めんどくさがりなjobマスター

霧羽夜羽

第1章 切り上げと切り捨て

第1話

ガヤガヤとしている教室内。

 そんな教室の中で1人で僕、雫伊真冬しずくいまふゆは椅子に座り本を読んでいた。

 読み終わるごとに、パラっとめくる音。そんな静かな音が僕だけに聞こえてくる。

 僕はそんな音を聞くのと同時に、面白い、と心の中で思う。

 それに本を読んでいる時間はまわりの雑音が聞こえてこない。


 『真冬、やっと時間が来たね!』


 突然、少女らしき声が僕の耳元で囁かれてしまう。

 耳元で囁かれてしまったのが原因か僕は本から視線を離し、

 今、誰かが僕の名前を呼んだような……。

 そう思った。

 僕はキョロキョロと周りを見渡してみる、が、誰かが名前を呼んだという証拠などは見つからず、僕は諦めて再び本へと視線を落とした。


 『あっちで待ってる! すぐに会いに行くから楽しみにしててね!』


 なのだが、先程と同じ声を持つ少女が再びそう言ってきた。耳元で。

 やっぱり、誰かが僕の事を呼んでる。


 そう思って周りを見ようとした時だった、

 「な、なんだよ、これっ!」 

 ふと、教室にいた男子生徒が慌てるような口ぶりで大きな声でそう言った。


 それからその声に続くようにして、他の生徒も、「映画の撮影!?」とか「何が起こってるの!?」とか「床が光ってる?」などなど口にしていく。 


 その声に反応して僕も何が起こっているのか見ようと行動してみるも、それよりも早く視界が一気に真っ白になった。


 その後すぐに視界は真っ暗になり――意識が無くなった。



 背中や肩、色々なところにひんやりとした感覚を覚え、僕は目を覚ました。覚ましたと言っても意識はまだぼんやりとしている。


 ――ここは、どこなんだ?


 そんな疑問を持ちながらも僕は地に手をつき、その場で立ちあがった。 

 ふらふらする体をどうにか動かし、その場で倒れないようにする。


 そういえば、僕はベッドの上で横になっていたらしい。


 「フレア

 「残影剣ざんえいけん

 「大音量ブレイク

 「障壁しょうへき


 すると、どこからかそんな厨二じみた声が聞こえてきた。


 僕は声のする窓際の方向へ歩いて行く。

 そして視界に入ってきたのは、僕が今まで生きてきた世界にあった小説の中でしか存在していない『魔法』が普通に飛んで行っていた。


 僕はその魔法の出所を探そうと、魔法が飛んで行った方向より前の方へ視線をやった。

 と、そこにいた人たちは、僕と同じ教室にいた人たちだった。ということが分かってしまった。


 「え……? どういうこと?」


 その瞬間僕の脳内は固まる。


 「なんで、みんな、魔法とか使ってんの? それって異世界の力だよね!?」


 現在自分の目で見ている光景を信じることが出来ない僕は、そう口にした。

 何度も言うけど、あれはどう見たって異世界の力なんだよ! だから――?

 そこまで思いかけ、ふと、脳裏に何かが浮かんだ。


 「あら? お目覚めになったんですか?」


 だが、タイミング良く背後から話しかけられてしまった。

 声が聞こえた方へ振り向いてみると、そこには、白いドレスに身を包んでいる可愛い少女が立っていたのだ。


 「……あ……こんにちは?」

 そんな少女が視界に入ってきて僕は間抜けた声であいさつをする。それも、疑問形で。

 「こんにちは、シズクイ様」

 「……」

 「シズクイ様、どうかされましたか?」

 「……」

 あまりにも可愛すぎたせいか僕は無言になり、ついでに思考が完全に停止する。

 「シズクイマフユ様! 大丈夫ですか!?」

 「うおっ!? え?あ、はい、大丈夫です」


 突然大きな声でそう言われてしまった僕の思考は一気に覚醒し、目の前にいた少女を見て、またマヌケな声を上げてしまう。

 そんな僕の反応を見て、少女はニコッと笑った。


 そして、

 「大丈夫そうですね」

 そう言った。

 ……可愛い。


 そう思ったのだが、僕とは釣り合わないだろうと思い、男の夢は一瞬で脳内ゴミ箱に捨てた。というか、もともと、そんなことなど夢にも思っていない。


 そんなことを考えていると、

 「では、これからシズクイ様にはお話しすることがあるので私に付いて来て下さい」

 言ってきた。


 そうして僕は、少女の隣に立ち付いて行った。


 あ、そういえば、名前聞いてないな。ま、いっか。めんどくさいし。

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