第72話 ツンデレ幼馴染の告白は受け入れられない
「じゃあ答えろ天華。さっき言ったこと、あれは本当なのか?」
俺は天華に問いかけた。目を合わせることはもちろんしない。
こいつの濁った目を見ていたら、俺まで引きずりこまれるような錯覚を覚えるのだ。
天華にはそんな自覚はないのだろうが、だからこそタチが悪いと言える。
「西野くんのこと?本当だよ、私は彼のことは別に好きじゃないの。イケメンだしいい人だとは思うけど、好みのタイプじゃないし」
「…そうかよ」
満面の笑みを浮かべた顔から、どうしようもなくクソな回答が返ってきた。
自分はなにも間違ってはいないと確信しているのだろう。その傲慢さに虫唾が走る。
飽きるほど聞いてきた声だというのに、今はもう嫌悪感がひどかった。
この気持ちをどう表現すればいいんだ?分かるやつがいるなら、今すぐ教えてくれ。
俺の頭じゃとてもじゃないが思いつかない。どうしようもなく胸がムカついて仕方ないんだ。
西野が好きじゃないっていうんなら、俺はなんで振られたんだ?
しかもあんなにこっぴどく罵声まで浴びせられて、罵られて。
俺の気持ちは、俺の勇気はいったいなんだったんだ。
それに、付き合えるように協力しろとも言われたな。
頷いた俺も俺だが、あれも嘘だったのか。だとしたら、やっぱり琴音の言ったとおり、天華は自分に都合のいいことしか言っていないのだろう。
告白して振られた、あの時から。いや、琴音への本音も考えると、もっとずっと前からか。
天華の言葉は、嘘だらけだ。
「じゃあもうひとつだけ答えろ。西野が好きじゃないっていうなら、なんで俺に協力しろなんて言ったんだ。そんな必要なんてなかったろ、あれも嘘だったのか」
「…それは」
「答えろ、天華」
ここにきて天華は言い淀んだ。だけど、考える暇なんて与えるものかよ。
言いたくないという雰囲気がプンプンしてやがる。目をそらし、眉間に皺まで寄せている。わざとらしい。
それも演技じゃないのかと疑ってしまう。このままじゃ疑心暗鬼になりそうだ。
さっさと言わせないと、どうせ碌でもないことしか言わないに決まってる。
「これ以上不愉快にさせるな、俺が知りたいのは真実だけだ」
「わ、わかったわよ。だからそんな目をしないで、怖い顔もしないでよ。ちゃんと言うから…」
しおらしい様子を見せる天華。学校の男子が見たら、きっと息を呑むことだろう。普段学校で見せる凛とした天華からはかけ離れた姿だった。髪はボサボサで、制服も汚れているけど、それが逆に天華から女性としての弱さを引き出すのに一役買っていた。
前髪も弄り出し、もじもじと身をよじらせるその姿に、男なら本能的に庇護欲を掻きたてられることだろう。
もっとも、今の俺には計算高い女がわざとそうしているようにしか見えないが。
顔がいいっていうのは得だな、本当に。
「あのね、あれは雪斗を試したのよ」
「…試しただと?」
ようやく口を開いた天華の言葉に、俺は眉をひそめた。
試す?なにをだ。なにを試すっていうんだ。疑問が次々沸き上がる。
そもそも前提がおかしい。俺は自分の気持ちを正直に伝えたのに、お前はあんだけボロクソに言って振っといて想いを拒絶しただろうが。
そこで俺とお前が恋人になる可能性なんて絶たれたはずだ。幼馴染としての繋がりもなくなっていてもおかしくなかった。だというのに、なにを試す必要がある。そもそも試されるほど、俺はお前に信用されてもいなかったのか。
「雪斗の気持ちが本物かどうかよ!雪斗の気持ちが本物なら、私に好きな人がいようと関係ないはずでしょ。実際雪斗は私に協力してくれたし、買い物にも付き合ってくれた。それに私を助けようともしてくれたじゃない。これまでのことで、雪斗の気持ちは充分分かったわ。雪斗が私のことを本当に愛してるんだって!雪斗の気持ちが本物だって、私やっと分かったの!」
「…は?」
なんだ、なにを言っている。
「琴音とのことは、見逃してあげる。雪斗の本命は私だものね。琴音は私に負けたんだから、モールに買い物行ってたり最近朝も一緒だったことは許してあげるわ。寛大な私に感謝してよね!」
こいつ、なにを言っているんだ。
「さぁ雪斗、私と付き合いなさい!私のファーストキスまであげたんだから、嫌とは言わせないわよ!琴音の前でハッキリいってあげて!私のことが好きだって!」
「…………」
「…天華ちゃん、あなた…」
頭が、冷めていく。体も心も燃えるように熱いのに、頭だけが冷え込んでいく。
琴音の言葉も、聞こえない。
「さぁ、雪斗!」
これはあれだな、怒りがいよいよ限界を超えたらしい。あんまり怒りすぎると逆に冷静になるっていうしな。うん、多分そうだ。
「雪斗!」
さっきからうるせぇよ
喚くなよ、全部聞こえてんだよ。お前の訳分かんねぇ世迷言ってやつは。試練を与えただったか?俺の気持ちを試しただって?俺は限りなく真剣だったんだがな。天華にはそう思えなかったのか、そうかそうか。
それでその試練とやらに、俺は合格したんだろ?そりゃめでたいな。ハハハ。
これ天華流のジョークってやつなのかな。笑えばいいところかこれ?
「…分かった、ハッキリ言ってやる」
じゃあ答えてやるよ。その輝いてる目は、きっと理想のハッピーエンドでも夢見てるんだろうな。
なら望み通りのことを言ってやる。
「俺はお前とは付き合えない」
ほら、これが聞きたかったんだろ
これが俺の答えだ。笑えよ、天華
「え……ウソ、でしょ…」
嘘?お前じゃないんだ。ここで俺が嘘つくメリットなんざ、なにもないだろうが。そんなこと分かりきってるのに、なに意外そうな顔してるんだ。そもそもこれはお前が俺に言ったことだろ。
確かにちょっと前ならモヤモヤは残りつつも喜んだかもしれないが、今は違う。
俺がこの結論を出すに至ったのは全部お前のおかげなんだぜ。
お前が俺を振って俺を試したというのなら。
振られた俺にだって、考える時間はちゃんとあったんだ
その時間と機会をくれたのはお前だ、天華
「じょ、冗談よね、雪斗?照れ隠しなんでしょ。いくら嬉しいからって、そういうのよくないわよ!」
金切り声を天華が上げた。虚を突かれたのか、ガキみたいな取り乱しようだ。
俺が変わらないと思ったのか?あれだけのことをしておいて、俺はお前をまだ好きなままでいると思ったのか?
そもそもお前、謝ってもいないじゃないか。普通、試すことをしてごめんなさいっていうのが先だろ。
自分が悪かったって、なんで言えないんだ。試したことで、俺が傷つかないとでも思っていたのか。俺の意思はどこにいった。
よく分かった。こいつは、天華は俺のことを見ちゃいない。
自分のことしか見ていない。
そんなやつと付き合うなんて、俺にはできない。できるはずがないんだ。
恋人って。付き合うって。そういうのじゃないだろ
だから
俺にはもう、無理だ
「俺はお前が嫌いだ、天華」
人を舐めるのも大概にしろよ。
「この、クソ女が」
お前への愛情はもう、消え失せた
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