第118話エメリヒ

電話をかけるフリをしながらVIPターミナルに近づく。


此方はVIPターミナル以外何も無いから人通りが段々と減る。



だから・・。普段は吸わないんだけどね。


小芝居には色々必要だ。


この位置が最も怪しまれないベスト。タバコに火をつける。

灰皿が良い具合に国際線ターミナル玄関口から離れたこの場所にあった。


リムジンはVIPターミナル玄関口前に停まった。


ヴァルヴァラが1番最初に降りて一瞬こちらを見たが直ぐに車の方を見た。アランが降りて来て誘導する様に待つ。


玄関口の警備していた政府異能者が車に近づく。


降りてきた!ふぅー。タバコを吹かす。


黒髪に白髪混じりの割と小柄な男性。同じ国って言ってたな。ミナキやリョウやリュート達と本当に人種が同じ感じ。

トール元帥だろう。


異能は・・・なるほど。


決してジロジロ見てはいけない。


一瞬で大丈夫。


人を見る時はチラっと。関心がある人物であるなら尚更。


少し遅れて・・・。


あいつか。


エメリヒ大元帥の登場だ。


チラリと横目で見た。


割と背も高い。

ロマンスグレーって言葉が似合う。見た目はスーツの似合う紳士。

元の髪色は茶髪と金髪の混ざった感じか。

若い頃はイケメンだったんだろうな。


でも、恐ろしい程の冷たい瞳。



こいつは本当に目は合わせてはいけない。


何食わぬ顔でタバコを吸い続ける。


異能確認完了。


VIPターミナルに入る際にアランがぐるっと周囲を確認して中に入って行った。


ふぅ・・・。


さて、ここで直ぐに動いてはいけない。

あくまで俺は一般人。


タバコは最後まで吸う。


危険察知を使いたい所だが本当に異能を下手に使うのは危険。


あくまでも感じれる範囲の気配を探るだけ。


リョウから本当に電話だ。


「もしもし。」


「国際線ターミナルから見てるで。もうちょい待ってな。」

流石、打ち合わせもしていないのに心強い動きをしてくれる。


アルージャもシアンも良く理解している。

まだ動かない。


こんな緊張する偵察は初めてだ。


しかし、異世界人の異能は大抵見てきた。

性格や仕事が関連するレア異能の中でも本当に強力。


総帥って奴はとんでもない者を召喚したんだな。


「あっかーん!」

「どうした?!」

リョウの声で我に返った。


「いや、何や知らんけど!ヘリが到着してん!ベイクが降りてきた!」

まじか・・・。


入れ替わりで専用機に奴らが乗り込んだのを確認まで安心は出来ない。バレたら即、此方に奴らは向かって来るだろう。


「乗ったで!でも、ベイクも間もなく外へ出るわ!」

怪しまれず・・・。


ゆっくりと国際線ターミナルに向かって歩く。

先にアルージャは中に入った。

シアンはそのままで良い。動くな。

OK。流石、俺のシアン。理解している。


少しずつ一般人が増えてきた場所あたりでリョウが今、出た!と言ってきた。


紛れろ。

人混みに敢えて入っていく。


国際線ターミナル玄関口まで辿り着いた。


ベイクは・・・。


振り返る事は出来ない。


焦りは見せず。落ち着け。


ゆっくりと国際線ターミナル内に入った。


外のシアンは無事か?確認したいがそのまま空港内を突き進む。


リョウとアルージャは何処だ?


エスカレーターに乗り玄関口を漸く見る事が出来た。

まじかよ・・・。バレたのか?


ベイク・マスターの姿が見えた。


「大丈夫や。まだバレてへん。」

「じゃあ、何故?」

リョウは電話口でそう言う。


ベイクは此方には来ずに空港内のカフェへ入って行った。


「あー。サボりやん。」

「はぁ。驚かせるなよ。」

全く、空港内で戦闘は勘弁して欲しかったから助かった。

空港内警備に異能者は居るがコイツらはどうでも良い。


エスカレーターで上った所にリョウとアルージャは居た。


「お疲れ。」

「シアンは?」

「駐車場にまだおるな。その方がえーな。」

偵察異能は本当に有難い。


そこから1階に再び下りて外へ出た。


ベイクはティータイム中な様だ。

Sランク異能者もサボったりするんだな。


そう思いながらシアンと合流した。


「無事で何より。」

バレないシアンの気配を立つ能力も流石だ。


「帰るか。」

「何が見えた?!」

アルージャが聞きたがるが無事に戻ってからだ。


人目に付かない場所っと。さっき転移してきた此処で良いだろう。

空港から少し離れた寂れた空き地。


張さんを呼んで一先ず皆が待機して居る駆除屋に無事転移した。


駆除屋の張さんの元締め部屋に全員揃って居た。

「ボス、お帰りなさい!」

「無事で良かった!」


皆の安堵の笑顔が癒される。


「戦闘はしていないのに精神力つかい過ぎた感じだよね?」

アルージャが苦笑しながらソファに座る。


「じゃ、エメリヒとトールの話をする。」

俺がそう言うと全員座った。


「トール。対生物の機械化。例えば犬や猫でも機械化出来る。しかし、人間は洗脳による心を侵さないと無理だ。」


なるほどと皆、頷く。

「トールの異能は他には偵察、機械操作。これはアルージャの異能より上かも。」

無人の車操作も彼は出来るだろう。


「何かムカつくな。」

張り合う様にアルージャは苦い顔をした。


「さて。エメリヒとトールがセットになるとタチが悪い。」

洗脳されて機械化される。

想像しただけでも厄介。


「じゃ、肝心のエメリヒ大元帥。」

全員が俺に注目した。


「洗脳、マインドコントロール。先ずはこの2つ。そう肉体的や精神的ダメージが無くてもマインドコントロールである程度操作出来るんだ。」

この2つの異能は似てるが違う。


強力なのは洗脳。だが何もしなくてもある程度の言葉の誘導で脳内操作するのがマインドコントロールと考えて良い。


「あー。俺が会議とかで使われたんはマインドコントロールやな?」

リョウに尋ねられて恐らくと答えた。


「目を見たらもう何らかの操作されると思った方が良いよ。」

今日、目が合わなくて良かったと思う。


「他にもあるの?」

ミナキがちょっとビビった顔。


残念ながらある。


言霊ことだま。声による洗脳だ。」

まさか、見なくてもやられるとはね。


「ここまで洗脳に特化した奴って居なかったから。本当に対策考えよう。」


張さんにも話を聞いて貰えたし。

ちょっと嫌そうな顔してたけど。


俺達はアジトへ帰って来た。

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