恋に恋するおんなのこ

沙久良 えちご

恋に恋するおんなのこ

わたし、御花畑恋おはなばたけ れん!恋に恋する中学1年生!

突然ですが、わたしには好きな人がいます。今まで色々なことをして振り向かせようとしてきたけど、大丈夫!なぜならわたしは、あの子のことならなんでも知ってるからね!あの子が好きな髪型、あの子が好きな喋り方、あの子が好きなシチュエーション、わたしが知るあの子のことを全てを総動員して今日という聖戦バレンタインに勝つ!あいつにチョコを渡す!


チョコを渡して…あの子なら「かわいいやつだな。こんなんで俺が喜ぶかっての。バーカ。…まあ、勿体ねぇからもらってやるよ……も、勿体ないから!だからな!」って言ってなんやかんやでいつかは「お前、1人のとき寂しくねーか?俺が隣にいてやってもいいぞ」とかなんとか告白……ひゃー!ヽ(^o^)ノそんな、だめー!!!


そんなこんなで放課後。

下校時間間近で誰もいない教室、下駄箱に入れた手紙、傾く太陽、普段は明るいわたしが真剣な顔で待ってる。うん、完璧。あの子は私に惚れる。あとは、あの子が来るだけ。

顔がりんごのように真っ赤になって、らしくもなくどきどきしながら待っていると


ガラガラッ

「おう。忘れ物のついでに来たぞ。」


来た。大丈夫やれることはやった。やる。あとは、砕ける覚悟で向かうのみ。いざ尋常に、しょう…ぶうぅぅ!?


ズダーン!


なんと、立ち上がろうとして転んじゃった。でも、まだ大丈夫こんなの失敗じゃない。

気を取り直すとわたしは


「いったたぁ…ころんじゃった……年かな?なんてね!」


と、いつものように言ってみせるのだ。


「大丈夫か?怪我はして無さそうだな。」

「ありがとう…」


と、いけないいけない!チョコを渡さなくちゃ!


上目遣い、普段よりも真剣な顔、近い距離感で


「あの、これ、チョコなのですが受け取ってくれますか…?」


オーバーなくらいに頭を下げながらチョコを差し出す。

完璧…!これで目の前のあいつは惚れたは…ず……

確信とともに上げた頭。その目の前には、


目の前には無表情でこちらを見つめる彼がいた。


「あ、あの!これチョコ!受け取ってくれる!?」

「……」

「な…なんで黙ってるの!?受け取ってくれるの?くれないの?どちらなの!?」


「はぁ……うっさいなぁ…受け取るか、媚び媚び女。」


瞬間、わたしの全てが止まった。

な、なんて言ったの君は…?

す私は何も間違ってないよね…?

「なんて言われたか分からないか?お前の態度全てを指して媚び媚び女って言ったんだよ。」

「媚びっ…こ、媚びてなんかいないわよ!私はあんたのことなら何でも知ってる!あんた、こういうのが好きなんでしょ!?いつもは馬鹿っぽくて明るくて頭お花畑で、いざという時は真剣な顔になるのが!だから!私はあんたの理想になるようにがんばって頑張ってき…」


「誰がいつ、そんなのが好きって言ったよ?俺はそういうやつは好きでもなんでも無いんだけど?」


また、私の全てが停止した。校舎に微かに響く生徒の声も、夕暮れの寒さも、私にはなにも入ってこない。ただ、目の前の君とさっきの言葉、避けられない現実が受け入れられずにいた。


「どうした、黙って?自分の理想通りじゃなくてショックか?残念だが、お前の為に俺はいる訳じゃない。そもそも俺、チョコアレルギーだからチョコ食えねーし。そんなやつにチョコ渡しといて『君のことは全部知ってる』なんて冗談か?冗談ならもっとまともな冗談を付くべきだったな。話はそれで終わりか?じゃ、帰るわ。これからは言葉を交わすことも無いだろうな。」

「まっ、待って!なんでそんなひどいこと言うの…?私はなにも間違ってないよね?あなたは私のことが気になってて、私はあなたが好き。そうだよね……?」


いやだ…こんなところで終わりたくない。私の恋を、終わらせたくない。


「は?俺はお前なんかほとんど知らねぇよ。お前が俺を好きか?知らないけどお前は俺が好きなんじゃなくて、『俺に恋してる自分が』好きだったんじゃないか。それだから都合よく妄想してたイタイ奴、なんだろうな。じゃ、俺は帰るわ。」


「さよなら」



その後、私は何度もアイツを呼んだけどもう振り向くことは無かった。

名前を呼んで、呼んで、呼ん……あれ?アイツの名前、なんだっけ?

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恋に恋するおんなのこ 沙久良 えちご @meganekkosuki

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