第3話 領主の館

 ラーデュラの案内のもと、領主の館へと案内されたエウたち。

 そこには彼女たちを明るい表情で歓迎する領主、シオサギアの姿があった。


「私たちを街へお招き頂き、ありがとうございます」

「とんでもない、礼を言うべきなのはこちらの方だよ」

 深々と頭を下げるエウを見て、笑顔で答えるシオサギア。


 その言葉にエウが頭を上げると、自身が感じたある疑問をシオサギアへと

投げ掛ける。 

「でも、良いのですか? 私が……人間が街に住んでしまっても……?」

「外の世界では異形の街なんて呼ばれているけど、別に人間がこの街に住んでは

いけないなんて掟はないよ」


 不安そうな表情を浮かべるエウに対し、シオサギアはなおも明るい表情で答える。

「ここに住んでいるのは異人ばかりだから誤解を招いてしまっているけど、私は

この街を誰もが平穏に暮らせる街にしたいと思っている」


「君たちだってそれを望んで、この街に来てくれたのだろう?」

「はい、私たちも同じ気持ちです」

 エウの力強い返事にシオサギアが再び笑顔を見せたその時、館に備えられた

時計から定刻を告げる鐘の音が鳴り響いた。


「……もうこんな時間になっていたか、長旅で疲れているところに申し訳なかった」

「確かに大変なことは色々とあると思うけど、私たちで良ければ力になるから

君たちもこの街を好きになってくれると嬉しいよ」


 そう言ってシオサギアがエウに向けて自分の手を差し出すと、エウはその手を

優しく握り返した。

「ありがとうございます、 これからよろしくお願い致します」


 ……。

 領主の館を後にしたエウたちは、再びラーデュラの案内によって居住区を

目指して歩いていた。

 不思議そうな表情のまま歩くエウを見て、ラーデュラが声を掛ける。


「エウヘルピア様、どうかされましたか?」

「領主様って言うからもっと怖い……いや、厳しい感じの方だと思い込んで

いたのですが……」

 エウの言葉にラーデュラは普段通りの穏やかな口調で答える。


「シオサギア様はお優しい方ですよ」

「ええ、優しさの中から見える領主様の威厳というか……凄い感じが伝わって

きました」

「主をお褒め頂き、従者として嬉しい限りです」


 2人の女性がそんな会話をしながら歩いていると、ラーデュラが道の先に見える

大きな門を示した。

「あちらが居住区への入口になります」


 そして門の前へと歩みを進めた一同。

 エウがその先へ視線を向けると、そこには賑やかな光景が広がっていた。


 その光景に目を奪われるエウに対し、ラーデュラは口を開く。

「ここがこの街の居住区、皆様が今後の生活をして頂く場所となります」

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