第28話 真鈴さんの部屋に訪問
「でも『理事会』が接触しようとしたところ、その吸血鬼は逃げた。だからこそ探してる」
だとすると、少しおかしなことがある。
しおんや真鈴さんは、この街に住んでから結構経っているのだ。しかも一か所に移り住んで。
真鈴さんは、人間に正体がバレることを恐れているが、元々吸血鬼の存在を知っている『理事会』の接触を避けるだろうか。
別に『理事会』は問答無用で、『異種』を排除するような組織じゃないことは分かっている。
下手に身を隠すより、ここに住んで人間社会に適応していますよと示した方が、『理事会』にとっても『異種』にとっても安全だ。
しおんたちは平和に過ごすことを望んでいるし、わざわざ問題を起こすような行動を取るとは思えない。
…………あ!
そこでふと思ったのが、俺が無人島にぶっ飛ばしたオッサンのことだ。
アレも血は薄いが、間違いなくヴァンパイアだったはず。
あのオッサンや、その部下たちが何かしら目立つ騒ぎを起こした? だから『理事会』に目を付けられてしまったのではないか?
……いや、違うか。この依頼はあくまでも対象を純血種としている。となれば、やはりしおんか真鈴さんの存在が認知され、その行方が知れないということになっているはず。
でもなぁ、しおんたちはあの家にずっと住んでるし、『理事会』だって何年も追ってるなら、さすがに居場所くらい突き止めてても不思議じゃないんだけど……。
考えていくと、益々不可思議な状況だ。納得のいく答えがまったく見つからない。
たった一つ、考えられるのはしおんたち以外の純血種の存在だが……。
「……なあ、もう一度聞くけど、マジで純血種の吸血鬼がいるって『理事会』は言ってるのか?」
「え? 資料には……『吸血鬼と思わしき存在が潜伏している可能性あり。至急調査願う』……って書かれてるわね」
そうだ。俺も再度確認してみたが、間違いなくそう書かれている。
「吸血鬼と思わしきって、吸血鬼じゃない可能性だってあるんじゃねえの?」
「……確かに。けれど思わしきってことは、吸血鬼に匹敵するような妖であることは間違いないでしょ?」
「まあ……な」
だが吸血鬼じゃないことも有り得るのは事実。
……これは下手に探すより、一度真鈴さんに話を聞いた方が良いかもな。
しかしもちろんコイツを連れて行くわけにはいかない。
「資料には被害は出てねえって書かれてるけど、実際のところどうなんだろうな」
「そうね。『理事会』が注目するほどの『異種』だし、バレないように人を襲っている可能性だってあるわ」
「もし襲ってたら?」
「……取り押さえなきゃね」
「討伐はしない……のか?」
「本当にどうしようもない時は……覚悟をしなきゃならないわよ。……けど、できるだけ穏便に終わればそれが一番良いもの」
「……ソラネは確か妖を嫌ってんだよな?」
「違うわよ。確かに過去に妖に襲われて苦手な相手ではあるけど、妖の中にはとても良い妖だっていることも知ってる。だから問答無用に討伐したりなんかしない。だって妖……ううん、『異種』と人とを繋ぎ合わせることもまたアタシたちの仕事だもん。アタシはそれを誇りに思ってる」
思った以上に、ソラネは自分の仕事と向き合っているようだ。
トラウマを抱えているくせに、強い奴だと感心させられる。
「そういえばソラネって何で『妖祓い』になったんだ? やっぱり家がそういう家系だったからか?」
「それもあるけど……実はねアタシ、憧れてる『妖祓い』がいるのよ」
ほうほう、そんな人がソラネにいたのか。
「その人はね、小さい頃にアタシが妖に殺されそうになった時に助けてくれた人で、『妖祓い』の中でもトップクラスの実力者の持ち主なのよ」
「なるほど。じゃあソラネはその人みたいに、ってな感じか?」
「そうね。いつか会って、ちゃんとお礼を言って、あなたのお蔭でこんだけ強くなれましたってのを見せてあげたいの」
尊敬する人物に認めてもらいたい。それがソラネの『妖祓い』を続ける根源になっているのかもしれない。
「話を戻すわよ。資料によると、目撃者がいるようね。ちょうどその人物が『理事会』に所属する『妖祓い』で、黒い翼を生やした人影が宙に浮いていたところを見たそうよ。話を聞こうとしたけど、その人影は逃げるように去っていった」
「でも何でその人影が吸血鬼かもって思われたんだ?」
「『妖』にはそれぞれ特有の波長というものがあってね。それが非常に純血種の吸血鬼のソレと似通っていたらしいのよ」
「なるほど。それでか……。似たような波長を持つ『異種』はいねえのか?」
「いたら他の『異種』の名前を連ねてるんじゃない?」
それもそうか。つまり『理事会』も、ほぼほぼ純血種の吸血鬼だと確信しているようだ。
つーことはやっぱしおんか真鈴さんか……。
日付を見れば、そう前の話でもないし、彼女たちに聞けば何か分かるかもしれない。
それから俺たちは、ソラネの先導で街中を見て回り、例の目撃があった夜はネオン街となる場所までやってきていた。
何人かに『異種』の存在を見たか聞いて回ったが、実になるような話は聞けない。
一時間、二時間と時間は過ぎていき、結局目ぼしい情報はゲットできなかった。
「そろそろ日も暮れるな。今日はもう諦めた方が良くないか?」
「……そうね。悔しいけど、こういう調査は地道にするしかないもの。また次の休みに頑張りましょう!」
「え……」
「何その嫌な顔は」
「いやぁ、別に次も休みが潰れるのかぁ、なんて思ってねえよ?」
「思ってんでしょうがそれ!」
あ、バレた? だってなぁ、休日は休む日って書くんだぞ? 働いていることがおかしいんだから。
「ったく、ちゃんと働いてくれてる分の給料は出すわよ」
「は? 俺、金もらうの? いいよ別に金なんて」
「そういうわけにはいかないわよ。私はこれでも一応プロだもの」
「見習いだけどな」
「うっさいわね! だからちゃんと給料は出すの!」
「いやいや、友達から金なんてもらえねえって」
「こっちだって譲れないわよ!」
こういう時、絶対に引かないのがソラネだ。だったらここは交渉するしかない。
「なら金以外のもので支払うってのはどうよ?」
「へ? お金以外?」
「ああ。そうだなぁ……何か美味いもんを食わせてくれる、とか?」
「え……それだけでいいの?」
「てかそれで十分だっての。大体俺の立場を考えてみろよ。俺の意思で手伝ってるのに、友達から金受け取るんだぞ? お前だったらどうよ」
「……何か嫌ねそれ」
「だろ? だから別のもんでいい」
「…………分かった」
よし、これで契約成立だ。
「じゃ、じゃあ無事に仕事が終わったら、アタシがご馳走してあげるわ!」
「おう、楽しみにしてるわ」
それから俺たちはネオン街を後にし、俺はソラネを彼女の自宅まで送り届けたあと、《ゲート》を使って家に帰った。
そしてすぐに真鈴さんに電話をする。
しばらくすると真鈴さんが出てくれて、今話しても問題なさそうなのでホッとした。
「実はですね、真鈴さんに少し聞きたいことがあってですね」
「……それって大事な話ですか?」
「ええ、多分」
俺にとってはそうでもないが、真鈴さんやしおんにとってはそうだろう。
「……今すぐここへ来られますか、日六くん?」
「は? あ、まあ……俺は別にスキルを使えば一瞬なんで大丈夫ですけど」
「では来てください。あ、今しおんはちょっと出かけていますけど」
それなら都合が良い。
「いえ、できれば真鈴さんだけにまず話を聞きたくて」
「……分かりました。では私の部屋に直接来て頂いても構いません」
「あーでも真鈴さんの部屋の中には入ったことがないので、とりあえず部屋の前まで飛びます。周りには誰もいませんか?」
「ちょっと待ってください」
どうやら彼女は自室にいるようで、扉を開けて周りを確かめているようだ。もしかしたらしおんが帰ってきているかもしれないから。
「問題ありません。どうぞ、日六くん」
「じゃあ失礼します。――《ゲート》」
俺は彼女の扉の前に《ゲート》を開いて姿を見せた。
「本当に便利な力ですね、スキルというのは」
「はは、お邪魔します。じゃあ真鈴さん、さっそく」
「そうですね。どうぞ、狭いところですが」
いやいや、真鈴さんの部屋が狭いわけがない。何せ屋敷のようなところに住んでるんだから。
そして案の定、真鈴さんの部屋もまたかなりの規模を誇っていた。
しおんの自室は、どちらかというと可愛らしいファンシーさがあるが、さすがに大学生か、シックな感じで落ち着いた内装をしている。
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