第37話送り届ける

結局、おにぎり2個にパンを食べ、お茶に牛乳も飲んだ。

「はぁ。」

溜息。でも、確かに食べたら使った異能が回復してきているのが解る。

四神を出した訳でも無いしこの前より回復は早そうだ。


「ミナキ。俺も食うから運転交代して。」

まじっすか。

あー。もう全て最初から仕組まれていたのかも。運転出来るか聞いたのもそうか。


絶対、晩飯は高級料理!!

ハザードランプを点滅させて車を停止させてボスと運転を交代した。


人生初の左ハンドル。しかも俺は初心者。

舗装されている山道の坂道をゆっくり降る。

感覚が違い過ぎる!!

「ミナキ・・。運転苦手?」

パンにかぶりつきながらボスが笑う。

「だーかーらー。初めてなんですよ!こんな高級車も運転した事無いし!」

車は軽自動車!通勤は電車だし。休みの日しか運転しない。自動車学校以来の普通車。外車だし。言い訳だらけだけど。

やっぱり下手だよな。

ボス笑い過ぎ!


必死で運転する。

左右の感覚が何とか慣れてきた。


山を降り一般道に入った。


「こいつがラストかな?」

ボスがバックミラーで確認している。


「え?まだ敵?!」

もう勘弁して欲しい。


「本当に私達の存在を消したいんですね。」

シンシアさんは苦渋の表情と声でギュッとフランツ君の肩を抱いた。


「そもそも跡継ぎを放棄とか出来ないんですか?」

法律が違うのだろうか?

「本妻の子供は女の子なんです。それで法律上の問題が・・。」

シンシアさんはそう言った。

あまり深く話しすると俺が異世界人ってバレるしな。

男子優先の跡継ぎなのかなあ。


「運転交代しないんですか?」

呑気なボスに話しかける。


「止まらない方が良いよ?」

「了解です。」

仕方ない。後2時間弱か。


敵は一般道では何もしない。

次の戦闘はもっと車のいない所かな。


ボスに指示されながら道を進む。

1時間、市街地や民家を抜ける迄は本当に何も無かった。


だんだんと家が疎らになり車も減って来た。

あれか・・。バックミラーを確認すると俺でも解る。シアンの乗っている車の後ろにピッタリとくっ付いて走る黒の車。


「俺達が向かっているのは国境警備の緩い高速ゲートだ。国民カードを機械に通すだけでジ・パングに入国出来る。」

ボスがそう言った。まだ高速道路らしきものは見当たらない。


「そろそろ準備しますね。」

全く、運転しながら結界張るとか神経使う。でも、やらなきゃ殺られる。


「ミナキ、成長したね。それで良い。」

ボスが嬉しそうなのだが本当にこの人って能天気と言うか、うーん?それだけ自信があるんだろう。


海外らしいと言うか何も無い平野。

見通しが良い。


「ボス!何か居ます!!」

200メートル程くらい先。道路の真ん中に突っ立っている人。

明らかに可笑しい。


「ミナキ!シアンの車まで広範囲に結界を張れ!!」

ボスが大声で叫んだ。


広範囲?!

――結界都合のいい男――


結界を大きく広げシアンの車まで。やっぱりシアンは仲間だからなのか結界を広げても強度が落ちない。


「ブレーキ!!!」

え?!ボスに命じられるままにブレーキをかける。


シアンの乗っている車も急ブレーキをかけて止まった。

ガシャン!!と結界に激しくぶつかる後方の追跡車。

俺にも多少の衝撃はあったが結界は無事だ。追跡車のボンネットはグチャっと潰れてエアバッグが開いていた。


「え?これが狙いで?」

まさかの結界による車の破壊とか?

「来るぞ!!構えろー!」

ボスがまた叫ぶ。



その瞬間。


竜巻!?!!


あの道路に立っていた怪しい奴の異能?


ものすごい突風とゴゴゴゴゴと言う地鳴りの様な音。


これはヤバいな。

また冷静な自分が居る。


「護れ!青龍、白虎、朱雀、玄武!」


――四神結界――


四神が命令を聞く・・。


四神の柱はスクエアに俺達とシアンの車を護る様に立った。


周りのゴミや枯葉や様々な物を巻き上げながら竜巻は近づくが結界にぶち当たり消滅した。


「合格だ。」

ボスはそう言って俺の肩をポンと叩き外へ出た。

シアンも車を降りて2人は竜巻を放った異能者の元へ歩いて行く。


「合格って・・。もう!!」

振り回されまくりだよ。

でも、四神が発動してくれた。本当に俺は成長したのかもしれない。


ボスとシアンはいたぶる様に竜巻を起こした異能者とバトルしている。

あんな事が出来る異能者だから強い筈なのだが。

ふとバックミラーを見ると後方の追尾していた車を運転していた男が俺の四神結界に当たって弾かれてぶっ倒れていた。

入ろうとしたんだろうなあ。

そんな風に見れる自分・・。変わったな。

すっかりこの世界の人間になってしまっている。価値観とか。


ボスはシアンに最後は譲り止めを刺させていた。

仲良い。やっぱり。あの日のボスの発言は聞き間違いでは無かったのかもしれない。

後で聞いてみるか。

今日はいっぱい策略に嵌められたしそのくらい聞いてみる権利くらいあるだろう。


「やー!お疲れ様!終わったねー。」

満足そうにボスは車に乗り込んで来た。


シアンはニヤりと笑いながら後ろの車に乗り込む。


「本当に疲れましたよ。」

溜息をついて車を発車する。


暫く走るとまたポツポツと家が見えてきて高速らしき入口。

「はい。そこだよ。」

言われるがまま走らせる。

車、結構多い。ジ・パングへ行く高速は渋滞はしていなかったが一定量の車が走っていた。


「ありがとうございました。」

シンシアさんとフランツ君は安心した様に笑顔でお礼を言ってくれた。


「いえいえ。お気になさらず。」

ボスはクールそうな笑みを浮かべる。

本当に高速出口は俺の国民カードで支払いもせずに入国出来た。

ハーミット様の技術が凄いよ。偽造なのに。


無事にジ・パングに入国。

まだ郊外だが雰囲気が見た事ある感じ。何か日本に似ている。


そこから10分程車を走らせる。

そして指定された家の前で車を停めた。なかなか豪邸だ。セキュリティもしっかりしているし門もある。

「此処で良いんですか?」

まだ市街地では無いけれど高級住宅地って感じの場所だった。

後方のシアンが乗っていた車からリモコン操作されたのか門が開く。

中に入り車を駐車させた。


「本当にありがとうございました。」

「お兄ちゃんありがとうございました!」

シンシアさんとフランツ君は改めてお礼を言われて車を降りる。


「さあ、降りて向こうの車に乗るぞ。」

ボスに言われてそうだこの車はカプリスのじゃないと思い出す。

ボケてるな俺。


「では。無事送り届けましたので。残りの報酬は振り込みお願いしますね。」

シアンも車を降りて来てシンシアさんに挨拶と言うか振り込みのお願いをした。


「ミッションコンプリート。行こうか。」

2人に促されてシンシアさん、フランツ君、運転手さんに別れを告げて車に乗り込んだ。

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