第84話 眩しさ

 三年生となって迎えた初日。


 新しいクラスは早くも賑わいを見せている。


 知っている人もいれば、知らない人も多くいて、自分の交友関係の狭さをちょっと思い知らせる気分。




 これが来年、大学生になった時にはそれこそ知らない人ばかりになるんだろう。


 少し怖さもあるけれど、それは高校生になったときも同じだった。


 ううん、高校に入学した時の私は実質ひとりだったから、あの時に比べればずっといいスタートを切れるだろうことは確信している。




 今の私の隣には、ゆきくんがいるのだから。


 だからなにも問題ない、はずだったんだけど…




 チラリとゆきくんを見る。


 視線が合う、なんてことはない。彼は私を見ていなかった。


 そのことがちょっと、切なくなる。チクリとした痛みが私を襲う。


 だけど同時に、無理もないとも思ってしまう。


 あの子のことを、ゆきくんが無視できるはずがないことは、とっくにわかっていることだから。




「…………」




 彼の視線の先。そこはクラスで一番賑わいを見せている集団の姿がある。


 ひとりの女の子を中心としたそのグループは、早くも色めきだっているようだ。


 ゆきくんの言葉を借りるなら、陽キャの集まりって感じなのかな。


 綺麗な子やかっこいい男子も多いように見える。みくりちゃんもいるのは流石のコミュ力。


 新しいクラスでまだ雰囲気も掴めていない人も多いのに、あんなに騒げるなら、きっとこの一年はあのグループがこのクラスを引っ張っていくんだろう。


 そんな予感がするけれど、それが私にとってどんな意味を持つことになるのかは、まだわからなずにいる。


 そのグループの中心にいるのは、私にとってある意味天敵ともいえる子なのだから。






「天華ちゃん…」




 つい名前を呟いてしまうくらいに、思い入れがある女の子。


 そして私の幼馴染であり、恋人であるゆきくんが、昔好きだった女の子だ。


 来栖天華という、私がかつて断罪し、見捨てることになったあの子が、再び私達の前に現れたことをどう捉えるべきなんだろう。




 いい方向に向かうのか。それとも悪い方向へ?


 …どうなんだろう。少なくとも、その決定権を握っているのは私ではないことは確かだと思う。




 やっぱり、運命なんだろうか。


 もう交わることがないと思っていた彼女と、こうして同じクラスで最後の一年を過ごすことになったのは。






 一年生の頃、彼女と道を違えた後、天華ちゃんは髪をバッサリと切っていた。


 あの子の中で、なにか心境の変化があったのかもしれないと密かに思っていたけれど、二年生になると人を避けるようになり、孤立し始めていたことは知っている。


 そのせいで、裏で影口を叩かれたりしたことも。私はそのことを知っていたけど、なにもすることができなかったことが、心のしこりとして残ってる。




 私のせいで、幼馴染が傷ついていることがわかっていたのに、それでも手を差し延べることは、もう許されるはずもなかったから。




 だけど、天華ちゃんは…あの子は私が思っているより、ずっと強い子だった。




 二年生の終わり頃には、モデルとして人気が出てきた天華ちゃん。


 そのことで再び彼女の周りに人が集まり始めて、今はでああして囲まれても、笑うことができている。


 髪も伸びてきて、今じゃ一年生のときとほぼ同じ長さだ。


 それがまるで、彼女の成長を表しているようで、眩しいような切ないような…うん、ダメだ。


 私の言葉では多分、うまく言い表すことができそうにない。




 でも、一つだけ言えることがあるとすれば。




「頑張ったんだね、天華ちゃん」




 ひとりでも、笑うことができるようになったんだね。


 かつての天華ちゃんが、大きくなって、また私達の前に戻ってきたんだ。




 そのことだけは、ただ嬉しかった。

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