第8話 残念な美少女(日向side)
その時俺は喫茶店の席に座りがら、
「まあ、良さそうな人だったな、あの人」と呟いた。
分かっていたこととはいえ、父親に好きな女性がいるというのは結構衝撃だな。母親の顔も知らないし、親父も苦労してるし、家のことをやってくれる人がいるのは嬉しい。男二人暮らしってなんとなく野暮ったいしな。悪い話じゃないとは思う。
でも、何だろうな。どこか割り切れない。あ〜。こう思っている自分に対してもなんだか嫌悪感だよなあ。
そんな風に自分の気持ちを持て余しかけていたら、急に前の席に見知らぬ ロングヘアーの 美少女が座ってきた。
「 え?何? 私のママのこと好きになっちゃった?」と、その美少女はまるで前から知り合いだったように、いきなり第一声でこう言ってきた!
今思えば本当に信じられない奴だ!ふつう最初は挨拶くらいするだろ!
「 誰?」と俺がきょとんとしていると、急にその美少女はかしこまってよそ行きの笑顔になった。
「 ごめんなさい。やだ、私ったら自己紹介遅れましたね。さっきあなたが会ってた岩橋彩の娘の岩橋凛です。よろしくお願いします」
よそ行きの顔になると美少女は別人のようにさらに美しくなり、まるで美少女イラストのように整った顔になった。
でも、確かにそう言われればどことなく彩さんは雰囲気が似ていた。 彩さんはちょっとタレ目で童顔なのに対して凛はスッとした大人っぽい美少女だったので両方美人ではあるがタイプはまるで違っていた。 凛はおでこを出しているから余計大人っぽく見えたのかもしれない。だけど、そういうぱっと見の印象はまるで違うのに、じっくり見てみるとどことなく雰囲気が似ているのだ。
どこが似てるんだろうと思って顔をまじまじと見ていると凛はイラストのような綺麗さのままで、
「そんなに女の子の顔を見つめないでいただけるかしら」と俺をたしなめた。
「ごめん」と謝って頭を下げた時には少し照れて赤くなっていたような気がしたので、僕もなんだか少し照れてしまった。
でも、下げた頭を上げると凛の顔にはもうその照れた表情はなかった。錯覚だったのかもしれない。
凛は顔を崩してニヤニヤしながら言った。
「 そっかー、若く見えるけど。 あれ40は超えてるからね。 まあ、娘がこんなに大きいから想像はつくと思うけど」
さっきからすごく不思議なんだけど、どうしてこの娘は俺が自分の母親に一目惚れしたと思っているんだろう。女子って本当に何でも恋愛に結びつけて考えるよなあ。美少女なのに恋愛脳でかわいそうに。
正直、ずっと親父と二人で暮らしていて家に女性も居なかったからか、あまり俺は女性慣れしていない。付き合った経験は何度かあるけど、みんな付き合った数にカウントしていいかどうか迷うぐらい、すぐに分かれた。経験値が少ないからそう思うのかもしれないけど、こんな変わった女の子は生まれて初めてだった。顔はかわいいのに本当に残念な娘だ。
それが、凛と俺との最初の出会いだった。
そして凛は一緒に暮らすようになって、いつの間にかこうやって勝手に部屋に入ってくるようになった。
「なんかお前が俺のことを好きだってことになってたよ」
「ああ、それ私がママにそう誤解させるようなことを言ったから」とこともなげに凛は言った。
「なんだそれ、じゃあお前が元々の原因じゃないか」
「はは。そうかも。でも、結構前の話だし、軽い冗談だったんだけどね」と言ってから凛は顔を覗き込んできて、
「それがきっかけでママが好きなことがバレたんだったらゴメンね。パパに知られたくなかったよね」
凛はちょっとすまなさそうにしていた。
「別にどうでもいいけど」
まあ、本当にどうでもいいことだ。
「あのさ」とちょっと間を開けてから凛が言った。
「ママにフラれたら、私が慰めてあげるね」
「なんだそれ」と俺が言ったら凛はフフフと笑った。
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