第14話 そして二人はLOW-LOWになる
ある晴れた日曜日。
二人は昼前の電車に乗って、七つ隣の大きな駅へと向かっていた。
「なんか悪りーなー。付き合わせちゃって」
「いや良いんだけど。 っていうか、そのガシャ ネットで買えなかったん?」
「なんかなー。オレが見た限りじゃ どこも扱ってなかったんだよなー。あ、売り切れたんじゃ?」
「へー。でもそんなに人気のある商品とも 思えないけどなぁ」
四五六の誘いで、目当てのガシャを探しに行く二人。
一回三百円のガシャで、ミニチュアのランチとランチボックスがセットになって、全六種類のホビーである。
「最近はアレ ドール? とかの小物に使う人も多いらしいからなー。きっと売り切れてるんだぜ」
「へー」
そんな会話をしながら、大きな駅に到着。
以前も来たこの繁華街への遠出に、今回は亨も衣枝夫も、参加していない。
その理由は。
(それぞれ、デートなんだろな…)
とか思うと、ちょっと腹が立つアオだったり。
見知らぬ高校生たちをなんとなく避けつつ、二人は駅ビルの一角に店舗を持つ、ガシャ専門店へと足を運んだ。
「ここだなー」
「へーなんかスゲー」
広いとは言えない店内には、壁一面が三段ほどの高さまで、ガシャでビッシリと埋め尽くされている。
「あ、これまだ残ってるんだな。おお、なんか懐かしいモノまであるぞ!」
年単位で昔に出た商品の残りらしきモノや、もっと昔のガシャ、つい最近のモノから最新まで、様々な商品のガシャに、目移りしてしまう。
「あったあった アオー」
探しているガシャを見つけた四五六がアオを呼んで、お札を二千円分、小銭に換金。
ガシャ本体のクリアなボックスの中は、色とりどりのカプセルが収められていて、色と中身は合わされているらしい。
「全六種かー。一発でコンプしたら千八百円だよなー」
「結構 高ぇな…」
数千円、あるいは一万円超えするゲームは買えても、ガシャ千八百円は高く感じるアオ。
「じゃーやるかー」
小銭を投入して、四五六はハンドルをギリギリと廻す。
コトンと音を立てて出て来たのは、赤いカプセルだ。
開けると、商品ナンバー③のランチボックス。
精密に作られたランチボックスの蓋を開けると、これまた精工に再現されたサンドウィッチやウインナーが、綺麗に詰められている。
「おー。サンプル写真と同じレベルじゃねー?」
「そうなの?」
四五六の感動の一摘まみも理解できないアオは。コンプしたら箱にでもしまってお終いだろうとしか思えないそれらホビーに、全く心が動かない様子だ。
引き続き、四五六はガシャを廻す。
続けて三回は②④①とダブリなしだったけど、次の一回は③でダブった。
六回目のガシャで⑥が出て、またダブリ無しの商品。
これで全六種のうち、五種類と、ダブリが一つ。
残るは商品ナンバー⑤のみ。
「へー なんか惜しいな」
「確率としては 全く悪くないんだよなー」
商品に興味のないアオでも、目の前の賭け事みたいなガシャには、少しだけ興味心を擽られていた。
カプセルから取り出した商品をカバンに入れて、カラのカプセルは専用の回収ボックスに放り込む四五六。
「やっぱ そー上手くはいかないよなー。ちょっとお金 崩してくるなー」
そう言って、また二千円を換金してきた四五六が、再びガシャに挑むも、今回は①⑥④④①②と、六回全てがダブリ。
「あーららー」
「なんだよー 残り一つなのによー」
文句を言いつつ、四五六はまた換金へと向かう。
「………」
幼馴染がボックスから離れている間、ちょっとだけ、と思って、アオは同じガシャを試してみた。
(ま…何が出ても、四五六に押し付けりゃいいや)
三百円を入れてギリリと廻して、出て来たカプセルは、初めて見た白色。
「んー? これって…」
開けて見ると、四五六が欲する最後の一つだ。
「うおっ、出たっ! これ出した俺スゲーっ!」
まるで、難敵にアッサリ勝利した英雄のような気分。
気持ちも快く上がる上がる。
(これ、四五六に見せたら羨ましがるかなー。スゲーとか驚くかなー)
そうなったら、あげちゃってもいいな。
なんて一人でワクワクしていたら、予想以上にコンプ困難な四五六が、渋い顔で戻ってきた。
「お 四五六よ…ふふふ…」
「? なんだ…あ!」
幼馴染の掌に乗せられたガシャに気づいて、驚く四五六。
「なんかさ…廻してみたら、出ちゃってさ」
幼馴染からの羨望や称賛を、ヒーロー気分で待ち構えていたら、幼馴染は憮然としたまま、ガシャを再開。
「へー オレも出そう!」
「え…いや、難しいんじゃね?」
思った言葉が貰えなくて、ちょっとイラつくアオ。
四五六も、自分の努力を横から攫われたような気分で、面白くない。
とりあえず、アオが廻していなければ次の一回で四五六がゲットしていた可能性が大だから、四五六の怒りも当然と言えば当然だ。
しかしガシャの権利なんてあるわけもないので、アオが悪いという話でもない。
お互いに空気が悪くなって、会話も無いまま、四五六はガシャを廻し続ける。
換金してきた二千円をダブリで使い果たし、最後の千円を崩して、チャレンジ。
「む、無理して金 使う事も、ないんじゃねー?」
「ま、まあ、自分で始めた事だしなー」
お互いに、つまらん意地の張り合いを続けて、四五六はダブリが重なる。
そして、最後の三百円。
ギリリ…コトン。
出て来たのは、白色のカプセル。
「ぉおおー 出た…!」
感激が素直に出そうになって、しかし意地を張って、我慢の四五六。
「………へー」
良かったなーとか、素直に言えないアオ。
「……………」
「……………」
二人とも、それぞれ思う。
(こんなにダブってよー。小遣い 使い果たしてよー。何してんだオレ?)
(…これ一個だけ持ってて どうすんだ俺…?)
アオが廻さなければ。
あるいは、すぐにあげたりしていれば。
((…なんか バカだな おれたち……))
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