プロローグ ~プロのローグ~

ほすてふ

第1話

 俺はプロのローグ、すなわちプロローグである。

 ローグというのは悪党だ。

 つまり暴力的で威圧的な徒党を組む者たちである。

 そしてプロというのはプロフェッショナル。

 ローグの専門家であり、ローグを生業としているのだ。


 当然子どもが見れば泣き出すほどの強面であり、体格も図抜けて大きく筋肉に覆われており、ワイルドな髭を生やしてとげとげしいファッションに身を包んでいる。


 主な収入源は役所と冒険者ギルドから得る。

 職務は「脅すこと」だ。


 脅す相手はプロではないローグと、冒険者志望の若者が中心である。

 まずプロではないローグ。

 こいつらは人格的、あるいは経済的などの理由で社会に適応できないはぐれものだ。

 そんな連中が徒党を組めば一般市民の生活を圧迫し、悪くすれば傷つけることになるだろう。

 彼らは単純でわかりやすい武力によるヒエラルキーで生きている。

 見た目が強そうかどうか、徒党の規模、そして実際に強いかどうか。重要な点はこの三つであるのだ。

 どれにも秀でていない一般市民が脅かされるのは自然な流れだろう。

 しかし一般市民がいなければローグは成り立たない。

 ローグが使う道具も一般市民が作っているし食べるものもそうだ。

 ローグが道具を作ればもうローグではなく職人だし、食べるものを作れば農民や料理人というわけだ。


 話を戻そう。

 ともあれ、プロでないローグがでかい顔をするのは誰も喜ばないことなのである。

 であるので、プロのローグである俺がこれを押さえるわけだ。

 プロのローグである俺は見た目も徒党も強さも必要十分なだけ持っている。

 俺がローグ業界を治めることでプロでないローグが蔓延ることを防ぐのだ。

 素人のローグを叩き、一般市民に戻せるなら戻し、戻れないなら傘下に入れるか追放する。

 それが役所から与えられているプロローグの仕事である。



 次に冒険者ギルドの仕事である。


 冒険者ギルドは荒事を行うギルドだ。

 それも、街の外で、である。

 魔物と戦うことが主な役割であり権益なのだ。

 当然命懸けである。


 なにせ、魔物というのは基本的に人間より身体能力が高く、また巨大であったり毒があったりする。

 さらには外見もまた恐ろしいものが多い。

 種類によって差はあるので一概には言えないが、見ただけで身がすくむような恐怖にとらわれるというのはよく聞く話だ。


 つまり強い危ない怖いのだ。

 そんなものと日常的に戦うことを強いられるのが冒険者なのだが、たまに大成功する者が現れる。

 多くは戦いの中で死に、あるいは後遺症を得て引退し寂しい末路をたどるのだが、ごく一部が英雄となるのである。

 魔物が危険な分、特に脅威が大きな個体を排除することが多大な功績となるのだ。

 そうして生まれた英雄そして美辞麗句で彩られ飾り立てられた英雄譚に影響された若いのが冒険者ギルドへと集まるのである。


 そういうやつらは十中八九最初の戦いで死ぬ。

 しかし魔物討伐は必要な事業でもあり、建前上冒険者ギルドは来るもの拒まずで運営されている。これは成立の際にあった出来事からくる悪習なのだが、未だに是正されていないのだ。


 そこでプロのローグの出番である。

 冒険者志望の若者を脅して冒険者になることをあきらめさせるのだ。


 いかついとはいえ所詮は同じ人間であるローグに脅されたくらいでビビってやめる程度の肝の太さでは初めて魔物に遭った時、何もできず殺されるのは目に見えている。

 冒険者ギルドとしても、若者の命が無為に失われるのも、魔物に人間の味を覚えさせるのも、どちらも都合が悪いというわけだ。

 仮にすべて受け入れて、ギルド登録者の死亡率が一般に流れてしまったら、英雄を生み出す人類の礎たる冒険者ギルドの地位は失われてしまうだろう。

 適性がない者はを排除することも必要なのである。


 そのために冒険者ギルドに根を張り、恐ろしい風体で脅しをかけるのだ。

 殴り返してくるくらいなら半分合格。

 とはいえ暴力を向ける先が人間では困るので鼻っ柱は折っておく。

 そしてフォローを冒険者ギルドが行うことで若者の中でのギルドの信頼度が上がる。

 これでギルドに対しては従順で身の程を知りつつも勇気を持った構成員が残る仕組みである。



 街の中の担当である役所、そして街の外の担当である冒険者ギルド、そのどちらにも貢献しているプロローグ。

 それが俺であり俺たちだ。

 この秘密を知っている者は役所、冒険者ギルド、ローグの三者の中でも一握りであるが、世には知られないところで世のために貢献しているのである。




 さて、今日は冒険者ギルドでの仕事だ。

 昼間から併設の酒場に居座り、志望者らしい者を待つ。

 来た来た。

 男一女三の若者だ。かつて現れた英雄と同じ構成。

 話を聞いているとずいぶんと自大な少年のよう。これは見逃せないだろう。


 さあプロローグの仕事をしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

プロローグ ~プロのローグ~ ほすてふ @crmhstf

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ