元魔王の大賢者〜追放されたので腹いせに地球の技術力で辺境の村を復興させて行こうと思います。

まなこんだ

第1話


魔族が統治する魔王領から遙か北に離れた大地、何処までも広がる広大な荒野を歩む一人の姿があった。



その者の姿は元は美しかったであろう痛み切った白銀の髪、未だ色を失わない紅い瞳に鋭角のエルフ耳、片方は中程で切り落とされている。

 外見的年齢は十代後半程度の端麗な顔立ちの少女だ、しかし全身に様々な傷を負っており痛々しい、見に纏っている服も元は豪勢なものだったのだろうが埃や砂を被り、今はその面影すら見当たらない。



「なんでこの私が、こんな目に合わなければ……」



彼女は虚無に語りかけるようにそう呟いた。



この見る無惨な彼女こそが4代目魔王にして歴代最強と謳われていたエルミール・リア・シティアである。





     魔王ーーーそれは魔族の王であり、最大の切り札であり、神に仇なすものであり、人類の敵である最強の存在。




   ありとあらゆる魔法を行使し、殺した敵兵すら使役し、尋常ならざる力を帯びたもの。





    それが魔王と言うものだ。






しかし魔王位を剥奪された彼女にはもはやその様な力は残っていない。

 と言うのも数週間前に魔族側の敗戦で終結した人類との戦争責任を全てエルミールに押し付けられ失脚、更には異端の証として片耳を切られた挙句に追放されたのだ。



「うっ……」



エルミールはもたれてその場に倒れ込む、極度の飢餓感に加え全身の真新しい傷が酷く痛む。

 ここは何も無い広大な荒野だ、勿論土地勘のないエルミールには脱出など不可能だ、実際彼女が今何処にいるかなど把握していない、それに加えこんな荒野にまともな食事がある訳もなく小動物や微かに生える雑草を喰らいこの一週間生きながられていた。




それならまだしも彼女の事を定期的に魔王軍の刺客が襲撃してくるのである。

 エルミールも腐っても元々は魔王である、その度に何とか撃退することが今までは何とか可能であった、この身体の数多の痛々しい傷もその時に出来たものだ。




エルミールは今日だけでも何度倒れたかわからない身体を強引にお越し、再び歩き始める。

 せめて夜を明かせる場所は見つけなければならない。




エルミールは暫く歩き続け、連なった巨大な一枚岩が目に映る、そして一枚岩の隙間に洞窟の様な物も見つける。



(今日くらいあそこなら夜を明かせるだろうな……)



エルミールはそう思い洞窟の中へと入っていく。

 洞窟内は空気が冷たく、外気温と疲労で熱っていたエルミールの体温を急速に冷ましていく、洞窟内は外の光を余り通さないのだが魔族の特性である暗視のお陰で苦になる事なく奥へと進む事ができた。

そうして奥に進んでいくと開けた空間へと出る。

 そこは岩の裂け目から水が溢れて出しており、奥の方へと流れ込んでいる、その先には谷になっており、その下には川が流れているのが分かる、恐らくはこの一枚岩を貫く様な形で流れているのであろう。



「うっ……み、水……」



エルミールはふらふらと岩の割れ目から溢れ出す水に近づいていく。

 良く考えれば水ですら二日近く飲んでいないのだ。



エルミールは溢れ出す水を手ですくい水を飲む、それを乾きが満たされるまで何度か繰り返す。

 やがて乾きが満たされると安堵の気持ちからかはぁ、と言う深い溜息を吐く、それと同時に忘れていた全身に痛みが走る。



「なんで私がこんな目に合わなければ行けないのだ? 国にこんなにも尽くして来たと言うのに……」



エルミールは口から言葉を漏らす、確かに仕方なくとは言え、戦争を始めたのはエルミールである、しかしエルミールが始めなくてもどのみち戦争は始まってたであろう、所詮は時間の問題だったのだ。

 しかし無慈悲にも彼女の元側近はこの様な仕打ちを言い渡した、自分に非があるとは言え魔族を皆殺しにしてしまいたい位の憎悪が湧き上がってくる。




しかし、今はどう考えようと無意味だ、そう理解している彼女は嫌な事を考えるのをやめ、眠る事にした。

 寝むるには早い時間帯であるが、今の体力的に考えるとこれ以上起きているのもかなり辛いのである。




「やっと見つけたぞ、魔王……」



エルミールが眠りに落ちようとしたとき、背後から声をかけられる。



「誰だ……?」



エルミールは後ろを振り向く、そこにいたのはフルフェイスの全身甲冑の騎士のような格好の者達だ、どうやら先頭の男がリーダー格らしく他と比べて甲冑の作りがかなり良かった、鎧の刻印を見るに魔王軍の関係者であろが。



「悪いが首を貰うぞ……時期、魔王候補がかかってるもんでな」

「どう言う事だ? ……いや、そうか、どうせあの馬鹿が私の首を取れば次の魔王にするとでも言われたんだろう?」

「まぁそうだな、心配はするな、なるべく痛みが無いような殺してやる」




エルミールはひっそりと魔法を行使する準備を始める、魔王の力を剥奪されたと言えど、その力の残滓は未だ身体の中に残り続けている、目の前の男達を魔法で一撃で葬る事など造作は無い。




「嫌だ、と断ったらどうするつもりだ?」

「無理にでも首を持っていく……」

「残念だが私はそこまでお人好しじゃ無いんだ……」



エルミールはそう言い放つ、それを聞いた男は腰にかけた鞘から剣をぬく。



「そうか、ならば仕方が無い……お前ら囲め‼︎」



リーダー格らしき男がそう怒鳴ると、彼の背後にいた兵士達がエルミールを囲むように展開する。



「勝手にやるんじゃねぇぞ、留めは俺が刺す‼︎」



リーダー格の男は勝ち誇った様にそう言い放つ、恐らくはエルミールの事を魔王としての力を剥奪された単なる雑魚としか思ってないのだろう。




 確かにそうである、しかし残滓だろうが残りカスだろうが魔王は魔王だ、四天王程度の実力は今でさえあるのだ。

 目の前の無名如きに負ける気などエルミールに甚だ無い。




「魔王、覚悟っ‼︎」



男はそう言いエルミールに斬りかかろうとしたーーーその時だった。



エルミールは準備を行なっていた魔法を行使する。

 暗がりの地面から漆黒の蒸気の様な物が彼方此方から現れ、暫くして無数の手の様な形になっていく。



それはあたりの兵士達に手当たり次第に飛びついて行った、身体中の関節部や首あたりに絡みついていく。

 やがてゴキゴキやバギィなど骨をへし折る音が辺りに響き渡る。



「や、やめでぐれぇ‼︎」「いでぇょぉぉ‼︎‼︎」



その攻撃により、首の骨を折られ即死するものや運悪く生き残ってしまい余りなもの激痛に泣き叫んでいる者もいる。



「成る程、魔王の力は完全に失ったわけでは無いのだな……面白い、殺しがいがあるじゃねぇかよ」



未だ無傷の男は狂気的な笑みを浮かべる。

 別にエルミールが手を抜いたから無傷な訳ではなく、単に魔法に対する耐性が高かった為だろう。



「それじゃあこっちから行くぞ‼︎」



男はそう言うと剣構え、エルミールに向かい突撃してくる。

 エルミールはそれを咄嗟の判断で死んだ兵士から剣を奪い防御の構えを取る。



キイィィン、と言う渇いた剣同士がぶつかり合う後が響き渡る。



「成る程、そんな華奢な身体で俺の一撃が受け止められるのか」

「当たり前だ、私は魔王だ、私が魔王なんだ……」 

「所詮は残りカスだろうがっ‼︎」



男はそう言うと剣ごとエルミールを馬鹿力でなぎ払う、流石にこれを正面から受け止める事はできなかったのか数メートル吹き飛ばされ地面に身体を強打する。

 後ろを振り向けばそこは崖である、あと少し力が強ければ真っ逆さまに落ちていただろう。



エルミールはすかさず八つの魔法陣を展開し、そこから青や赤、緑など様々な色の光弾を放ち男に向かい飛翔する。



 男自身や辺りの岩肌に着弾すると爆発を起こす、それをエルミールは一つの魔法陣につき10発放った。

 辺りは煙で視界を塞がれ何も見る事が出来ない、暫くして視界が晴れるとそこは洞窟の形容が変わる程のクレーターが形成されており、洞窟の出入口も崩落してしまっていた。



「おっと、今のはこの鎧が無ければ死んでいたな……」




   しかし、あの男は無傷だった。



「何故攻撃が効かない⁈」

「魔法特化の貴様になんの対策もして来ないと言うのも可笑しな話だろ?」

「それもそうか……ふふっ」



エルミールは不適な笑みを浮かべる。



「何がおかしい?」

「……恐らく今の私はお前に敵わない、ならばこう言うのはどうだ?」

「何をする気だ? ……も、もしやお前⁈、ば、馬鹿、やめろぉ‼︎」



エルミールは崖の方に向かい全力で疾走し跳躍する。



飛び立った瞬間、一瞬時が止まったのかと思うほどゆっくりと時間を感じる。



この様な感覚を感じるのも勇者と戦った時以来かーーーそんな事を刹那の間に考えていると、谷下に流れる川はすぐそこまで迫っていた。

 川に落ちると水面に打ち付けられ、凄まじい衝撃がエルミールの身体に走る、それと同時に川の下にあった岩に頭をぶつけ意識を失った。

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