第4話 異界化

『速報です!数日前から行方不明となっていた――』


 僕達は特に会話を交わすこと無く、送声機ラジオから流れる朝のニュースを聞きながら朝食を取っていた。

 ニュースの内容は『突如として異界化を起こした帝都北東に位置する町『ライルフェリア』の調査に向かった3人の帝位継承権を持つ王子が、行方不明になっていたらしいのだが、そのうち2人の王子が死亡、残り1人が重傷を負った状態で発見された』と言う内容のものだった。

 ニュースキャスターの緊張した声色や内容から国の一大事となる大事件で有ることは解るのだが、記憶の無い僕にとっては何処か遠くの、と言うよりまるで物語の中の話を聞いているようでいまいち実感がわかない内容だ。

 それに、『異界化』と言う単語の意味が解らない僕には思い出せないのだが、何故か聞いたことのあるような不思議な感覚がある。


「おや、アレン。何か気になるのかい?」


 しばらく考えていると、それが表情に出ていたのか気付いたナナリーさんが僕に声をかけてきた。


「いえ、先ほどニュースで出た異界化、と言う言葉に聞き覚えがある気がするのですが・・・・・・どうしても思い出せなくて」


「ふむ・・・それじゃあ、その異界化について説明しようか。もしかしたら話してる内に何か思い出すかも知れないしな」


「お願いします」


「異界化、ってのはライルフェリアで起こった異変がそう政府から命名されたもので、今回初めて観測された現象なんだ」


「そうなんですか?」


「ああ。で、その内容としては、ライルフェリア近辺が突如として高濃度の魔力の霧に覆われたと思ったら、強力な魔物が湧き出して来てライルフェリアはほぼ壊滅状態、てな事態になったわけだ。そこで、アタシ達の世界とは異なる法則に支配された、って意味で異界化って名付けられたわけさ」


「その現象は・・・今のニュースを聞く感じじゃ解決してないんですよね?」


「ああ、そうみたいだな。数日前、生き残っている町民の探索と原因の調査に派遣されたんだが、その陣頭指揮を執っていたギルガレア第1王子、ラグナシア第2王子、メルマルク第3王子、アルフリード第6王子の内、ラグナシア王子を除く3人とその配下の騎士数名が行方不明になったのさ。まあ、アルフリード王子に関しては兄のラグナシア王子に同行してただけで騎士団は連れて無かった、と言うかまだ年齢的に騎士団を指揮する権限が無いからいなくなったのは残り2人の配下だけだけどな。そんで、その国の一大事に連日ニュースはこの話題一色、ってわけさ」


「なるほど。ところで、そんな中でも第2王子だけは無事だったんですか?」


「真偽のほどは解らんが、第2王子の証言では調査中に魔物を引き連れた漆黒の鎧に身を包んだ不気味な騎士、通称『黒騎士』が襲撃してきて応戦していたところ、突如空間に歪みが生じて他の王子が騎士団ごとそれに飲み込まれて姿を消したらしい。まあ、実際は第2王子が歪みに飲み込まれる直前に第6王子が庇った事で難を逃れたって話しらしいが・・・・・・どうだか。その後に第2王子とその配下が黒騎士を取り逃がしている事から世間では自身の帝位継承を確実とするため、他の王子を罠にはめたんじゃ無いかって噂が流れてたみたいだがな」


「ナナリーさんも第2王子の策略だと?」


「いいや、違うだろうね。第3王子の部隊はほぼ全員歪みに飲み込まれてるから証言が無いが、残された第1王子の部隊もほぼ同じ証言をしてて、その中には帝国騎士団団長で帝都十傑の筆頭騎士である《剣帝》ガルシアもいるから間違い無いだろうね」


 帝都十傑。

 この言葉は何故か覚えているようで、それは皇帝よりその実力を認められた帝国最高の力を持つ10名に与えられる称号だったはずだ。

 しかし、言葉の意味はわかるが、肝心の十傑のメンバーとそれぞれに与えられる二つ名は残念ながら思い出せそうに無い。


「ちなみに、今まで話に出てきた第1王子、第2王子、第3王子もそれぞれ《聖剣》《重剣》《閃光》の名で知られる十傑のメンバーであると覚えておくといい」


 つまり、今の話しで解るのは帝国最高の実力者10人の内4人がいる状況で戦い抜くだけの実力が黒騎士にはあり、異界化した土地がそれほどまでに危険な場所であると言う事か。


「それで、今までの話しで何か思い出せたかい?」


「いいえ、すみません」


「まあ、アレンの年齢を考えればその行方不明の騎士の一人、なんてのは考えられないし、第1王子が保護されたのがガルム山の麓にあるリヴァイス川って事はアリアと会ったフェリル山と離れすぎてて関連性は無さそうだからね」


「確かにそうですね」


 ちなみに、先ほどのニュースで報じられた第1王子の証言によれば、全員ガルム山の山頂付近に飛ばされた後、山を下りている最中に再び強力な魔物を多数従えた黒騎士の襲撃を受け、応戦の末撃退に成功するが、その戦闘により第3、第6王子それに共に飛ばされてきた騎士全員、つまり第1王子以外全てが命を落とし、生き延びた第1王子も瀕死の重傷を負ったため、事の顛末を捜索隊に話した後は意識を失い、未だ予断を許さぬ状況らしい。

 なお、黒騎士の振るう刃により命を落としたと思われる第3王子については最小限の損壊で遺体の回収を行えたものの、大半の遺体は魔物により体の大半を食いちぎられており、同じく損壊を受けている第6王子と思われる遺体については、その体格や身に付けている鎧から本人確認を行わざる得ない状況だったという。


「まあ、異界化って言葉に引っかかりを覚えるって事は少なからず何か関係があるんだろうさ。話しによれば、ライルフェリア内で空間の歪みが発せする現象は度々観測されているみたいだし、その時に運良く町の外に飛ばされた町民、って線も考えあれるだろう。それに、もしかしたら異界化現象が観測された直後にライルフェリアに帝都や近隣町村から友人知人を探しに行った人が大勢行方不明になってるみたいだし、そんな行方不明者の一人がアレンなのかも知れないね」


 そんな、あまり穏やかでは無い会話をしながら僕達は朝食を済ませたのだった。

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