第132話アインシュタインの中

万全の体制でと言われダークネスの残党を倒してから1週間後。

俺とウェンはハーミット様の部屋に居た。


アインシュタインにまた潜入する為だ。

今、潜入前の腹ごしらえ。満腹で挑む。


「ゼットは?」

ウェンがそう聞くと


「バックスレーとリュートとゼットは毎日リオに行っているよ。マーシェルファミリーのボスが強いらしくてね。」

ジハードとディードも割とリオで特訓している。


ボスとシアンはオーガと荒野。

ラズとリョウとバニラさん、エルーカさんも荒野だっけ?

それぞれに何かしら鍛えている。


今日の俺とハーミット様は鍛えると言うより潜入。


「1週間政府を監視していたけど。オーガとリュートは無事に死んだ事になったよ。」

政府はそう判断したとハーミット様は言った。

「そう言えば彼奴らの名前は何にしたの?」

偽造国民カードもハーミット様が新しく作り直した。

「オーガ・ジャッジメントとリュート・チャリオット。そろそろ名前のネタが尽きるからもう増えないで欲しいよね?」

とハーミット様は苦笑した。


「悪魔や死神、塔は不吉だしね。」

うんうん。とウェンとハーミット様は頷きあっている。

俺に選ばせようとしたラバーズは使われなかったのかあ。


「食ったら行くか!」

「行きますか!」

ウェンは俺達の身体状態の見張り役。


何も無いと良いけれど。少し不安はある。

元、総帥の中だし・・。

「戻ったらまた御飯だよね?」

ウェンはフフっと笑い送り出してくれた。


――潜入インフルテーション――


――文王、潜入――


前回と同じ風景が目の前に広がった。


「闇まで飛ぶよ。」

「了解です!」

ハーミット様によってハッキングされたアインシュタインの中は静かだった。


何事も無くこの前、倒した蝙蝠の居た部屋まで辿り着く。


「気配も何も無い。」

ハーミット様は剣を手に取った。


「今度はどんな敵なんですかね。」

文王の俺も剣を抜いた。


無音の漆黒の闇が目の前に広がっている。


それは恒星の無い宇宙を想像させた。


ハーミット様が闇に1歩足を踏み入れた。


バシュ!バシュ!バッ!バシュ!!!!

無音の空間に風を切る音が広がった。


ハーミット様!!!


慌てて俺も闇の中へ入った。


「あっぶっねー!!」

何本飛んできたと言う数の無数の矢が床に落ちていた。

「いや、全部落としたけどね。数がクソ多い。」

ハーミット様はブツブツ言っているが本当に凄い人だ。

普段は全然、強くないと見せ掛けているハーミット様は実はボスと同格の体術の持ち主だと知った時はまじで驚いた。


でも、体力は無いから俺は弱いよ?と言い張る。

だからと言って特訓は本当にしたがらない。不思議な人物だと未だに思う。


特に闇の中の戦闘は強さが際立つし。


「矢の次は何だろね?」

矢の嵐を抜けると少し闇が晴れた。


まだドアは無い。


「闇の中、見て。」

ハーミット様が指を指した。

光りが2つ。


「獣だな。嫌だねー。獣を倒すのは趣味じゃない。」

ブツブツ言いつつも剣を構えた。


獣は闇に踏み込んだ瞬間、来る!


意を決して2人で踏み入れた。


グルルッッ!!!


獣は俺が弱い獲物だと良く解っていた。襲われたのは俺。


剣で攻撃を受けた。重い!!

食われる!!!!


ガルル!!ガウ!!


その何かの獣は俺を押し倒し噛み付こうと牙を立てる。

必死に剣で剣で抗っていると

ドスッ!!

と言う音と共に獣はハーミット様の剣の串刺しになった。

「ライオンかあ。」

平然とそう言う声にホッとした様な呆れた様な。


「ハーミット様、1人でも潜入出来そう。」

俺、やっぱり役に立ってないぞ。


「扉発見!!」

全く人の愚痴を聞いてないな。まあ、良いんだけど。

ここには獣のボスかな・・・。


「行くよ!」

ハーミット様が扉を開けた。


グルルッ!!!

さっきの2倍?!はあるデカいライオン。

見た事無い様なデカさ。


そのデカいライオンが猛突進してきた!


「うわっ!」

必死で避けた。


「クソ!だから!獣を殺すのは好きじゃないって!」

ブツブツ言いつつもハーミット様は俺を庇う様に前に出た。


「本物じゃないのは解るけどね。」

ムスッと不機嫌なままだがどんどんライオンを追い詰めて行く。

ハーミット様も前より強くなってる。


俺も頑張らないと!


追い詰められたライオンの背後で構える。

「良いね。ミナキも良く動きを見て。」


ライオンはハーミット様に警戒しながらも俺へも意識が向いているのが解る。


来る!!!


飛びかかってきたライオンを素早く躱す。

「おーりゃー!!」


ズブっとライオンの脇腹に剣が刺さる感触がした。


そのままライオンはフッと消えた。


こう言うのって何て言うのか。AIでも無いし。

生々しいのに実態は消える。


「ここが召喚士の部屋かなあ?」

確かに。順番ならユウヤ・エノキズの所か。


部屋を出て更に奥に広がる闇を見た。


後、2つか。


「行くよ。」

ハーミット様に言われて頷く。


また先にハーミット様が踏み込んだ。


「来るなぁ!!!!」

ハーミット様は大声で叫んだ。


「ハーミット様!?」


何が起こったのか解らない。


俺も踏み込む?


「だぁぁ!!!!」

叫びながらハーミット様が闇から転がりながら出てきた。


「咬まれた。一旦退避!!」

ハーミット様の身体には無数の噛み痕があって血が薄らと流れていた。

闇からはシュルル・・・。シャーっという音と闇からチラリと何かの体表が見えた。


これは!蛇?!


緊急退避!!急げ!!


ハーミット様を抱き抱え飛ぶ。

その時ウェンの声が聞こえた。意識は瞬間移動の様な勢いで戻った。


目を開けるとウェンが俺の身体を揺すっていた。

「おい!ミナキ!!アルージャが!!」


はっ!!と覚醒しハーミット様を見た。


「痛ってぇぇ・・・。」

顔色が真っ青のハーミット様がはぁはぁと肩で息をして今にも椅子から落ちそうにしていた。


「ヤバいヤバい!毒蛇だ!」

玉女!!助けるよ!!


――血清抗体セラム・アンチボディ――


毒消し。


身体にまでこんなに影響が出るとは・・。


「治った・・。まじで勘弁して欲しい。」

助かった。本当にありがとう!とハーミット様微笑んだ。


顔色もすっかり戻っている。


治りは身体を咬まれるよりは早いみたいだな。


「あんな数の毒蛇の大きいのやら小さいのやら。足元は全部!蛇!!」

とハーミット様は叫んで溜息を付いた。


「飯にしよう。」

ハーミット様はウェンに御飯!!と訴えた。うん。俺も疲れた。


確かに一旦休憩が必要・・・。

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