宙からのリクエスト
小田島静流
1.海賊放送
古式ゆかしい卓上マイクをセットし、電源を入れる。メインディスプレイには台本データを呼び出し、サブディスプレイには現在時刻とカウントダウンタイマーの二種類をセット。
「キング。中継衛星のハッキングは?」
『ケッ、トックノ昔ニ終ワッテラア』
口は悪いが優秀なAIを搭載したオウム型サポートロボットは、BGMやSEなどの音楽データの準備まで終わらせて、止まり木型充電ステーションで待機している。
「レーダー、チェック」
『周囲ニ船影ナシ。探査範囲ヲ最大ニシテ監視ヲ続行』
最後に飲み物をコンソール脇のホルダーにセットして、あとは予定時刻を待つのみだ。
「カウントダウン開始」
『了解。放送開始マデ9、8、7、6、5、4』
音声が途絶え、代わりにモニタへ数字が現れる。
3、2、1――ゼロ。
(オープニングミュージック)
Yoho! 今日も元気に略奪してますかー! DJレオンがお届けする海賊放送『チャンネル
宇宙情勢から連邦宇宙軍の動向、人気のパワースポットから最新のアルバムチャートまで、今日もノリノリでお届けするぜーい!
(ジングル)
今日はまずお便りから。えーと、ラジオネーム『悲しみの戦士』さんから。
『DJレオン、てめえよくも連邦警察に人の隠れ家をタレこみやがったな! 覚えてろよ畜生!』
……おお? なに言っちゃってるかな~? お前さんとこが先祖代々バーンド星系を根城にしてるのなんて、赤ん坊でも知ってることだぜえ? あんな狭いところで何百年もふんぞり返ってりゃ、そりゃいつかは隠れ家だってバレるっての。お前さんらの見苦しい逃走劇は生中継されて銀河中の笑いものになってたわけだが、送信日時を見る限り、このお便りはその最中に送ってきたんだろうな。んなことやってるから捕まったんじゃねえの? ま、ご愁傷さま~。 早く出て来いよー。
続いてはラジオネーム……あれ、ラジオネームじゃないな、これ。『アルタナ・ウェアハウス』? ……ああ! この間紹介した『海賊なんて怖くない!』を歌ってる新人歌手グループだ!
『DJレオンさん、こんにちは。先日は私達の新曲『海賊なんて怖くない!』を流してくださってありがとうございました! おかげさまで週間シングルアルバムチャート4位になることが出来ました。これもDJレオンさんのおかげです!』
なぁに、礼を言われるほどのことじゃないぜー。あれは間違いなく歴史に残る名曲だ。惑星バーティの砂漠で撮ったっていうミュージックビデオの出来も最高! あのまま映画化してほしいくらいだよ。
『……ただ一つ困っているのが、あちこちで海賊さんからサインや握手を求められるんです。いえ、それ自体はとても嬉しいのですが、必ずといっていいほど連邦警察の船がついてくるので、毎度事情聴取をされるのが正直大変です。でも、私達のせいでファンの皆さんが捕まってしまうのも悲しいし、どうすればいいでしょうか?』
……ふむふむ。分かったわかった。こうしよう。
いいかお前ら! 警察の船を撒く技量もないヤツは接近禁止だ! 堅気さんに迷惑かけんじゃねえ!(エコー)
よし、これでうちのリスナー連中は、もう迷惑かけないと思うぜ。悪かったな~。これに懲りずにいい曲作ってくれよな!
それじゃ『アルタナ・ウェアハウス』の新曲『海賊なんて怖くない!』を聞いてくれ!
(曲終了)
さて、続いてのお便り……ラジオネーム『音速の黒猫』さんから。
『DJレオン、こんにちは。友達からこの海賊放送の話を聞いて、試しに聞いてみたらすっかりファンになりました!』
嬉しいこと言ってくれるねー! ありがとさん。
『ところでDJレオンの正体って、ずばり誰なんでしょう? 友達は『海賊かぶれのDJ』だと言いますが、私はきっと、本物の海賊なのではないかと思っています! 答えられる範囲で構わないので、ぜひ教えてください』
おおっといきなり核心をつく質問が来たなー!
オレ様の正体は――ヒ・ミ・ツ!(エフェクト)
まあそうだな、海賊の裏事情にちょっと詳しい、カッコよくて優しいお兄さんってことで♪ あとは各人、自由に想像してくれたまえ!
あ、これだけは言ってもいいか。オレ様、ぴっちぴちの二十代でーっす! 意外に若いって? だろだろー。
(ジングル)
さあて、それじゃあ次のコーナーに行くぜ。まずは「5分で分かる宇宙情勢」のコーナーから。
宇宙海賊『インフィニティ』の派閥争いに終止符が打たれることになりそうだ。『インフィニティ』の初代頭領が銀河のどこかに隠したお宝を最初に見つけたヤツが次のリーダーってことになったらしいぜ。別に傘下じゃなくても構わないみたいだから、暇なヤツは挑戦してみたらどうだ?
ちなみに初代のお宝ってのは、お前らもよーく知ってるよな?
「その宝を手にしたものはこの世の全てを手に入れる――」
この有名な言葉を残した《
それがどんなものなのかすら伝わってないんだから、探しようがないって? じゃあオレ様がとっておきの情報を教えてやるぜ。
さっきも言った有名な台詞には、実は前置きがあるんだ。
「見つけたが、手に入れられなかった」
――な? 意味深だろ? 要するに、ローランドはその宝を見つけたものの、どういうわけか手に入れることが出来ずにそのまま隠したってわけだ。
さあ、こんな雲を掴むような話でも、何かのヒントにはなるかもしれないだろ? 健闘を祈るぜ! 見つかったらオレ様にも拝ませてくれよな!
(ジングル)
さて、続いてはお待ちかね、リクエストコーナーだ!
まず最初は、ラジオネーム『赤毛のロン』さんから。
『DJレオン、こんにちは! いつもラジオ楽しく聞いています。最近はチャンネルが頻繁に変わるので追いかけるのが大変ですが、頑張ります!』
おー、悪いなー! 最近、連邦当局が目の色を変えてオレ様のことを探しまくってるらしくてよー。ははっ、人気者は辛いよな!
『最近、うちの船に新入りがやってきて、毎日とても賑やかです。ちょっと気が強いのですが、根はまじめでしっかり者です。ただ、気になる人の前では素直になれないようで、いつも些細なことで口喧嘩をしています』
あー、オレ様知ってるぜ、そういうの、宇宙暦以前の古ーい言葉で、えーっと、そうそう。『ツンデレ』っていうんだろ? えっ? 違う?
『早くお互いの気持ちを伝えて、さっさとくっついて欲しいと願っています』
おう、オレ様も銀河の彼方からよーく祈っとくぜ!
『さて、今日は話題のデジタルアイドル『MINA』の新曲『歌う惑星』をリクエストさせていただきます! ポップなナンバーが多いMINAですが、今回の新曲はしっとりとしたバラードで、とても驚かされました。古い伝承のような歌詞と、物悲しい曲調が胸に沁みます。とても素敵な曲なので、是非皆さんにも聞いてもらいたいです!』
それじゃあ、『銀河の妖精』ことデジタルアイドル『MINA』で、『歌う惑星』。
(曲終了)
続いてはラジオネーム『茨姫』さんから。……いつもラジオネームとリクエスト曲しか書いてくれないけど、恥ずかしがり屋さんなのかな? 君のこと、何でもいいから聞かせてくれよな。難しく考えなくていいんだ、今日食べたランチの話でも、今度行くレジャースポットの話でも。お悩み相談も受けつけてるからさ。
さて、リクエストは『ルート754』――随分と懐かしい曲のリクエストだ。うちの親父様が好きで、よく聞いてたやつだよ。オリジナルの音源がなかなか見つからなくて、頑張ってアーカイブを探しまくったぜー。
それでは往年のジャズナンバー、アンソニー・Jで『ルート754』。
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