第9章 シアンを取り戻す

第76話ボスの思い

転移先ヴェガさんの家は広いマンションだった。

「ヴェガは?まだ帰って居ないか。」

時差は約12時間だそうでこちらは夕方だった。

ジハードが勝手に飯食おうと冷蔵庫を物色し始める。

ボスはソファに座り項垂れ憔悴しきっていた。

そう言う俺も座り込み珍しく食欲が湧かない。


「ボス、ミナキ。少し寝なよ。」

ウェンが辛そうな顔で俺とボスを見た。


「ボス、ミナキはヴェガのベッド使って。キングサイズだからゆっくり寝れるし。少し寝てから食べなよ。」

ジハードが冷蔵庫や冷凍庫から食料を取り出して温める様にバニラさんにお願いして此方にやって来た。


「ほら、立って。」

俺とボスの手を引いて寝室に連れて行かれた。

「すまん。ジハード。」

ボスは辛そうな顔で悲しそうに微笑んだ。

痛々しくて俺の心もまた傷んだ。


ヴェガさんのベッドは広くて俺とボスが離れて寝れる広さがあった。

「後で起こしに来るよ。」

ジハードはそう言って寝室の明かりを消して部屋のドアを閉めた。


眠いけど目を閉じると思い出して眠れない。


「ミナキ・・。ごめんな。」

お前の前だから良いよな?と言ってボスのすすり泣く声がした。

「ボス。ごめんなさい。」

俺も堪えきれずまた泣き出した。


「シアンがさあ。俺を突き飛ばす時に言ったんだよ。愛してるって。」

グスっと鼻をすする音と共に嗚咽が聞こえた。

ボスは布団を被って俺には顔を見せない様に・・・。


「素直じゃないよ。シアンもボスも。」

俺・・2人を引き裂いちゃった。悔しくてまた涙が溢れて来る。


「馬鹿だよ・・な・あ。失って・・気づくなんて。本当に・・・俺は馬鹿・・だ。」

ボスも泣きながら布団から顔を出した。


「ボスぅ・・・。皆に言ぃ・・ましょうよ。助けに・・行こ・・って。」

嗚咽をあげながら必死で喋った。


「反対・・されても。俺は・・行きたい。」

ボスが涙を袖で拭いながら決心した様にそう言った。


ズズっと鼻をすすって。深く深呼吸した。

「ふぅ。俺も行きます。」

涙を拭う。


「俺もミナキもシアンに犯された仲だしな。」

鼻をすすりながらボスが少し笑った。


「え?!ボスが?!襲う側じゃないんですか?」

俺はびっくりして涙が止まったし。


「いや、普通は俺がタチだよ。でも、この前どうしてもって言われてね。あいつ、エバーステイの時にミナキを襲ったのってさ。何か殺人鬼の勘?」

強敵がいるって予言か?とボスも泣き止んでそう言った。


「人間の子孫を残したいって本能かも。俺達男だけど・・・。」

案外そうかもと思えるし。


「ああ。なるほど。確かに。」

ボスも漸く泣き止んだ。

涙で俺達の顔は多分、赤くてぐちゃぐちゃだろう。


「寝るか。」

「はい。」

目を閉じると今度は不思議と睡魔が襲ってきた。

俺もボスもお互いに謝りたくて慰め合いたかった。多分そう。

俺が眠りに落ちそうな時にボスの寝息が聞こえた。




「腹減った・・・。」

目が覚めたのは夜の22時頃だった。6時間くらい寝ていた様だ。

食べて寝ていないからか回復は半分くらいだ。

「あー。俺も腹減ったあ!」

ボスもガバっと起きた。

「傷は塞がったが完全じゃねーなあ。痛みは大丈夫か。」

ボスの回復も半分くらいみたいだ。


寝室の外にそっと2人で出た。

リビングルームのソファやカーペットの床で皆、爆睡中だった。ベッド使って申し訳ない。


「よう。ボス、ミナキ。」

ダイニングルームから囁く様な声が聞こえた。


ヴェガさんだ。


「しー!静かにな。マイハニーがソファで熟睡している。」

ヴェガさんに呼ばれてダイニングルームへそっと移動した。


まあ、座れと言われ椅子に座る。

待ってろと言いヴェガさんは台所へ。

レンジの音がする。お腹が鳴る・・。


「ほらよ。食え。」

大盛りの炒飯2つ。

「突然、すまなかったな。」

ボスがヴェガさんに謝りつつ炒飯を口に頬張る。

「まあ、秘密だったんだろうけど。先に西アン・デス行くってジハードも言っててくれりゃなあ。こっちも情報流せたのによ。」

ヴェガさんはボスの顔を見て、ジハードが無事だったから許すがなと少し不機嫌な顔でそう言った。


「ジハードにも危ない目に合わせて悪かったと思っている。」

ボスがそう言うとうんうんとヴェガさんは頷いて

「ここ1ヶ月ばかり西アン・デスに潜入するマフィアが増えているんだ。」

と話し始めた。


「エンバスター家はアマル・フィ以外の国のマフィアにも依頼しているぞ。」

ボスの顔がムッとした顔になった。

「まじか?」

「ああ。まじだ。」

ボスは炒飯をかきこみながらムスッとした表情でモグモグと飲み込み。


「それでAランク異能者を派遣した?ってオチか?」

とヴェガさんに聞いた。


「政府も異常なまでの侵入者に手を打ったと言う情報を聞いた。ちなみにヴァルヴァラは元は政府管轄国プエル・トリコの異能者でSランクだ。サン・パウロから近いからこっちでは有名人だ。」


ヴェガさんはあれはヤバかっただろ?と気の毒そうな顔で溜息をついた。


「SランクとかAランクってあるんですね?なるほど。」

俺もすっかり炒飯を平らげてそう聞いた。


「あるなあ。基準は良く解んねーが多分、俺やボスは?政府に入ったらAランクって所だろ?」

ヴェガさんの見解はそんな感じ?らしい。


「まだ食うか?」

おかわりあるぞ?と言われて俺もボスも遠慮なく皿を差し出した。


「しっかり食って復活しろ。シアンの件は俺も手を貸しても良い。」

ヴェガさんはニヤっと笑っておかわりを出した。

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