第77話食って寝たら皆に話そう

ボスはヴェガさんの顔をじっと見た。

「見返りは?」


ヴェガさんはニヤっと笑う。

「エンバスター家の子飼いのマフィアを囮にして潰したい。まあ、簡単に言うとそんな感じだな?」

ん?何か意味が解らない。


「うん?マーシェルファミリーと争っているマフィアが居るのか?で?そこを潰すって事?」

ボスも良く解らなかったのか聞くとそうだと言った。


マーシェルファミリーはエンバスター家とは無縁。

エンバスター家が政府への氾濫を起こす?その時期なのかも。


ふと思った・・・。

このシアンを助けるって計画はカプリスの・・・死に繋がる話なのかもしれない。


こいつは死亡フラグ?


カプリスが政府と急に対立した理由がシアンの裏切りでは無くシアンの奪還だとしたら?

あー。寝て飯食ってるのに頭がまだ回らない。


「ミナキ?どうした?」

ボスが俺の表情に気づいて尋ねてきた。


「シアンは操られるのか?脳内チップを埋められるのか?それに寄って攻め方が変わるのかなあと。」

ヴァルヴァラだけを倒せば良いのか政府丸ごと敵になるのかで死亡フラグのレベルも回避方法も違う。


「うーん・・・。それは確かにそうだが・・。寝るか!俺もまだ全然アイデアが思いつかないんだよ。」

ボスも思考回路がまだ回らないらしい。


「俺も眠いし。ゆっくり考えよう。」

ヴェガさんはベッドは今日だけは使って良いぞと言ってくれた。

「本当にすまない。ありがとう。」

「ありがとうございます。ヴェガさん。」

遠慮無く好意を受け入れて再び寝室へ。

リビングルームでは普段なら気配で起きそうなのに全員寝ていた。


「起きたら。皆を説得出来るかな。」

ベッドに入るとボスが深刻そうな声で聞いてきた。


「正直に思いを話したら。解ってくれる筈ですよ。」


正直か・・。言えるかな。とボスは今まで黙っていたし。逆に身勝手な我儘に思われないかな。そんな風に1人で悲しそうに呟きながら眠りについた。


こんなボスを見たのは初めてだった。

適当で気まぐれで。何時も自信に溢れていて。


このシアン奪還の鍵は漫画には描かれて居なかった人物。

俺とヴェガさんになるんだろうな・・。


身体は睡眠を求めていて考える暇を与える事無く深い眠りについた。


「ミナキ。ボスも起きて。」

ウェンの優しい声とフワフワと俺の髪を撫でる手で目が覚めた。

「おはよ。ウェン。」

「あー。おはよう。2人とも。」

ボスも俺もグッと伸びをして起きる。


「おはよ。勝手に浄化したよ。風呂入ってないし。」

そう言えばそうだった。服も武闘着のままだったし。


「ありがとう。」

身体軽い。完全復活!

だけじゃないなあ!!


「ミナキ?」

俺だけにまた声が聞こえる。


――助けたいなら闘おうか?――


――最強の加護を――


その声は四神達の声だけではなくてもっと複数・・・。残りの5体が目覚めた。


「結界が強くなりました。」


そう言うとボスがじっと俺の目を見る。


「こいつは・・。すげーな。」

ニヤリと微笑まれた。

「俺もパワーアップした。」

「俺も。」

ボスとウェンもか。もしや全員?


「あれだけ戦闘したからね。」

寝室を出ると朝食中だった。


「おはよう。」

「おはようございます。心配かけてごめんなさい。」

ボスも俺も頭下げて御挨拶。


「うっわ。何だかめちゃ強くなってるじゃん!!」

ラズが俺とボスを見てすげー!と興奮した声をあげた。


「ミナキは予想してたけどボスもまだ限界突破するとはねえ。」

ハーミット様は感心した様な顔でボスと目を合わせてニヤっと笑った。


「ほら。早く朝飯食えよ。」

ダイニングルームからヴェガさんの声がした。

ヴェガさんとジハードがトーストと珈琲を用意してくれた。


「良かった。少しは落ち着いた?」

ジハードに昨日の事を心配されながらボスと朝飯を食べる。パン美味い。


「なあ、ジハード。昨日、ヴェガに聞いたんだが。こいつの説明がいまいち解らなかった。」

ボスがケラケラと笑った。

良かった。少しだけ復活してる。


「あー?ちゃんと説明しただろ?」

ヴェガさんはキレ気味な感じでジハードは説明下手だからねぇ。と笑っている。


「まあ、先ずは皆、聞いてくれ。」

ボスは話始める。


「シアンを取り戻したい。」

「俺も。そうしたい!」

ボスと俺がそう言うと皆は口を噤んで沈黙が流れた。



「ハイリスクだな。俺は反対。」

ハーミット様が・・そう言い放った。


「俺は賛成。と言うかミナキとボスがこのままじゃ立ち直れない。」

ウェンは冷めた顔だがそう言った。少し不服そうだけど。


それぞれの意見はあるがハーミット様、エルーカさん、バニラさん、ラズ、バックスレーさんも反対だった。


「ボス、言わないの?」

ちゃんと説得するって言っていたのに。

ボスは黙ったままだ。半数が反対でショックから言い難いのか。


ハイリスク。

カプリスが全員死んだらって思いは俺にもある。

未来を変えると言うことがどれ程難しいという事かこの無い頭でどうしようかと思っている。

しかし。

感情がそれすらも淘汰しようとしているんだ。


ボスは俯いてヴェガさんの寝室の扉に手をかけた。

「ミナキ。あの恥ずかしいからお前から話してくれ!無理だ・・。」

ボスの顔は赤く染まっていてそう言って部屋に篭ってしまった。


ボス・・・照れ屋過ぎる。


「何?ボスはどうしたんだ?珍しく狼狽してたけど。」

ハーミット様は首を傾げる。

「俺が本当に言って良いのか?」

迷う。しかし、全員の視線が集まってしまっている。困った。


シアン、ごめん。ちょっと話を誤魔化すよ。ボスは冷やかし苦手そうだし。


「シアンがボスの事、好きなんだ。」


またもや沈黙が流れた。


「ミナキ。ならシアンは何故、ミナキを襲った?」

ウェンに暴露される俺。


「はー?やられたのか?ミナキ?!」

ラズが叫ぶし。

あー。話脱線。そこから説明かあ。


「うーん。ボスに嫉妬させたかったみたい。」

そう言うとジハードが溜息。

「殺人鬼って屈折してるよなあ。気持ちは解らなくもないけど。それで?ボスは?」

興味津々と言った皆の顔。


ヴェガさんの寝室のドアがバタンと開いた。

「えーと。す・・・好きな気持ちに昨日、気付いた!!」

ボスの顔が真っ赤でそう言ったらまた部屋に篭ってしまった。


「助けに行くか。」

ハーミット様がクスクス笑った。

「全くしょうがねーなあ。」

反対していた皆も笑いだしてそこには温かいカプリスが復活した。

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