第19話 vs巫女姫 終『全視の力』
俺たちは言葉を交わさなかった。
だが、互いに見つめあい、開始の合図を待っていた。
琴原による、開始の合図がアナウンスされた。
まず仕掛けるのは柊。
二つ持ったチャクラムを500m先の俺の方へと円軌道で当たるように投擲してきた。
俺も彼女の方へ早すぎない程度に走る。
走りながら鞘から刀身を抜き放ち、俺も迎撃態勢をとった。
さっき投げられたチャクラムは、俺の方に来るでもなく、最初に俺がいた方に向かっていた。
その時、背後に気配を感じた。柊ではない。おそらく、チャクラムだ。
すぐさま俺は前を向きながら後方を斬りつけ、迎撃した。
チャクラムが二つ、地面に転がる。
おかしい、柊が最初に投げたチャクラムはまだ宙を舞っている。
元々彼女が持っていたのは二つ、これでは四つになってしまう。
これで俺は、ようやく一ノ瀬 翼のあの体中の傷跡の原因が分かった。
俺は、その場に静止した。
(『
心の中でそう呟く、そして、この空間にあるもの全てを認識した。
空中にあるのは、説明にもあった水晶のような魔法機器。
これは音とか映像を送るための衛術協会のものだ。
だが、ほかにも空中を飛んでいるものがあった。
ーーっ。数えて八つほどのチャクラムが柊の周りを周っている。
つまり、何らかの魔法でチャクラムを見えなくして、見えないチャクラムで相手に攻撃していたというわけだ。
だが、俺が刀でチャクラムを弾いたことでその魔法が切れ、姿が露になったというわけだ。
「よくそれに気づきましたね、さすが新条様です。ですが、これはどうでしょう。」
柊の周りのチャクラムが四つ、俺の方へ向かってくる。
彼女は、俺がただ気配だけで二つを察したことはわかっているが、他をも見破っていることには気づいていないらしい。
俺は再び走り出し、向かってくる本来は不可視のチャクラム四つを全て弾いた。
金属音が鳴り響く。観客からしたら意味が分からないだろう。
柊の表情が一気に曇る。
「み、見えているとでもおっしゃるのですか・・!?」
「はい。すべて見えています。今、柊さんの周りにある残り四つのチャクラムも、今僕の背後から迫っている八つのチャクラムも、全てが今の僕には見えていますよ。」
「そ、そんなことが・・。出雲大社が誇る幻惑魔法を、新条様は見切っていらっしゃるのですね、、。」
柊は驚きの表情のまま硬直している。
多分、俺のこの技とは相性が最悪だ。
俺は『全視』を発動したまま、柊の更に近くまで迫った。
幻惑魔法の無意味さがわかった柊は、全てのチャクラムの魔法を解除し、姿を見えるようにした状態にした。
そして、十二個のチャクラムは、俺の方へと向かってくる。
柊はその隙に持ち前の身体能力で後方へと退避した。
俺の周りの全ての方位にチャクラムが迫ってくる。
よく見ると、柊は退避した後になにか魔法を発動しようとしていた。
「一閃『
俺は技を使い、残像が残るようなスピードで全てのチャクラムを叩き切った。
だが、元々柊が持っていた二つはかなり頑丈に出来ているらしく、完全破損とまではいけなかった。
つまり、まだ試合は終わっていない。
「幻惑魔法『彷徨いの森』!!」
大魔法に数えられる幻惑魔法が発動された。
だが、この全視状態の俺には幻惑魔法は全く効かない。
よって、柊が発動した魔法は意味をなさなかった。
俺が近づこうとしたその時、柊が倒れた。
「ひ、柊さん、、?」
どうやら魔力欠乏状態に陥っているみたいだ。さっきの幻惑魔法は、奥の手だったのだろう。
「新条様、、。私の負けです。完敗しました、、。」
柊はそう言った。
The end of duel
winner、新条 輝
俺の勝利が確定した。そんなことよりも、柊の魔力欠乏が深刻な状態にあることを魔力の流れから感じていた。
琴原のアナウンスが聞こえるが、そんなことは無視して、柊に駆け寄り、膝をついて彼女を楽な体制に抱きかかえるようにして俺は問う。
「どうしてそんな状態になる魔法を、、。」
「近接では私は新条様には絶対勝てません、、。あのクライスト様よりも上の方に体術で勝てるわけないのです、、。だから、出雲大社に代々伝わる陰陽式の幻惑魔法を使いました、、。この魔法は、魔力を全て使い切る代わりに確実に相手を術中に嵌めるものなのですが、、ゲホッゲホッ」
「だ、大丈夫ですか!?」
俺はまだ
・・・。これはやむを得ない。
「仕方ないです。柊さん、少し目を閉じていてください。」
「目を、、。わかりました・・・。」
俺は彼女を抱きかかえたまま、その瞼を閉じた顔を見つめた。その整いすぎた顔立ちと、華奢な体がかすかに震えていることに気づいた。
雑念を全て消す。そのまま、彼女の潤った唇に、自分の唇を重ね合わせた。
そして、俺の中にある魔力を送っていく。
会場がざわつくのがわかった。黄色い声が発せられているのもわかった。俺だって死ぬほど恥ずかしい。けれど、目の前のこの子を見捨てるわけにはいかない。
ようやく治療魔法師が来たのがわかった。だが、結構戦闘場の端からここまでは距離がある。
「し、新条様・・!?」
すっかり血色の良くなった顔をした柊は、頬が赤くなり、体も何処か火照っている気がした。
俺は唇を離す。
「本当にすみません・・。こうするしか貴方を助ける方法が無かったので・・。俺のような奴が、ほんとうにすみません。殴っても構いません。」
俺はそう言って、殴ってもいいという意思表示のために、瞼を閉じた。
すると、俺の頬に小さい手が触れる。
眼を開けてみると、そこには笑顔の柊がいた。
「新条様のような素敵な男性が私の初めてなんて、光栄です。私の方こそ本当にありがとうございます。危うく死んでしまうところでした・・。だから、謝るのはやめてください・・。あと、私のことは夜空と呼んでください、新条様。」
「・・。わ、わかったよ、夜空さん。」
凛とした表情をしていた柊はいつの間にかいなくなり、今俺の前にいるのは、国立魔法第三高校主席でも元筆頭巫女でも、ましてや姫君でもない普通の高校一年生の女の子だった。
会場からは女子の大歓声と、男の小言が混ざり合った歓声が届いた。
そんなものに興味のない俺は、柊を立ち上がらせ、念のために治療魔法師に預けた。
そのまま入場口へと戻る。
そこには、いつもの通り太陽坂のみんながいた。
こころなしか、みんななんか嬉しそうな顔をしている。
「・・?今回もありがとうございました。」
少し違和感を感じながら、そう俺は言う。
「さっきの、すごいかっこよかったです!!」
「少女漫画の一コマみたいでした!!」
「羨ましいな、柊さん!」
等々の言葉を一斉にかけられる。居心地の悪くなった俺は、そのまま逃げるようにして帰ろうとしたが、そこで白川さんの表情が目にはいった。
なぜか、泣いていた。他の全員が盛り上がる中、一人だけ泣いていた。
かなり心配になったから、近寄ろうとしたが、他のメンバーの後ろにいるため、またあの渦の中に飛び込まないといけなくなるのは嫌だから、そのことは他のメンバーに任せることにした。
「け、決勝もよろしくおねがいします!」
そう言い、俺は待機室へと逃げるように戻った。
「瞳ちゃん、大丈夫?」
キャプテンがそう言葉をかける。
「・・ぐすんっ。・・大丈夫じゃないです、、。あんなのを見せられて・・。本当に酷いです、神様は・・・。」
「か、神様?まぁ、さっきのはそう言う意味のキスじゃないと思うから、多分大丈夫だよ!でも・・もしかしたら超強力なライバルが一人増えたかもしれないけど、、、。」
「そ、そうですよね!こんなにグスグスしてられません!さっきも目を逸らしちゃいましたが、今度は話かけてみせます!!柊さんにも負けません!!」
そう白川 瞳は言った。
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