しい姿だともエルミールは思う。



「勿論、助けてくれただけでもありがたいのにこれ以上迷惑をかけるつもりも無い、望むならば今すぐにでも出ていこう」


「だが、その必要は無い」


「……⁈」



エルミールはドルクの意外な反応に一瞬、頭がポカーンと白くなる。



「な、何故? 私は命をつけ狙われている何処の輩かも知れない魔族、これ以上村に置いておくのはこの上ない危険な行為なのだぞ⁈」

「確かにそうかも知れない、だが助けちまったんだ、仕方ないだろ? 拾ってしまったもんを捨て返すのは人として終わってんだよ、まぁどうしてもこの村を出ていきたいならそれでいいけどよ」



ドルクはそう答える、今の今まで合理的に物事を処理してきたエルミールにはなぜ追い出さないのか理解が出来なかった、それと同時にもどかしさの様な複雑な感情が込み上げてくる。



「よかったですねヘルシア、村長に直々にこの村に居てもいいって言われて」



エルミールが暫くぼっーとしていると、背後から少し離れていたところで話を聞いていたネイアが話しかけてくる。



「しかし、村にある分には、何かしら仕事はして貰わないとな」

「それには私の手伝いをさせようかと思っています」

「そうか、それならばそっちの方でよろしく頼むぞ、ネイア」



ドルクはそう微笑を浮かべながら言う。



「まぁ、何はともあれ今夜は新しい住人が来たんだ、祭りだな」


「そうですね、自己紹介も兼ねて村の皆んなを呼びましょう」


「ま、まて‼︎ 勝手に話が進んでいるみたいだが、もし何かあっても私は責任の取りようがないぞ⁈」


「何回も言わせんなよ、そん時はそん時だよ」


「……そうか、ならそうさて貰うよ」



エルミールは彼等に何処かで呆れる、しかし更に別の何処かで嬉しい様な気持ちが込み上げてくる。



「それじゃあ、夜に集まる様に村の週に伝えてくるよ」

「おう、頼むよ」



ベンゼルはそう言うと、外へとかけて行った。



「それじゃあ、日が落ちたらに村の広場に来てくれ、あんま御馳走はないかも知れないがな」

「わかりました、ではまた夜に……ヘルシア、教会に帰りましょうか……ほら? 聖書の模写がありますし」

「そうだな、そうしよう」



ネイアとエルミールは村長の家を後にした。

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