学校1の美少女が歌でバトルを仕掛けてくる

ドゥギー

第1話 短歌のコンテストで優勝してしまった

黄昏に 君が眺める 空の雲 僕の足元 影を踏む


 職員室の外にある掲示板に掲げられた一句の短歌。短歌の上には「金賞」の文字が。この短歌、見覚えがある。掲示板の下の方に目を見やると、


 2年9組 石川琢真


 間違いない、俺の名前だ。全校で行われた短歌コンテストにおいて、適当に考えたものが金賞に選ばれるとは……


 恥ずかしさのあまり、その場を去ろうすると、ツインテールの女子が職員室に向かってきた。その女子は勢いよく職員室の扉を開けた。


「先生! なんで私の作品が金賞じゃないのですか!」


 大きな声で教師に訴える女子。俺は彼女を知っている。俺だけじゃない、うちの高校で彼女を知らない生徒はいないであろう。


 与謝野奈緒、うちの高校の生徒会副会長であり、容姿端麗、成績優秀、運動神経抜群と才色兼備の有名人だ。そんな学校1の美少女が顔を紅潮させて教師にクレームを訴えている。


「あ、あのな与謝野。これは厳正な審査の結果であってな」


 教師の一人が与謝野をなだめようとしている。ただ、あの言い方ではダメだろうな。


「厳正な審査ですって? どういう審査をしたら、あんな駄作が金賞で私のが佳作にも入らなくなるのですか?」


 与謝野さんはますます興奮する。先生、火に油を注いでしまったな。すると与謝野さんを説得しようとした教師と俺は目が合ってしまった。俺は一瞬目を背けるが、教師を手を挙げる。


「おい、石川。なんとか与謝野を説得してくれ」


 なぜ俺に助けを求める、ヘボ教師? 与謝野さんが素早く後ろを振り向き、俺を睨みつける。美少女のカケラもない鬼の形相だ。


「石川君? 誰、あなた?」

「ど、ども。石川です」


 与謝野さんとは同じ2年だが、一緒のクラスになったことないし、部活も違うので彼女が俺を知らないのは当然か。しかし、彼女の迫力に押されつい敬語になってしまった。彼女は掲示板を眺めてから、再び俺を睨む。


「石川って…… ああ、あなたが金賞の人ね。ねぇ、私に金賞譲ってよ」

「ま、俺も適当に作ったものだし、いいけど」

「え、本当? ありがとう! 優しいのね」


 一転、与謝野さんは満面の笑みを浮かべる。うわっ、まぶしい。与謝野は反転して教師に話しかける。


「ということで、石川君が金賞を譲ってくれたので、飾り直してください」


 与謝野さんは教師に対しても満面の笑みを浮かべた。しかし、教師は顔をしかめている。


「ただ、あの句では……」


 掲載するのをためらっている? 俺は与謝野さんの作品が気になり始めた。


「先生、なんで与謝野さんの作品はダメなのですか?」


 俺は教師に問い合わせてみた。すると与謝野さんが目を見開く。


「あら石川君、私のこと知ってるの?」


 与謝野さんは俺が自分を知っていることに驚いていた。


「そりゃ、生徒会副会長だから。生徒総会とかで壇上に立っているでしょ?」

「あ、そうね。はははは」


 この娘は天然か? 彼女の笑った顔を見た俺の心臓が一瞬ドキンと高鳴った。


「ところで、与謝野さんの作品ってどんなの?」

「聞いてみる? 私の最高傑作」


 与謝野さんがドヤ顔を浮かべる。


「くらいなさい、私の傑作!」


 獣たち 心奪いし 美の化身 我が身ひれ伏す 全ての男子


 俺は口角を下げてしまった。先生の顔も同じ表情だった。一方、与謝野さんは口を尖らせる。


「何よ、その残念そうな顔は?」

「どう考えても、残念でしょ」

「バカッ!」


 バチッ!


 与謝野さんは俺の頬を平手打ちで引っ叩き、走り去っていった。俺は叩かれた頬に手を当てる。


「石川、すまんな」

「先生……」


 俺は無責任な教師を睨みつけた。


俺はこれから熱き戦いの渦に巻き込まれるとは微塵にも思っていなかった。


 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学校1の美少女が歌でバトルを仕掛けてくる ドゥギー @doggie4020

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ