第30話

 ギャルグループとハーレムグループが盛り上がっていると、お兄ちゃんが割って入った。


「ちょっと待ってくれ! 俺の意思はどうなるんだ!」


 と異を唱えると、ギャルグループが反論する。


「え~、それじゃ盛り上がらないじゃ~ん」

「そうそう! ここは一発ぶちゅ~としとこうよ」

「いやいや、マズイって!」

「するよりされる方が好きなの?」


 と言いながら胸を強調してすり寄って行く。


「あ、いや、あの、そういうのは……」

「ちょっと! 色仕掛けは反則だよー!」


 と言いながら、水瀬先輩も胸を反対の腕に押し付けている。


「だから、その……」


 左右から引っ張られ、完全にさっきまでの勢いが無くなっている。

 お兄ちゃんの奴、鼻の下伸ばしちゃって!

 そんなに大きいのが好きなのか!


 私が怒りに震えていると


「わかった、こうしよう! 俺に勝てたらなんでも言う事聞いてやる!」


 お兄ちゃんがとんでもない事を言い出した。

 何でも言う事聞くなんて言ったら何をさせられるか分かったもんじゃない!


「マジ! 男に二言はないよねぇ!」

「ああ、なんでも言う事聞いてやるよ!」

「ちょとトモ! それって私たちが買っても何でも言う事聞いてくれるの?」

「ああ、男に二言は無い!」

「絶対だかんね!」


 あぁ、やっぱりこうなっちゃったかぁ。

 こうなったら仕方がない。

 私が何とかしてお兄ちゃんに協力しないと大変な事になる。

 

 そう考えていると、沙月ちゃんと目が合った。

 沙月ちゃんは意味深にウィンクすると


「でも、それだと友也さん一人だから不利じゃないですかねぇ」


 と助け船を出してくれた。

 さすが沙月ちゃん。

 沙月ちゃんの発言の意図に気づいたのか、新島先輩も乗ってきた。


「確かに友也君一人だとフェアじゃないかも」

「え~、じゃあどうするの?」

「そうねぇ」


 と言って新島先輩は私にアイコンタクトを送ってきた。

 私はそれを受け取り一歩前に出る。


「だったら妹である私がお兄ちゃんと組みます。それでいいですか?」


 とギャル達と先輩達に確認を取る。


「私は構わないわ」

「私も柚希ちゃんならオッケーだよー!」

「まぁ、兄妹ならウチ等は特に文句はないけど。ねぇ、みんな?」

「そうだね~、楽しければ何でもいいよ~」


 こうして満場一致で三つ巴のゲーム対決が決まった。



 まずはボーリング対決となった。


「スポーツで負けるわけにはいかないわ」

「当然ッ!」


 中々の接戦をする中、自分の出番で盛大にずっこけるお兄ちゃん。

 格好悪いと頭を抱えたが、逆にギャル達にはかわいい~と好印象だった。

 勝負そっちのけで手取り足取りお兄ちゃんにボーリングを教えだすギャル達。

 満更でもない様子のお兄ちゃんに腹が立つ。

 結局、ボーリングを制したのは新島先輩達だった。


 その後もセグウェイレース、ダーツ対決などで勝負をした結果、引き分け状態になった。



 そして最後の対決はカラオケ採点で行われることになった。

 今はカラオケルームに移動して、誰から歌うか決めているところだ。


「よっしゃー、ワタシの勝ち~!」

「うぅ、負けた~」

「俺が一番最後かぁ。緊張するなぁ」


 じゃんけんの結果、一番手にギャルのミウ、二番手に水瀬先輩、最後にお兄ちゃんという順番になった。

 

「じゃあ歌いま~す! イェーイ!」

「うぇーい!!」


 『現実いまな~らば~♪ ど~れ~ほど~良~かったの~かな~♪』

 

 上手い! 正直ここまでとは思わなかった!

 にしても鉄板ソングできたか~。これはガチで狙ってるなぁ。

 最初のサビに差し掛かる頃にはその場の全員が魅了されていた。

 お兄ちゃん大丈夫かなぁ。

 と考えていると突然


「アタシも歌おーっと!」


 と言って他のギャル達がハモり出した。

 終いにはギャルチームが一丸となって合唱してミウのターンが終わった。

 ミウは満足げな表情で仲間とハイタッチを交わし


「イェーイ、これは得点イッたっしょ~」


 と自信満々に胸を張っていた。 

 画面に注目が集まる。

 そして表示された点数は


 デデン! 


 【81点 もっとメロディを聞きましょう】


「ぴえん、ダメだったか~」

「サビのハモリが甘かったかもね~」

「わかりみ~」


 なんか納得してるけど、問題はソコじゃないと思う。

 だけど、ハモってくれたお蔭でこちらの勝機が見えてきた。


「次は私の番だね! 張り切っちゃうよ~!」

「頑張れ南~」


 正直水瀬先輩の実力は未知数なだけに怖い。

 それに声の音域も広いから大体の曲は歌えるだろう。


 『ウチ等は相~思~相~愛~♪』 


 またもやガチ曲来た! しかも定番のラブソングの正樹と鞘華なんて。

 おまけに感情も篭ってて聴き入ってしまう。

 これはマズイ!

 と思っていたら、水瀬先輩は突然お兄ちゃんを見つめ


 『トモヤが泣いたらミナミも悲しい! イェイ!』


 歌詞変えてきたー! 完全にお兄ちゃんを落としにきてる!

 肝心のお兄ちゃんは意味が分からずポカンとしている。


「ふぅ、どうだったトモ!」

「上手いとおもうぞ」

「え~、それだけ~」


 デデン!

 

 【96点 感情がこもっていて聞き惚れちゃう】


「やったー! 高得点~! トモありがとう~!」

「俺は関係ないだろ」

「いやいや、トモに対する想いの点数だよ!」

「ちょ、おい、引っ付くな! 次は俺の番なんだから!」

「ちぇ~」


 予想通り高得点を取ってきた。

 お兄ちゃん次第でカラオケのトップは水瀬先輩になってしまう。

 祈る様な気持ちでお兄ちゃんを見つめていると曲が流れた。


 『広い世界の~数ある中で~♪』


 まさかお兄ちゃんがモンチチの名曲を知ってるなんて!

 それにこんなに歌が上手かったなんて知らなかった。

 私が一人驚愕していると、新島先輩が私にだけ聞こえる声で


「さすが友也君、無難なタイアップ曲を選んだわね」


 なるほど。

 私が知らなかっただけで、アニメとタイアップしていたのか。

 ならお兄ちゃんが歌えても不思議じゃない。


 『ほ~ら~お前に~と~って~愛する人~こそ~♪』


 ビブラートもロングトーンも完璧! まさかここまでとは!

 これはもしかしたら水瀬先輩を超えるかも!

 様になり過ぎてギャル達がムービーまで撮り始めた。

 そして歌い終わると同時に歓声が挙がった。


「ヤバ! 惚れたかも!」

「それな! マジやばいって!」

「トモ~愛してる~!」

「友也君ステキ~! キャー!」


 あまりの興奮で場がアイドルのライブ会場状態になってしまった。

 そして点数が画面に表示された。


 デデン!


 【100点! 文句なし! っていうか本人?】


「「「きゃー!!!」」」


 満点を取った事で更に盛り上がる。

 そんな中沙月ちゃんが話しかけてきた。


「やっぱり友也さんの歌声は凄いね」

「そっか、沙月ちゃんは合コンで聞いた事あったんだっけ」

「うん、あの時も驚いたなぁ」

「そうなんだ~」


 私にとっては嬉しい誤算だ。

 これでお兄ちゃんの貞操は守られた。

 と安堵していると


「優勝はトモちんのペアだね~」

「悔しいけど楽しかったからまぁいっか~」

「わかりみが深い」


 ギャル達は素直に負けを認めた。


「友也君があんなに歌が上手いなんてビックリした~」

「うんうん、トモ格好良かった~」


 新島先輩達も当初の不機嫌オーラも無くなり、和やかムードだ。

 お兄ちゃんと勝利を喜んでいると、ミウが唐突に


「それじゃあ妹ちゃんの勝ちだからキスしちゃおう!」


 と言ってきた。

 

「え? お兄ちゃんが勝ったらチャラじゃなかったんですか?」

「でもダーツでブッチギリだったじゃん!」

「え、でも……」

「ほっぺたにするだけだから兄妹でも問題ないっしょ」


 いやいや、問題ありまくりだから!

 どうしようとお兄ちゃんを見ると、私と同じように絡まれていた。


「さぁトモちん、ぶちゅっとやっちゃおー!」

「だから! 勝負は俺達が勝ったんだからチャラだろ?」

「でもゆずきっち居なかったら勝てなかったっしょ? 頑張った妹にご褒美あげないと!」


 背中をグイグイ押され、お兄ちゃんと向かい合う。

 うぅ~、こんな筈じゃなかったのに。


 っていうか新島先輩達はどうして止めないの!

 そう視線で訴え掛けるも


「まぁ柚希ちゃんなら兄妹だし問題ないわね」

「柚希ちゃん! 感想聞かせてね~」


 と止めるどころか私が安パイだと安心しきっている。

 沙月ちゃんもノリノリになっちゃってるし……。


 もっと雰囲気のある所で二人きりの時にしたかったけど、場の雰囲気を悪くさせられない。

 私は覚悟を決めてお兄ちゃんを真っすぐ見る。


「お、おい。本気か?」

「ほんぺたにキスなんて欧米じゃただの挨拶だよ」

「そりゃそうだろうけど……」

「もしかして照れてる?」

「ばっ! べ、別にてれてなんかないって!」

「だったら早くして♡」



 そう言って一歩近づき目を瞑る。

 周りのギャル達のキスコールが私の心臓の音でかき消される。

 それでも、お兄ちゃんの息遣いだけは鮮明に聞こえる。


 ビクッ!


 お兄ちゃんに両肩を掴まれて身体が反応してしまった。

 大丈夫かな? 変に思われたりしなかったかな?


 段々とお兄ちゃんの息遣いが近くなってくる。

    

「い、いくぞ?」

「う、うん」


 吐息が顔に掛かるまで近くなる。

 無意識に手をキュッと握ってしまう。

 

 お兄ちゃんの唇が微かに私の唇に触れた後、ほっぺたに柔らかい感触があった。


「どうだ! これでいいだろう?」

「ヒューヒュー、アツいね~」

「あ~ん、私もトモちんにキスされた~い」

「はいはい、この話はこれでお終いな!」


 今、唇に触れた……よね?

 どういうこと……?

 でもお兄ちゃんは全然普通な感じだ。

 私の勘違いだったのかな?


 そんな考えが頭の中をグルグル回って、暫く動けなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る