第22話 ほんの少しのデレ要素

「ご馳走様、美味しかったー!」




そう言って砂浜さんはお腹をポンポンと叩いている。


休憩が終わった後、俺たちは課外授業の一環として班ごとにカレーを自分たちで作り、それを食べ終わったところだった。


俺も一応料理の心得は多少あったので、作るのは苦ではないため、積極的に手伝っていた。




意外だったのは天華がかなりの料理上手であることが判明したことと、西野が案外不器用で、やれることが食器を並べることくらいしかできないことが分かったくらいだった。


じゃがいもを切るのも存外下手くそで、大きさもバラバラだったときは思わず手を貸してしまったくらいである。


リア充の意外な弱点を発見してしまい、少しだけ嬉しくなってしまったのはここだけの秘密だ。




とりあえずカレー作りに成功し、みんなが満足したようでなによりだが、俺にとってはここからが本番である。俺はゴクリと生唾を飲み込み、天華へと話しかけた。




「うん、美味しかったよ…天華って、料理上手かったんだな」




「へっ!?」




俺の言葉に天華は露骨な反応を示す。


ビクリと肩を震わせると、驚いた目で俺を見つめていた…そんなに驚くようなことを言っただろうか?




「はぁっ!?な、なんでアンタに褒められないといけないのよ!」




「いや、正直な感想を言っただけなんだが…」




実際味付けを含めたカレー作りを主導したのは天華だし。


東さんや佐山はサラダやご飯を炊くことに割り振られてたし、砂浜さんは西野同様戦力外だった。


必然俺は天華と一緒に野菜を切ったり炒め物をしたりと、お互いが近くにいることになったのだが、ほぼ話すことがなかったのが不満といえば不満ではあった。


話しかけるなというオーラを天華が発していたのが原因だが、空気が緩んだ今がチャンスだと思い、俺は天華に話しかけてみたのだ。




その結果は予想以上だったけど。


なんというか、普通に怒られてショックである。


そんな中で、砂浜さんがまた焦ったように天華に話しかけていた。




「いやいやいや!落ち着きなよ天華!ほら、ほんとは嬉しいんだよね!」




「え?い、いや、そんなこと…」




「というか天華ちゃんって浅間と知り合いなの?天華ちゃんは浅間に対してなんか態度違うし、浅間は浅間で天華ちゃんのこと呼び捨てしてるし」




その話に割り込んできたのは東さんだ。


どこか目をキラキラさせており、顔には喜色が浮かんでいる。


単純に俺たちの事情に興味深々といった様子で、俺と天華を交互に見比べていた。




「えっと、俺と天華って同じ中学だったんだよ。その繋がりでさ」




「あー、なるほど!そういうのね!いいじゃん、なんかロマンあって」




今日何度目かの説明を、東さんにもすることにした。


少なくとも彼女の中では俺たちの関係は悪印象ではないらしい。


こちらとしても正直助かる。敵意を持たれるよりはよっぽど良かった。


だけど肝心の天華はどこか不満げに口を尖らせている。なんでだよ…




「同じ中学…幼馴染なのに…」




「ねぇねぇ、天華ちゃんって浅間のことどう思ってるの?ひょっとして運命感じてたり?」




「うぇっ!」




ブツブツなにか呟いていた天華に、東さんがとんでもない爆弾をぶっこんできた。


俺も思わず声をあげてしまうくらいには、それは俺と天華にとっては劇薬でありタブーだった。




(お、俺がずっと聞きたかったことをこうもあっさり…)




これがリア充の力なのか。あるいは空気を読んでいないだけかもしれないが。


だが覆水は盆には還らない。それに俺としてもそれは気になるところでもある。




正直、ずっと興味はあったのだ。


天華が俺をどう思っているのかについて、本人に聞いたことなどない。


聞くのが怖かったし、そもそも嫌われてると思っていたからだ。




「え、えっと、私は…」




「うんうん!」




期待の視線を寄せるのは女子陣だけではなく、佐山や西野も固唾を飲んで天華のことを見守っている。どうやら他人の恋愛事情とやらは、男女関係なく興味があるものらしい。




しばらく視線を宙に彷徨わせた後、逃げることはできないと悟ったのか、観念したように天華が口を開いた。




「き、嫌いじゃないわ…」




「へ…?」




「嫌いじゃないって言ったの!充分でしょ、これで!」




そう言って天華は立ち上がり、食器を持って洗い場に向かって歩き始めた。


後ろ姿しか見えないが、耳は真っ赤になっているのが見て取れる。


つまりこれって…そういうこと?




(俺は…俺は天華に嫌われていなかったんだ!)




さっきまでの気分が吹き飛んだかのように、俺は一気に有頂天になっていた。


少なくとも嫌われてはいないのだ。それがわかっただけでも充分な進歩だ。


思わずガッツポーズをとりそうになるが、そこはさすがに自重した。


何故かは知らないが、他のメンバーから生暖かい視線を寄せられていたからだ。




「えっと、なに?そんなジロジロ見られると困るんだけど…」




「いやあ、青春してるなって思ってさ」




西野がそう言って俺の肩をポンポン叩いてくるし、佐山は「こういうのラノベの世界だけの話だと思ってた…」なんて呟いている。


砂浜さんは何故か感慨深そうにウンウン頷いてるし、東さんはスマホで誰かに連絡してるのか、ひたすら操作しているようである。




なんともいえないカオスっぷりだ。


事情を把握仕切れない俺は、思わず首をかしげるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る