第36話ボスの目論見

(車の中で運転手が銃弾を発射する数分前)


ミナキが必死で結界を張り続けている。もう少し粘れよ。お前は絶対それで強くなる。


その時だった。車から本命登場。

「やっと出てきたか。」

待たせ過ぎだ。


殺気を放ちニヤニヤと此方へ向かってくる黒いスーツの男。


「やあ?カプリスのボスだな?」


シアンに譲ってあげたいが時間が無い。


運転手も本性現したみたいだし。


「そうだよ?」

ミナキが可哀想だから。たまには異能使ってさっさと片付けてやるかね。


――地獄の大鎌ヘルサイス――


シアンとチラリと目が合った。俺の異能発動にニヤと笑いながら奴も最後の1人を殺った。


そしてこの黒スーツの男も・・。お疲れ様でしたっと。

相手の攻撃をサラリと躱して背後に回った。

「滅っせよ。」

大鎌を振り下ろす。


「グアァァァァァー!!」

断末魔の叫びと共に地面には黒焦げの人型の跡だけが残った。


やっぱりこの程度の奴に異能使っても全然面白く無いなあ。

俺の殺り損ねた3人はシアンが相手してくれている。


さて。肝心のミナキは?


銃弾を受けたが・・・無事。そろそろ限界か。


車に駆けつけてドアを開けた。


「ミナキ!!」


その瞬間、凄い勢いで強力な結界が張られた。

「ボスー!」

泣きそうな声を出すミナキ。いやいやこれは予想以上。


フフ。こりゃ成長したなあ。



・・・・・・・・・・・・・


恐ろしい程のビリビリと肌に刺さる殺気と異能の気配。


ボスだ!!!


これ絶対、地獄の大鎌だ。レアぁ!!

見たい!が、しかしそんな暇は俺にはなーい!!


結界を死ぬ気で張り続ける。


「クソ!殺らなきゃ此方がヤバい!」

再び銃口が向けられて引き金が引かれる瞬間・・


「ミナキ!!」

車のドアが開く。


俺の異能が発動する。


引き金が引かれる。


銃弾が飛び出す。


見える・・・。スローモーションの様に。


俺の結界が強化される方が早い。


パシーン!!銃弾は弾かれコロコロと車内に落ちた。


「ボスー!!」

やっと来てくれた!まじで泣きそう。


「くそ!!」

ジャックは銃弾を弾かれて焦りを見せながらも拳銃を此方に向けた。


「シンシアさんとフランツ君降りてくれるかい?」

ボスは2人を護りながら車から降ろす。


「ミナキ。そいつはお前の獲物だ。殺れ!」

ボスにそう言われゴクリと唾を飲み込み頷いた。


「降りろ。勝負だ!」

ジャックも銃を向けたままゆっくりと降りて来た。


外へ出るとマフィアの死体だらけだった。

残りはこのジャックのみか。


しかしあの黒焦げ。くそー!!!マジでボスの異能見たかった。


ボスやシアンが居るからか?何故か自分に余裕がある。

不思議な感覚。


結界はボスが離れたから薄くなっているのに。

シンシアさんとフランツ君はボスとシアンが護ってくれている。


俺の獲物・・・。


ジャックが発砲した。


また見える。バン!と言う音と共に銃弾が向かってくる。

あ・・・。マ〇リックス?!

まさにそんな感じ。


俺は結界に頼らずに銃弾を避けた。


「よし!いけ!」

ボスの掛け声と共に至近距離に詰め寄りジャックに蹴りを入れる。

体が動く。

俺は人生で初めて人に蹴りを入れた。

取っ組み合いの喧嘩すらした事がなかった良い子だったからなあ。


俺の蹴りでジャックは吹っ飛ぶ。


「まじか。」

自分が一番びっくりしている。


「そのまま殺れ!!」

言われるがまま?いや、俺自身がそうしたい。

異能者の本能?


俺はナイフに手を掛けていた。


ジャックが立ち上がった時には後ろに回り込んで居た。


ナイフはジャックの背中を刺す。


この感触。


ゾクリとした。


ナイフを抜くと血がバッと飛び散る。


「クソぉー!!」

ジャックは背中を押さえて苦しそうな顔で銃弾を発射させた。


あっ。この銃弾は異能が使われている。スナイパーって言っていた。

避けても無駄、これ必ず当たるやつ。


瞬間に察した。


形代かたしろを使って。


発動身代わりの俺。


銃弾は形代の俺を撃ち抜いた。


変な感覚。時間がゆっくりと流れている気がする。


「殺ったか!!?」

ジャックは形代の俺しか見えて居ない。


俺はもう貴方の後ろに居るのに。


これが異能者の体術なんだ。


残念ながら俺の勝ちです。

ジャックに止めを刺した。


はぁ。はぁ。時が戻った感覚。

まさか自分がこんな事する日が来るなんて思わなかった。


「はい。お疲れ様!」

ボスが上機嫌で拍手する。

「初バトルの相手としては調度いい力量だったねぇ。」

シアンも拍手しているし。


「もしかしてワザと?」

何か嵌められた気がする。

ボスとシアンをムスッとした表情で見るとクスクスと笑う2人。


「ごめんね?スパルタで。」

ボスは更にケラケラと笑い出す。


ボスの目論見に嵌った・・・。絶対そう。


「まあまあ。車に乗ってゆっくり話そうか。」

ボスは俺を宥めながら車に乗るように言った。

カプリスの車の運転手は敵では無かった様で終始車から降りずにひたすら怯えて居た様で気の毒としか言いようがない。


ボスはシアンに駆除人に連絡して死体処理をする様に頼んでいた。

やっぱり隠蔽って大事なんだな。

この惨劇は警察に見つかったら確かに大変。



「運転は俺がするから取り敢えず飯食え。」

車に乗り込むとボスにそう言われた。


確かにめちゃくちゃ疲れたし腹が減っていた。

コンビニおにぎりを食べながらボスの話を聞く。


「シンシアさん。申し訳無かったですね。」

ボスはシンシアさんに運転手の件を話し始めた。

こう言ったミッションの時は依頼後に下調べをするらしい。シアンは運転手が敵に廻った事を調べていた。しかし、知らないふりをしてこの現場で纏めて殺る予定だったと言った。


「そうだったんですね。こちらこそ信頼していた運転手だったのに。ご迷惑おかけしました。」

悲しそうだ。


「いえ。仕事ですから。」

ボスはそう言ってフフっと笑った。


全く。俺も嵌められたんだよね。そこは後で文句の1つでも言おう。

おにぎりもう一個。腹減り過ぎ。

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