第11話

 レオのすすめにより一度屋敷に招待される事となった。

レオ父親はこの国で貿易王と呼ばれるほどの人物で、実質的にこの国を動かしていると言っていい。

母親もまたこの国一番の音楽家だそうだ。そんな話を屋敷に向かう途中で聞かされた。正直もう少し早く聞いておきたかった。

今回は正式なレオの友人として隠れ家の秘密通路から向かうのではなく、堂々と正面から屋敷に入る。

レオからは屋敷に入るまでワトスとルットにマントと頭巾を取らないように言われている。これは北区での出来事以来、俺も注意していた。あんなことが2度と起こらないようにその後は細心の注意を払っているのだが、当の本人達はそんなことなどおかいなくと言った感じである。

今朝はマントと頭巾を身につけるのが嫌だったワトスが大暴れし、押さえつけた時に顔に引っ掻き傷ができてしまった。

「その顔似合ってるわよ」

嫌味たらしくレオが顔を覗き込んでくる。

「うるさい。そんなことより俺たちが屋敷なんて行って大丈夫かよ。この街の人って獣人嫌いなんだろ」

俺はそこが心配だった。レオの父親程の人なら余計に獣人を嫌っている可能性も十分にある。

「あーそへんは大丈夫、大丈夫。私の家族は獣人嫌いじゃないから。むしろ好きかな」

変わった家族なんだよっと冗談なのか本気なのかわからないようなことを言ってくる。

「じゃあ、とりあえず大丈夫なんだな」

「問題ないって。むしろ心配なのは桜花だけ。他の2人は問題なく採用されるから桜花は頑張ってお父様に気に入られて私専属の使用人になってよね」

ばちんと思いっきり背中を叩かれ前のめりに倒れた。

こいつは本当に加減を知らない。



 レオの屋敷に到着すると大勢の使用人が出迎えてくれた。

「すげぇ。本当にお嬢様かよ」

この光景に驚いているとルットが足元にすり寄ってきた。

「桜花、もうこれ脱いでいい?」

ああそうか、屋敷に着くまでって言ってあったしな。でもこんな人前じゃさすがにヤバイか。

俺はそっとレオに耳打ちする。

「なあ、マントと頭巾は…」

レオは、はぁぁんっと色っぽい声を出して俺と距離をとった。

「何をなさいますか。こんな使用人の前で。不埒な」

ちょっとさっきまでとキャラ変わってますよレオさん。

「いやいや、お前そんなキャラじゃ…」

「桜花〜、脱いでいい?」

「ワトスモヌイデイイカ?」

八方塞がりである。

どうする?レオの誤解を解くのが先か、ワトス達を何とかするのが先か。

てかワトスはもう半分脱いでるし!

パニックになっていると奥から他の使用人と雰囲気が違う方が出てきた。

「お嬢様、お戯れはそのへんに。今日はヴォルフ様もお待ちです」

「あら、今いいところだったのに。桜花紹介するわ。この堅苦しい使用人はケーテ。この屋敷の筆頭使用人よ」

「お嬢様からお話を伺っております。お嬢様専属使用人になるとか。使用人になれた暁には当家に相応しい使用人として指導させていただきますのでお覚悟を。桜花」

なるほど、初対面でこれか。心が折られそうだ。

「後ろのお二方も覚悟してくださいね」

完全にマントと頭巾を脱いでいたワトスとルットは、怪物にでも睨まれたかのように小さくなって俺の後ろに隠れた。

「採用されましたら、お手柔らかにお願いします」

反論する勇気もなく、そう言い返すのが限界だった。



 ケーテに案内された部屋で準備が整うまで休む事となった。

レオも準備のため何処かに行ってしまった。

部屋の前を通る使用人からは先ほどの醜態が余程面白かったのか笑い声が聞こえてくる。

「はぁー、もう疲れた。帰りたい」

高級なソファに身を委ねながら天井を見つめているとワトスが横に勢いよく座ってきた。

「スゴイヨ!ミンナピカピカ」

反対側にはルットが座ってきた。

「こんなに高そうなの初めて見た!」

この2人にはストレスとかそうゆう概念はないのか。

だがしかし、これはもふもふを堪能するチャンスだ。レオとケーテさんに傷つけられたこの心の傷を癒すにはもふもふしかない。

しかし俺はどちらの尻尾を先に愛でるべきだろうか。

最近はルットの尻尾を触った記憶はある。まぁ本人はこの事を知らないが。

そうなるとここはワトスの尻尾を先に愛でるべきか、いや、待て。

そんな事をしてはルットがやきもちを妬いてしまうかもしれない。

ここはどうだろう、2つ一遍に愛でてしまえばいいのではないだろうか!

きっとそうに違いない。そう心に決め俺は咳払いをする。

「おっほん。2人とも最近尻尾の手入れがあまり行き届いていないようですね。ここは是非、私めが手入れをいたしましょう」

よし、これで自然に2つの尻尾を愛でることができる!

「桜花ガモウシヨウニンノマネシテル」

「あ、あの…お願いしても…いいの?」

もちろんっと返すとルットの尻尾を膝の上に置き、反対からはワトスが自ら尻尾を差し出してくる。

今、俺の膝の上には世界的秘宝が2つある。世界中の冒険家達ですら見つけることができなかった秘宝だ。

俺は秘宝の周囲に罠がない事を確認し、秘宝へと手を伸ばす。

おっと危ない!秘宝自体に何か罠があるかもしれない。秘宝を目の前に焦ってはいけない。ゆっくり慎重に手を近づける。

指先が秘宝に触れると、俺の体に電流が走る。

罠か!っと一瞬手を引いてしまったがこれは罠ではない。

秘宝のあまりの凄さに体がブルッちまったのさ。

再度秘宝に手を近づけ指先が触れるとまた体に電流が走った。

しかし今度は手を引かない。そうそう何度もビクついてもいられない。この先に待っているであろう、もふもふを手に入れるために。

「最高に気持ち悪い顔してるわね」

はっと顔を上げるとレオがいた。

「おわぁ!いつからそこに!」

「今さっき。それより何してるの?もしかしてまた変な事しようとしてるの?」

一瞬オーラが変わったかのように見えたが見間違いだろう。

「またって何だよ。ただ尻尾の手入れをしようとしてただけだ。」

「ふーん。今度私にもやらせてよ」

「ワトスとルットがいいよって言うならいいぞ」

俺には長年、尻尾を手入れしてきた経験がある。どうせ力任せにやるレオなんてワトスとルットが気にいるはずもない。

「そう、じゃあ今度お手入れさせてね。ワトスちゃん、ルットちゃん」

「イイゾ!」

「私は桜花が…」

ルットが何やらもぞもぞと喋り始めたとき部屋にケーテさんが入ってきた。

「皆様、準備が整いました。ヴォルフ様のもとに案内いたします」

ついに貿易王との面会だ。

ワトスが失礼な事をしないか心配で胃が痛くなってきた。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る