第16話 親友同士の決戦 前編

第四回戦の出場二人の上司から貰った情報はこうなっている。




九條くじょう かなで 高校二年生 女性


魔力量だけで言えば、メルカリウスをも超越する国立魔法第一高校次席。火属性の魔法を得意とし、魔方陣を重ねて使う、多重魔法陣を用いた戦闘スタイルが特徴である。大魔法まで扱えるとされているが、その実態は不明なところが多い。かなりの美少女で、学生として勉学に励む反面、モデルとしても活動している。




椎名しいな 鈴花 高校二年生 女性


氷属性の大魔法を使う魔法師。今年、魔法第一高校から通信制の高校に転校し、警察庁管轄の魔法部隊に所属している。九條 奏とは親友で、また、渡辺 洋介とも知り合いだが、椎名 鈴花が彼に好意を寄せているため、彼と戦ったことは一度もない。彼女もまた美少女で、魔法部隊に所属する前は、モデルをしていた。




この情報を見る限り、氷の大魔法は九條 奏の炎魔法とは相性が悪そうだ。


情報でもあるとおり、二人は親友同士で、椎名 鈴花は渡辺に好意を寄せているらしい。確か渡辺と九條は幼馴染だったはずだから、もしかしたら恋愛ではライバルなのかもしれない。


これを読んでふと思ったが、さっきの試合の渡辺の氷大魔法は、もしかしたら椎名と関係があるかもしれない。


魔法修行の第一歩は使える人に師事を仰ぐことだから、椎名に教えて貰った可能性がかなり高いだろう。


そんなことを考えていると、琴原のアナウンスが鳴る。


「全日本魔法剣技大会、第四回戦です!」


「選手入場!まずは東コーナー!現役魔法部隊所属の椎名 鈴花選手です!」


ショートヘアで白髪の美少女が姿を現す。どことなく近寄りがたいような、そんな冷たさを感じる佇まいだった。つづいて担当アイドルも歓声とともに入場してくる。


「続いて西コーナー!魔法第一高校次席兼、超人気モデルの九條 奏選手です!」


そのアナウンスで綺麗なロングヘアで少し茶色がかった髪のこれまた美少女も姿を現した。


凄い歓声が鳴る。続く担当アイドルの入場も同等ほどの歓声だった。


二人は位置に着く。


「鈴ちゃん、私は負けないから。」


九條は少し離れたところにいる親友によく通る澄んだ声でそう言った。


「奏、私こそ必ず勝つ。」


短く返した椎名はやはり最初の印象らしく、声質もなんだか凍えるような冷たさがあって、凄みがあった。


「それでは、第四試合、椎名 鈴花vs九條 奏の試合、開始!」


琴原がそう叫んだ。


その始まった瞬間、二人はほぼ同時に魔法を発動した。


「大魔法『ブラストファイア』!!」


「大魔法『スノークロス』」


それぞれの魔法陣の中から高威力の魔法が射出される。


九條の魔法『ブライトファイア』は炎が渦巻き、九條の前方へと竜巻のようにうねりながら射出されていった。


椎名の『スノークロス』は、魔法陣から現れた二つの大きな氷でできたカギづめがクロスして、Xの形を催したまま前方に飛んでいく。


二つの魔法は戦闘場の真ん中で衝突した。衝撃波、音とともに煙が上がる。


その煙で、二人はお互いの姿が見えなくなっているはずだ。


二人とも、この間を逃すまいとするように、前方へ走った。


遠方魔法ではなく中距離魔法や近接魔法が得意な魔法師は、こうやって相手との距離を埋める常套手段を用いる。


そして二人の距離が最初の三分の一に縮まったところで、最初に仕掛けたのは九條だった。


「三重大魔法『トリプルブレイズ』!」


彼女の翳した手の前には三個の大魔法陣が現れ、さらに高威力の炎が生み出された。


今度は三個の魔法が重なり合い、横向きのハリケーンのような大きさになって、椎名を襲った。


すると、椎名は高速で横に動き始めた。


恐らくよけようとしているのだろうが、通常、魔法を躱すにはその魔法以上の速さで動かなければいけない。この九條の魔法の速さで動ける人間なんて、ほぼいないだろう。


だが、


「補助大魔法『氷鎧ひょうかい』」


そう椎名が言うと、彼女の体の足部分が氷で覆われ、彼女の足に靴状のものを形成した。


こんな芸当は、よほど魔法操作技術に優れていないとできないことで、原理はクライストの『魔法槍』によく似ていた。


さらに、「補助大魔法『身体能力強化』」


横移動していた彼女は自分に補助魔法をかけ、さらに自分を強化した。


補助魔法系は持続しにくく、短期集中型の魔法だ。


その『氷鎧』の状態の椎名の身体能力は凄まじく、いつの間にか魔法と同等ほどに早く動けるようになっていた。


その全ての動作を一瞬のうちに終わらせた椎名は、あろうことか九條の『トリプルブレイズ』を躱してしまった。行く当てを失った魔法は、戦闘場の入場ゲート付近に炸裂する。


椎名の担当アイドルは、急いで退散していたためなんとか無傷だったようだ。


「私はこの魔法で奏に勝つし、洋介君もわたしが貰うわ。」


氷の靴を履いて身体能力も上げた状態の椎名はそう九條に言った。


「そんな魔法が使えたのね、鈴ちゃん・・。それに、よ、洋介がどうしたの?私達は何もないよ?」


「奏はそうだろうけど、洋介君にとっては違うの。私は奏に勝って、あの人に私のことを見てもらうんだ。ただ私を見てほしくて、氷の大魔法も私が洋介君に教えた。でも、彼は頭の中があなたのことばかりで、ちっとも私のことを一人の女子として見てくれなかった。絶対にここで負けるわけにはいかない!」


冷静な佇まいだった椎名が、初めて声を荒げた。話を聴いてるようだと、椎名が好意をよせている相手の渡辺は、残酷なことに九條のことが好きらしい。


稀にみるような三角関係だった。


というか、この椎名はこの話を観客が聴いてることを忘れている気がする。多分、渡辺だってこの試合を見ているはずだ。まぁ俺は関係ないから興味はないが。


「鈴ちゃんの気持ちは分かった・・。でも、私もこの試合には負けるわけにいかない。本気で行くよ、鈴ちゃん。」


九條はそう言い、手を前に翳す。


椎名はそれを見て、武装したまま高速で九條へと近づく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る