第79話 三年生
あれからだいぶ時間が流れた。天華との別れからもう二年近く経つ。
その間いろんなことがあったけど、俺と琴音は相変わらず寄り添い、ずっと近くで寄り添いながら、学校生活を送っていた。
いい記憶と悪い記憶。それはきっと人それぞれで、時間が経てば自分のなかで昇華され、いずれ笑い合うことができるようになるのかもしれない。
ただ、俺たちと天華の間にある壁は未だ崩れていない。少なくとも二年の間はそうだった。
クラスが別だったということもあるけれど、一言も会話を交わした記憶はない。
それは仕方ないことで、俺が望んだことでもあったけど、アイツの姿を見かけるたびになにかしら思うところがあったのは確かだった。
それは痛みか、郷愁のような切なさか。それは今でも分からない。
確かなことは俺たちは三年生になり、あと一年もすれば高校を卒業するということ。
進学先も今の段階で大方決めており、そこには琴音も一緒の予定だ。
もちろん、天華がどこに行くのかは知らない。向こうも知る気はないだろう。
俺たちの道はもう別れており、互いにもう関わりあうこともないことは承知の上のはずだから。
だから卒業式の日を迎えた時。そのときがきっと、本当の意味で天華と別れになるだろう。
あと一年。それは短いようで、ひどく長い気がした。
三年生になったからといってなにかに期待しているわけじゃない。むしろ変化はいらないし、琴音が側にいてくれるなら、俺はそれで良かったのだ。
「ゆきくん。クラス分けの張り紙、もう張り出されているみたいだよ」
「お、ほんとだな」
迎えた三年目の春。俺と琴音は朝の学校、クラス分けの紙が張り出された掲示板の前にいた。
うちの学校は三年になってもクラス替えが存在し、こうして毎年多くの生徒たちが自分がどこのクラスなのか覗き込む姿が見られるのが、春の風物詩となっているらしい。
見知った顔も多く、友人と同じクラスになれたことを喜ぶ生徒。違うクラスになってしまい、慰めあう女子たちなど、様々な光景が見て取れた。
桜吹雪の舞うなかで見るそれらは、きっと俺の記憶に焼きついていくことだろう。
なんとなく青春という感じがして、俺はこの光景を自分の中に残しておきたかった。
「あ、私とゆきくんは同じクラスだよ!良かったぁ。あ、西野くんたちも一緒みたい!」
思わず見とれていると、琴音の弾む声で我に帰る。
彼女はもう名前を見つけていたらしい。なんとなく申し訳なくなるけど、西野たちも同じクラスなことは俺にとっても朗報だ。喜びの気持ちのほうが強かった。
「そっか、良かった。どのクラスだ?」
「うん、えっとね。三組で―――」
その時、大きな風が俺たちの間に吹いた。春一番だろうか。
ザァッという音を立て、周りの桜が大きく揺れる。
「キャッ!」
「大丈夫か、こと―――」
そこで、俺は見た。
こちらをじっと見つめる、天華の姿を。
今の彼女の髪は以前見たときより伸びており、一年の頃の長さに近づいているように思えた。
「ふぅ、驚いたぁ…どうしたの、ゆきくん?」
琴音が聞いてくる。どうやら彼女は気付かなかったようだ。
それなら、それでいい。そのほうがきっといいはずだ。
「なんでもない。で、どこのクラスだっけ?」
「うん、あそこだよ」
そう言って、琴音がクラスを指差す。どうやら3組らしい。確かにそこには俺や西野、そして琴音の名前があって―――
「あっ…………」
そして、天華の名前がある。
俺たちの間を、また大きな風が通り抜けた。
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