第10話 そしてアオは英雄を征けない
今週は、金曜日が学校の創立記念日なので、土日と合わせて三連休。
木曜日の放課後から、生徒たちはみな浮かれ気分だ。
初日の今日は、アオと四五六と衣枝夫と亨の四人で、朝早くから駅に集まって、七つ隣の大きな駅まで遠出。
三つの路線が乗り入れる大型の駅は、この地方で最も開発されている地域だ。
駅前の繁華街は、休日になると高校生たちで賑わうけど、今日はアオたち中学生の独占場とも言えた。
「「「「おー!」」」」
高校生たちが遊ぶ繁華街に、親に連れられたわけでもなく、自分たちだけで来ている。
なんだか少し大人になったような、アガるワクワク感。
「あはは。さて、どこに行こうか?」
四人の中で一番穏やかな衣枝夫も、気が急いている感じだ。
「俺はゲーム屋 行きたいなー」
ゲーム好きのアオは、地元の小さなショップではなく、繁華街の大きな店舗を見たい。
「それより何か食わね?」
地元では見かけない、ケバブ店やタピオカ店を、四五六はキョロキョロ。
「まずはみんなで、アレ行ってみようぜ」
亨が指さしたのは、駅ビルの最上階にあるアーケードだった。
地元では、駄菓子屋さんの脇に併設されている、物置みたいに狭いスペースに三台しか置いていない、ゲーム置き場。
そんな田舎な遊技場とは違い、学校の体育館みたいに広くて少し薄暗いスペースに、何台もの筐体が並んで光っている、アーケード。
虹色の光が渦巻いていて、何だか幻想的。
音声も大きくて、お互いの声が聞こえ辛いほどだ。
「すげー…なんか スゲー…!」
ゲーム好きのアオからすれば、ネットとかゲーム雑誌とかでしか見たことのない、憧れの空間だった。
「あれ、やってみよっか」
みんなで固まって歩き回って、亨が誘ったのは、四人プレイが可能なガンシューティング。
次々と湧き出すゾンビを撃ち倒すゲームで、大きな横画面が大迫力だ。
「あはは、いいなあ。協力プレイだな」
衣枝夫も乗ると、四人で並んでガンコンを握り、それぞれ百円を投入。
ちなみに並び順は、画面に向かって左から、1P-亨、2P-アオ、3P-衣枝夫、4P-四五六だ。
「弾切れしたらどうすんの?」
「画面の外を撃てばリロードされるぞ」
四五六の問いにアオが答えたタイミングで、ゲームがスタートした。
画面は、都会が遥か遠くに見える、夜中の農村。
「お、結構CG いいな」
「あはは。亨は まずソコか」
一件の農家で、女性の悲鳴が上がった。
村の自警団である四人のプレイヤーが、自衛の銃を手に手に、農家へと到着。不気味な物音がする牛舎へと、カメラがズンズン迫る。
扉を開けて、注意深く調査を始めたら、突然、ドーンと効果音が鳴り響いた。
リアルなゾンビが、四人プレイ対応の数で、ワラワラと出てくる。
戦闘開始だ。
「うおっ、このこのこのーっ!」
牛舎のゾンビを全滅させて、都会の警察署へ連絡しようと詰所へ向かったら、更に大量のゾンビで行く手を阻まれる。
プレイヤーたちは、山の上へと活路を見出し、戦いながら逃走してゆく。
大量のゾンビを駆逐しながら、ゲーム好きのアオが、撃破数を最も稼いでいた。
「そこだっ、おらおらぁっ!」
中央のゾンビたちだけでなく、余裕があれば周囲のゾンビにも射撃して、仲間を援護。
「あはは。アオすげーな」
「無駄に上手いよな アオ」
「うっせー。どらどらあぁっ!」
幼馴染の辛辣な突っ込みも気にならないほど、今日のアオは絶好調だ。
目の前のゾンビごとに、的確な段数を撃ちこんで、無駄弾もなし。
リロードも余裕をもって、弾切れする前にタイミングよく、素早く再装填。
点数も、衣枝夫や亨よりも多く得ていた。
(ふふ…いいぞ いいぞ…っ!)
成績や運動神経だけでなく、彼女なしな下層の自分が、リア充たちより上に立つ。
なんと心地よい優越感だろう。
(俺っ、SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEっ!)
この戦場は、俺が支配した!
そんな、得点も含めた勝利者のまま快進撃を続け、ステージを次々とクリアして、いよいよラスボス、ゾンビロードのお出ましだ。
「こいつがラストか」
なかなか落ち着いている亨の声にも。
(ふふふ、亨よ…。そんな恰好を付けたところで、今日のお前は俺の引き立て役に過ぎないのさ…っ!)
一人、悦に浸りながら、画面内の状況は的確に把握しているアオ。
ダメージは負っているものの、ボスに後れを取る事など、あり得ないだろう。
(あと三十発ぐらいで ジ・エンドか!)
「英雄にはっ、英雄に相応しい勝利の瞬間があるのだぁっ! オラオラっ、一般人どもはっ、下がっていて貰おうかあああっ!」
三人に花道を開けさせて、トドメの前に余裕のアピール。
自宅のゲームでするように、トリガーに引っかけた指で、無意識にガンコンを素早くクルリ。と回した。
その瞬間。
–ガココっ!
ガンコンが指から滑って、床に落下してしまった。
「ああっ!」
英雄、なんたる失態。
というか、そもそも本体とチェーンで繋がっているガンコンを指で回す方が、ドジだ。
「あ、あわわ…!」
英雄は、四つん這いになって慌ててガンコンを拾うものの、立ち尽くしていた2Pプレイヤーは、ボスの攻撃でダメージを受けて、2Pだけゲームオーバー。
「げっ!?」
「あはは。アオの弔い合戦になったな」
「えーなんだよアオめんどくせーな」
三人が、ボスへの攻撃を再開した。
(やばいっ! このままでは、ボスがこいつらに倒されてしまう!)
急いで立ち上がると、ポケットから百円玉を取り出して投入。速攻でエントリー。
英雄アオが、戦場に復活した。
「やった! 行くぜえっ!」
ガンコンを構えた瞬間。
『グアアアアアアアアッ!』
「え…」
「「「よっしゃあ!」」」
ボス撃破。
ゾンビの大群から農村を救ったのは、英雄ではなく、三人の農民たちだった。
「あはは。なかなか面白かったな」
「まあな」
「CG よかったな」
復活した英雄は、エンディングに立ち会うだけだった。
~終わり~
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