コンプレックスなコンプレックス

相川青

第1話 え?お前高校生だろ?(涼介side)

「ぽぇ!?」

 俺の口から変な声がでてきた。

 全く予想外のことを息子の日向(ひなた)から言われたからだ。

 それは晩になってもまだまだ暑い、夏の終わりのことだった。





「俺、彩(あや)さんのことが好きかもしれない」と呟くように日向は告白した。

 その彩さんというのは、こともあろうに最近再婚した私の妻のことだった!



 いや、もちろん日向と彩は血のつながりはないんだから、付き合えると言えば付き合えるけど。…って!!、俺何考えてるんだ?そんな問題じゃないよね!?これ。



「大丈夫。だからってどうかしようって気はサラサラないよ。それはもちろん彩さんもだし…」

 日向は思ったより俺が驚いているからか少し戸惑いを見せながらも構わずに低い声で話し続けた。

「凛にもだよ。 たとえ凛が俺のことを何と思っててもね 」

 凛ちゃんというのは彩の連れ子だ。日向より一歳下の高校一年生で、俺の義理の娘になる。



「気付いてたのか?凛ちゃんの…その、あれ…あれだ。その気持ちに」

 頭が真っ白になりながら、私は何とかその言葉を捻り出した。

 日向は年相応の親に対して時々見せる嘲笑じみた笑いを浮かべながら、

「う〜ん。なんとなく、あれ?そうかも?くらいだったけど、親父が何の脈絡もなく「もし付き合うなら正直に教えてくれよ」なんて言うのは、そういうことだよね」

 図星すぎて何も言い返せなかった。いつまでも子供だと思っていたけど、日向ももう高校生だもんな、となんだかちょっと感心した。そしてこんな時で混乱しているのに、自分の息子の成長が嬉しくも思った。





 でも、俺は田舎の高校生だったからか、自分が日向くらいの頃は何も考えていなかったけど…。なんて、色々な感情が一度に溢れてきて処理しきれなくなってどう反応していいか分からなくなっていたら、少し呆れた顔をしながらも日向は

「とにかく気にしなくていいよ」と言ってからリビングから出て行った。

 でも、リビングを出る瞬間に日向は小さな声で「正直に言えって言ってたじゃん」と呟いた。



 こういう時、一見納得したようなそぶりをしながらも、小さく本音を漏らすところは若い時の日向の母親そっくりだと思った。でも、思っても、本人には伝えない。これは伝えちゃだめなやつだ。それはよく分かっている。





 俺は土曜の夜のリビングに一人ぽつんと残されていた。彩は寝室にいて、凛ちゃんも自分の部屋にいるようだった。



 全く情けないことだけど、日向が部屋を出て行ってからも、しばらく考えがまとまらなかった。

 戸棚の上から焼酎の瓶を取り出し、最近家族四人で揃えたおしゃれなコップにトクトクと注いだ。このコップを買ったのはわずか数日前のことなのに、それがもう、ずっと前のことのように思えた。コップを買った頃は家族になりたてで初々しかったなあ。



 考え事をしていたら思ったより焼酎を入れすぎたことに気付いた。でも、構わずそのまま水割りにしようと思って水道水を足そうとした。そしたら浄水器から浄水ではない水がシャワーの状態で出てきてコップを濡らしながら、コップを少しづつ満たした。





 その無意味に野性味あふれた焼酎の水割りを飲んだら、ゴクリと喉が鳴った後に

「ふーっ」と大きなため息が出た。息をするのが久しぶりに思えた。

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