第29話 ヴァンパイアの血族
「あ、あまりその……見ないで頂けると嬉しいのですが」
「おっと、すみません!」
「いえ……別に日六くんですから構わないんですが、ちょっと気恥ずかしくて」
白い肌にポッと染まる赤がとても色っぽい。
おいおい、てかよく考えたらここ……大人の女性の部屋なんだよな。
部屋中に花でも咲いているかのような淡い香りが漂い、近くには大きめのベッドがある。
意識するなといっても、この部屋の中には俺と真鈴さんしかおらず、思春期の男子といてはやっぱ妄想を広げてしまう。
「日六くん?」
「ひゃい!」
「ふふ……もしかして緊張していますか?」
「い、いやだって……緊張しますって」
「……それって、私を意識して頂いていると思ってもいいんですか?」
そう言いながら潤んだ瞳で顔を近づけてきた。
「ちょ……あ、あのぉ……真鈴さん、近いんですけどぉ」
「ちゃんと答えてください。私の目を見つめて」
ああもう! 何でこの人、こんなに色気あんの!? もし俺じゃなかったら、多分もう襲ってるぞ! いや俺もそろそろ限界なんだけど!
「と、とりあえず! 今は話をしましょう! 話を!」
「……もう、意気地なしなんですから」
だってこの人はしおんの姉さんなんだ。もしバレたら、姉に手を出したと言って殺されなけない。アイツ……ああ見えてシスコンだしな。この人もだけど。
「では……一緒にベッドに横になりながら話ますか?」
「理性が保てそうにないのでそっちのソファでお願いします」
この人はもう……少年をからかって楽しんでやがるな。
テーブルを挟んで相対する二つのソファに、それぞれ俺たちは腰を下ろす。
「では日六くんのお話をお聞きしましょうか」
「はい。いろいろ聞きたいことがあるんですが、まずは真鈴さんは『異種事案対策理事会』のことは知っていますか?」
「当然です。日本に住んでいて知らない『異種』はそういないはずですよ」
やはり知っていたか。なら……。
「当然『妖祓い』という仕事についても?」
「! ……もしかして日六くん、彼らに接触したんでしょうか?」
「結果から話しますと、その通りです」
「そう……ですか」
「まあ接触といっても、ほとんど事故的な感じでしたけど、ダメ……でしたか?」
「いえ、私たちと交友していると、必ず関係してくる者たちですから」
「……真鈴さんたちは『妖祓い』に追われたことがあるんですか?」
「誤解してもらいたくないのは、すべての『妖祓い』が私たちのような『妖』と呼ばれる『異種』を祓うために動いているわけじゃありません」
「はい、知ってます。妖と人間との懸け橋になったり、妖が安全に住める場所を提供したり、双方の安全を汲む仕事をしていることも理解してるっす」
「どうやら『妖祓い』について詳しいことは教える必要ないようですね。ただ中には、妖を嫌う『妖祓い』も存在し、かつて私たちも襲撃された事実はあります」
やはり過激派な『妖祓い』もいるようだ。ソラネも妖はあまり好きじゃないって言ってたが、問答無用で討伐するというタイプじゃないのがせめてもの救いか。
「それでですね。俺が出会った『妖祓い』が言うには、この街で吸血鬼が潜伏しているから、調査して和解、できなければ……」
「討伐……でしょうか?」
「! ……はい」
真鈴さんの表情に変わった様子は見当たらない。こういうことも想定しているってことか?
「……その、依頼についてですけど、『理事会』直々のものだというんです」
「! ……それは変ですね。私たちは『理事会』にちゃんと届け出をして、この街に住んでいますから」
「やっぱそうですよね」
思った通り、真鈴さんの存在をすでに『理事会』は把握しているようだ。
「ということは、『理事会』が求めている吸血鬼は真鈴さんたちじゃ……ない?」
「その目標とされている吸血鬼の情報をお聞きしても?」
「一応目撃者がいて、対象は黒い翼を持っていて吸血鬼の純血種としての波長を持っていたと」
「私たち以外の純血種……ですか」
真鈴さんが顎に手をやって思案顔を浮かべる。俺は彼女が出す解答を待つ。
「……申し訳ありませんが、そのような情報は私には入ってきていませんね。ただ吸血鬼の純血種の波長は非常に特徴的ですから間違うわけもないんですが……」
「真鈴さんの身内には?」
「純血種は私としおんだけです。少なくとも夜疋家には」
「他に吸血鬼の一族はいないんですか?」
「……以前、日六くんには我々のルーツがルーマニアにあることはお伝えしましたよね?」
「はい。それでその祖先が日本に渡ってきて、子孫を反映し夜疋家が生まれたって」
「その通りです。ですが実は分家……とも言えるヴァンパイアの血筋が存在するのです」
「えっ……マジっすか?」
だったら何故前に説明した時に言ってくれなかったのか。
いや、よく見たら真鈴さんはとても言い辛そうな表情を浮かべている。何か口にするのも憂鬱な何かがあるようだ。
「祖先がこの地に降り、ヴァンパイアの血を残そうと他種族と交わり子を為しました。そして授かった子供は双子だったのです」
「双子……」
「運の良いことに、二人ともが純血種として誕生し、その身に絶大な力を有していました。祖先に匹敵するほどの」
真鈴さん曰く、祖先は今でいうところのSランクに相当する実力だったらしい。
その祖先と同等ということなら、妖の中でも最強クラスの地位にいたのだろう。
「しかし理由はハッキリとは分かっていませんが、双子の兄の方が乱心し祖先を……殺してしまったらしいのです」
「えぇ! お、親を殺したんですか!?」
「はい。当然弟は、闇と狂気に支配された兄を討伐するために『夜を喰う者』――『夜喰』を組織しました」
「ヤジキ? それって……」
「後に私たちの苗字となる『夜疋』の原点ですね」
似ているからそうじゃないかと思ったら、やっぱそうだったみたいだ。
「ですが兄の方も黙ってやられるつもりもありませんでした。彼はたった一人で『夜を統べる者』――『
二つの勢力が激突した結果、兄の方は弟に敗れてしまったのだという。
「そして『夜統』は殺された……とされています」
「あ、殺されたんですか?」
「はい。ただ……彼には子供と妻がいたのです。二人には罪はないといっても、一族が出した答えは追放することでした」
「それは……」
何とも言えない複雑な気持ちだ。
『夜統』に加担していなかったか、そもそも暴走自体知らなかったのか分からないが、それでも祖先を殺した者の家族だ。一族内に置いておくわけにもいかなかったのは分かるが、それでも二人のことを思うと厳しい処罰のような気がする。
「もしその『夜統』の血を引く者たちが、今も生きているとしたら……」
「この街に潜伏している可能性だってある?」
コクンと真鈴さんは首肯する。
彼女が何故話辛かったのか分かった。確かにこれは身内の恥になるような話題だ。『異種』でもない人間の俺に普通なら話すようなことじゃないだろう。
「でも今まで、一度もその存在が確認されてないんですよね?」
「少なくとも私たちは知らないですね」
だとしたら可能性としは低いんじゃないだろうか。
仮に生き残っていたとして、『夜統』が世に出ているのなら、さすがに『理事会』が把握しているような気がする。
それとも今の今まで、人の手が入らない秘境などに住み、その存在を隠し続けていたのなら別だが。
だったら何故今頃になって出てきたのか、という疑問も浮かぶ。
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