革命前夜の婚約者たち

@_noname

第1話 ユーリー

 夏。ユーリーは故郷の港町に帰っていた。士官学校を卒業し、これから前途有望な若者の、まだ何者でもない束の間の期間だ。


 この街は変わらないな。ユーリーは船を降りて港を見渡した。貿易で発展した街。屈強な労働者たちの姿が見える。船の荷物を下ろす労働者たち。荷降ろしの高賃金を求めて腕力に自身のある男たちが出稼ぎにやってきている。


 ユーリーは港の近くのある貿易会社を訪れた。ユーリーの父が経営する貿易会社だ。


「ユリウス!よく帰ってきたな。卒業おめでとう」


  *


 その日の夕食後、ユーリーは父に話があると言われた。


「お前に縁談の話があるんだ。お前がその気があるなら、悪い話ではないと思う」


 寝耳に水だった。確かにユーリーは18歳、士官学校を卒業してもうすぐ士官になる。縁談の話があってもおかしくはない。


「まさか父さんから縁談の話を持ちかけられるとは思わなかったよ。だって父さんってそういうのいかにも好きじゃなさそうだし」


「確かに。俺は自由恋愛で結婚したし、最近は親が決めた結婚なんて流行ってないしな。だが悪い話じゃないんだ。相手は高級将校のエリート家系の娘さんだ。お前がこれから入ろうとしている軍隊ってのは、実力があってもコネや血筋がなければ出世できない世界だと聞く」


「それって婿養子になるってことだよね。正直考えたこともなかったよ」とユーリー。


「別に強要するわけじゃない。これは父さんからお前への最後のプレゼントだ。お前が自分で決めろ。これまでしてきた通りな」


  *


 翌日。ユーリーは子供の時からあるきなれた近所の海岸沿いを歩きながら考えていた。


 自分には恋人もいない。これからできるかどうかもわからない。そもそも恋愛というものがよくわからない。いつか結婚するのなら、すぐにしても問題ないだろう。


 商人の息子であることで、士官学校で疎外感を感じることはあった。婿養子に入ることで、その疎外感から逃れられるのならば、悪い話ではない。


 父は「最後のプレゼント」だといった。遺産の相続はすべて他の兄弟に遺される。その代わりに、持参金を用意してくれるのだ。


 ユーリーは決めた。前向きに考えて、相手に会ってみよう。それから婚約するかどうかを決めればいい。

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