第78話 お出かけ準備

「今日はどちらに?」

「王宮へ。殿下から招待状をいただいておりますので」

「殿下から?」


 聞き返すと、ジルは頷いた。王子直々の招待状がライラ様個人に届いているなんて、后争いをしている他の貴族たちが聞いたら発狂しそうなものだ。


「王宮へはライラお嬢様と私とリーフの三人で向かいます。お嬢様の準備ができ次第出発しますから、そのつもりで」

「はい」

「リーフがいてくれると仕事が減って助かりますね」


 ジルはにっこりと微笑んだ。どこからか「きゃあ」っと可愛らしい声が聞こえる。ご令嬢にも人気の美男子であるジルは、屋敷の中でもモテモテらしい。バルド家に仕える少女たちの黄色い声が度々聞こえるのにも慣れてきた。


 本館に移ってから、私はほとんどの勤務時間をジルと一緒に過ごしている。最初は少女たちのざわめきに困惑していたが、最近ではいっそ呆れてしまう。


「私、そんなに仕事してないと思うのですが」

「いえいえ。とても助かっていますよ」


 ライラ様にはたくさんの召使いが仕えている。これだけの人数がいれば、私に回ってくる仕事は少ないもので。さらにはジルが完璧に仕事をするせいで、私はやることがない。腕がなまりそうだ。


「顔もよくて仕事ができるとか嫌味ですか」

「なんのことでしょう」


 ジルはきらきらとした笑顔を振りまく。


 そのうち、お待たせいたしましたとメイドの声がかかった。ライラ様の支度が終わったようだ。もともとの端正な容姿に、メイドたちが全力で着飾ったライラ様はやはり美しかった。

 けれど、どこか弱弱しい印象があって首を傾げる。


「それでは参りましょう」

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