第2話 異形の街

 異形の街へと降り立った一隻の魔導船。

 開いた船の入口から、肩に掛けた鞄に人形を忍ばせた1人の

人形師と2匹の獣が姿を現した。


「本当に来たんだね、私たち」

 エウはそう呟くと、その街の様子を見渡す。

 街を歩く人々は自身と違う存在ではあったものの、その建造物や道具などは見慣れたもので溢れかえっていた。

 

「広そうではあるけれど、あまり前の街と変わらない? 」

 エウの言葉を聞いたオスランスが彼女へと問いかける。


「不満だったか?」

「いや、安心したよ」

「だって、もし私の知らない世界が広がっていたら生活が出来るかどうか……」

「種族は違えど、同じ大陸で生きているのだから文明も変わらないさ」

      

 オスランスの言葉に対し、納得の表情を浮かべるエウ。

 そんな彼女たちの元へと近づく存在がいた。

 気配に気が付いたエウが視線を向けると、そこには影と服装は人間と

変わらないものの、薄紫色の光沢を放つ水晶のような身体を持った異人の姿が

あった。


 異人はエウたちへ深く頭を下げると、その無機質な顔で話を始める。

「私は領主シオサギアの従者を務めておりますラーデュラと申します、以後お見知りおきを」


 ラーデュラの言葉に対し、エウも慌てて挨拶の言葉を返す。

「エウヘルピア・フォスコです、この子がトメスペドで、こっちの子が

ピーレスで……」

 エウは勢いよく鞄からオスランスを引き抜くと、ラーデュラの前へと突き出した。

「それと彼がオスランスです、一同よろしくお願い致します」


 エウはオスランスを突き出したまま深く頭を下げると、それを見た

オスランスと2匹の獣も彼女に合わせるように頭を下げた。

 それに対しラーデュラも再び頭を下げると、変わらず感情の読めない顔で

エウたちへと話を続ける。


「私は皆様を領主の館へとお招きするためにこちらへ参りました」

 そんなラーデュラの姿をエウが不思議な表情で見つめていると、エウの表情に

何かを察したラーデュラはエウに対して声を掛ける。


「私の姿、不気味に映っていますか?」

「いえ、そんな事は……」

 ラーデュラの率直な問いにエウが戸惑っていると突然、ラーデュラの水晶の

身体が光り出した。


 一瞬強い光がエウ達の視界に差し込むと、次にエウ達の前に立っていたのは

先ほどまで目の前にいた異人と同じ衣装を纏い、あの水晶体と同じ色の髪と瞳を

持った女性だった。

 その姿を見たエウは、この状況から彼女があの異人であることをすぐに理解した。


「え……えと……ラーデュラさん……ですよね?」

「はい、覚えて頂けて光栄です」

 エウの問いに対しラーデュラは先ほどの姿では見られなかった明るい表情で

答えた。


「突然申し訳ございません、こちらの方がお話がしやすいと思ったのですが

どうでしょうか?」

「いいと思います! この姿も! あちらの姿も!」

 ラーデュラの突然の変化にエウは動揺した声で答える。


「ありがとうございます、それではご案内致します」

 エウたちはラーデュラの案内を頼りに領主の館へと歩き出した。

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