第6話 魔導人形屋敷
門の前で困惑していたエウの前に現れた青年。
自身へと視線を向けるエウの存在に気が付いた青年は静かに頭を下げると
屋敷の門の前へと近寄った。
エウが改めてその姿を確認すると、青年の手にはエウが人形から手渡された用紙と同じものが握られていた。
この状況から青年の目的が自身と同じであることを察したエウは、青年へと
問い掛ける。
「貴方もこの屋敷のお仕事を?」
「はい、この街で働ける場所を探しています」
穏やかな態度で答える青年に対し、エウにはもう1つある疑問が浮かんだ。
この世界の異人たちには少なからずその特徴が見られるものであるが、今エウの
目の前にいる青年にはそのような特徴は見られず、体格や顔立ちも人間そのもので
あった。
(……ラーデュラさんみたいに姿を変えているのかな?)
エウがそんな考えを浮かべていると突然、鈍い金属音と共に屋敷の門の扉が
静かに開いた。
突然の事態に2人は少し驚いたものの、門が示すその意味をすぐに察した。
「入っても良いみたいですね……」
「……そのようですね、行ってみましょうか」
エウの言葉に青年が同意の声を出すと、2人は門の先へと足を踏み入れた。
何者かに導かれるように屋敷の中へと入った2人の視界に映ったのは、窓から
微かに光が差し込む長い廊下であった。
人の気配はなく、何処か不気味にも思える雰囲気を漂わせていたが、隅々まで
手入れの施されたその様子は、何者かの大切な場所であることを物語っていた。
屋敷の奥へと続く廊下を慎重に歩いていると、2人は広い部屋へと辿り着く。
変わらず物静かな部屋の様子を見渡していたエウと青年であったが、やがて
天井へと視線を向けた時、その異様な光景に2人は硬直する事となった。
2人が立つ部屋の天井にいたのは、宙吊りになった大勢の人形たち。
無機質な顔立ちのまま、様々な体格の人形たちが地上を見下ろす姿は
エウと青年にとって自身たちを観察しているようにも思えた。
「な、何事なの……?」
予想だにしていなかった光景にエウは思わす声を漏らす。
しかし困惑しつつも天井の人形たちを見て、人形から微かなものを感じ取る。
すると、エウの横で同じ表情を浮かべていた青年が静かに口を開く。
「え? 笑っている……?」
青年の一言は、正にエウが人形たちから感じ取った感情と一致するもので
あった。
「ふっ……ふふ……くくく……!」
その言葉に答えるように天井から微かな笑い声が響き渡ると、それは次第に
あらゆる方向から聞こえる大きなものとなった。
突然の事態に2人が慌てながら天井を見回していると、ちょうどその真上にいた
2体の魔導人形が会話を始めた。
「君が声に出して笑ったせいでみんながつられたじゃないか!」
「それはこっちの台詞! 君が変な顔で笑いをこらえるから噴き出して
しまったんだ!」
「……」
宙吊りの状態で突然始まった人形たちのやり取りに、見上げていた2人は
目を丸くしたまま立ち尽くす。
「……もういいわ、みんな降りてきて頂戴」
その時、人形たちをなだめるように聞こえてきた女性の声。
宙吊りの人形たちを見上げていた2人は慌てて声のする方へ視線を
移すと、部屋の隅からエウや青年の背丈とそれほど変わらない1体の
魔導人形が姿を現した。
驚いたままの顔で自身へ視線を向けるエウと青年を見て、魔導人形は
興味深そうな表情を浮かべながら、2人の姿を見据えていた。
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