第81話 こもる熱
まさか、ライラ様と王子にそんな繋がりができていたなんて思わなかった私はただ驚くことしかできなかった。
たしかに、后関係については王子に直接掛け合うのが近道ではあるのだろうけれど、常人であればまずそんなことはしないだろう。自分はあなたの后になる気はありません、なんて面と向かって王子に言うにはどれだけの度胸がいるのだろう。
「そういう関係もあって、ライラ嬢にはこうして宮廷に気ていただいて状況の確認をしているのです。それに、ライラ嬢は賢く意志の強いご令嬢ですから、話していても楽しいですし」
「身に余るお言葉ですわ」
ライラ様は恥ずかしそうに頬を桃色に染めた。
そのあと、二人は貴族社会の情勢の話をした。誰が后として相応しいのか。どこの貴族が力をつけてきているのか。后候補の一人であるライラ様と王子が話す内容とはとても思えない。
次第に話は逸れて、屋敷での生活をはじめとした世間話が始まった。
ライラ様はその話の間、よく笑った。今まで家族や使用人に対する態度しか見たことがなかったから、王子と話すときのその顔はすこし新鮮だった。やはり身内と、他の人とでは違うものなのだろうか。
相手は王子という尊い身分ではあるが、ライラ様はいつもよりも無邪気に笑っているようだった。
王子もずっとにこにことライラ様の話を聞いている。こちらもまた、打ち解けたような空気だ。ずいぶんと二人が親しいことが分かる。
「さて、そろそろ私は政務の時間ですので、今日はこの辺りで」
「ええ。わざわざお時間を作っていただいたこと感謝いたしますわ」
「とんでもない。また来てくださいね」
ライラ様が退室をしようと立ち上がる。そこで、彼女の体がぐらりと揺れた。とっさに王子が腕を差し出して、その体を受け止める。
「大丈夫ですか?」
「ごめんなさい。ただの立ち眩みですわ」
「そうですか――? 馬車まで送りましょう」
大丈夫、と言い張るライラ様の手をとって王子は部屋を出た。
ライラ様は申し訳ないような、気まずいような、何とも言えない顔をして王子に付き添われていた。ほんのりと頬が染まっていて、熱でもあるのかもしれない。
「無理をさせてしまったようですみません。屋敷に戻ったらしっかり休んでくださいね」
心配そうな王子に見送られながら、馬車はゆっくりと走り出した。
「ライラお嬢様」
「大丈夫よ」
声をかけるジルに、ライラ様は眉を寄せながらも微笑んだ。
熱こそなかったものの、ライラ様は屋敷に戻ってから数日寝込んでしまった。
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